2021
07.06

音質を徹底的に追究したソリッドステートパワーアンプ クリスキットP-35製作編の1

音らかす

回路の仕組みが理解出来た所で、いよいよ製作に入るわけだが、今迄にアマチュアの方々の製作のお手伝いをしたり、トラブルにぶつかって相談を受けた経験によると、あれだけ機会があるたびに述べて来ているにもかかわらず、実体図を見て、ただ、そこに絵として表わしてある通りに配線して、その上、全く不注意なハンダ付けをして、うまくゆかないと持ち込んで来られる方がビックリするほど多い。

何の為に編集室の取り計らいで、大切なスペースをさいていただいて、馬鹿丁寧すぎる位の記事にまとめて来たのかと思うと腹が立つ位である。

中には、ひどいのがいて、どうしても今日中に鳴らさなければというので日曜日の朝から、月曜日の午前8時迄かかって、文字通リー夜づけで、やっと出来上って、各部の電圧すら測らないで、いきなリスピーカにつないだら『バリバリと音がして、音楽が出て来ません』と、何ともやり切れない声で、電話を掛けて来た人がいる。

全く私の責任ではないのだが、記事を書いた手前、『貴方は少し頭がどうかしているのですか?』とも言えず、結局は本職をそっちのけで、私の事務所迄、来てもらって面倒を見させられるハメになる。

親切もほどほどに、という事務所の者の忠告も聞かないで、アンプのふたを取って見ると、一通り目を通しただけで、少なくとも三カ所位、間違っている。『何度もチェックしたので、誤配線はないと思うのですが……』必ず出るせりふである。ウソつけ!!

折角、徹夜をして作り上げた物が、うまくゆかぬ時の不愉快さは分かるがデタラメをやったのは御自分なのだからとはいうものの、ほうっても置けずさんざん苦労をして、手直しをして、ついでに測定までやって欲しいという顔である。

先生と言われる程の馬鹿でなし、とは実にうまく言ったものだ。こんなのに限って、やれやれ、という顔でアンプをかかえるようにして帰って行かれて、それからは電話一本かかって来ない。

もう二度と相手にしないと思ってはみたものの、また別のが現われると、また同じ事をくり返す。やっぱり先生と言われる奴は、馬鹿なのかな……

実体図は、とにかく初めてアンプを作る人にはもちろん、アマチュアにとって非常に便利である事は間違いないけれど、回路図も見ないで、ただ、絵に描いてある通りにアンプを作り上げて、とにかく音が出たと喜んでいるのも芸のない話で、それで『一発で鳴りました』とおっしゃるのも結構だが、やはり芸のない話だと私は常に思っている。

もっとも、プリアンプと違って、パワーアンプの製作はいたって簡単で、今迄にハンダごてを手にした事のない人でも、この記事を良く読んで、その注意書きに従って念入りに作業を進めて行けば、思ったより簡単に出来上がり、音質及び性能は、後に調整、測定編で述べるように、必ず満足の行く物が出来上がる。P-25の時の経験から自信を持って述べて置く。

物には順序。まずプリント基板から手掛けるわけだが、パターン及び部品配置図(第11図)の通りつけて行くのに左右各一枚当たり30分もあれば、出来上がる筈である。

第11図

但し、前もって抵抗は、カラーコード表とテスタを使って、一個づつステレオ用に、二組全部点検するのが賢明な策である。そして基板に取り付ける折りに、もう一度、テスタで当たるのも、あながち無駄な手数ではないと思う。

アマチュア用だという事で、30W位のハンダごてを使っている人を良く見かけるが、いろいろ実験して見ると温度の低いこてで、うまく付かないのを何度も何度もハングを付けていると、かえって部品を痛めたり、ハンダ付け不良を起こすものである。うまく付かなかったからというので、熱くなったコテ先で、ハンダの部分をこねまわしている人がいる。これでは部品が痛まない方がおかしい。

私の経験では、40Wのハンダごての方が、すばやくハンダが基板に溶け込むようである。写真3のこて先は、¥300.位はするが、特殊合金で厚手にメッキされているので、いつまでも先が痛まず、仕事がやり易い。写真4のように、リード線を基板に差し込んで箔面の方に出して足を外側に60度程倒して、その付け根の所に、ハンダごてを、リードと箔の両方に当てがって3秒程してから、そのポイントに糸ハンダ(40/60のロジン入りが一番うまく行くようだ)をくっ付けると、しみ込むように溶けて、ひろがるから、 こてとハンダの両方を離してからニッパーで余分のリードを切り取る。抵抗類は、流通機構を通って来る間にリード線がさびている場合が多いので、プリント基板に取りつける前に、マイナスドライバーなどの先でこすって、さびを取っておかないと、ハンダがうまくついていなくて、後日になって、ノイズが出る事が良くある。一個づつハンダ付けを行なうのは面倒なので、三・四個さし込んで一度にハンダ付けすのも良いと思う。

トランジスタは熱に弱いと良く言われるが、 シリコントランジスタになってからは、はるかに耐熱性が大きくなったので、全然必配はないものである。

基板に付けられたラグ端子は箔の方で、ハンダメッキを必ず行なう必要がある。ラグ端子は、機械的にしっかりとくっ付いているようでも、電気的にはつながっていない事が良くあるので導通不良を起こし易いものである。私の所へ持ち込まれるトラブルの80%以上が、 ここの所にあるので、あえて述べておく

回路に使用する左右二個づつの半固定抵抗は、前々から良いものが手に入らなくて苦労したものだが、おかげで非常に良いものが入手出来た。金属皮膜抵抗で、経年変化が少なく、サーマルノイズ(Thermal Noise)の点でもすぐれている上に、始めからプリント基板用に設計されたものなので、取り付け易く、とてもしっかりしている。写真5に示したような形のもので、ここに示したように、ピンの区別をして、基板に取りつけると、本項に説明したように、 B100Ωが、左一ぱいでゼロオーム、B20kΩを右へまわせば、スピーカターミナルがプラスに、その逆でマイナスに振れる。

二枚共、出来上がったら、ハンダ付け不良がないかどうかを、テスタを使って一個づつ点検する。例えば、写真6のように2本の抵抗が並んでいる場合に、A点とB点にテスタのリード線を当てて、その大体の値が

33kΩ+1kΩ=34kΩ

と出ればOK。無限大になったら、そのどちらかがハンダ付け不良。そんな必要が……と言われるかも知れないがここでトラブルを出す方が、いやになる程多いので念の為。

ハングがうまくついてない部品は、ドライバーなどで起こして見ると、簡単に、ポロリと取れるのですぐ解かるものである。ハンダ不良は、そのときはとにかく音が出ても、後で必ずノイズが出るものだ。

差動用のQ1、Q2は1個のプロックになっていて、足が8本生えているので向きを確かめて基板にきっちりはめ込む。足の間隔がとても狭いので、一本づつ良く注意して隣の足とくっ付かないようにハンダ付けして行く。ついでながら、電解コンデンサの極性、トランジスタの足を間違えないように。参考までに、第12図にそれぞれのトランジスタの足の区別を示しておいた。

第12図

二本づつのジャンパー線は、トランジスタを取りつける前に必ず取りつける事。後からだと、取りつけにくいばかりでなく、忘れる事が良くあるようだ。

入力用のダタンタルコンデンサは、風船型のものでグレーの丸印がついている方を手前に持って、右側がプラスであるから、逆につけないよう、注意を要する。

Q3、Q4、Q5のトランジスタは、ヒートシンクから独立しており、何らかの方法で、これらの石に生ずる発熱を取り除く必要がある。この為に、写真等でお分かりのように、放熱キャップがあるが、困った事に、この型のトランジスタの頭の直径は、メーカーによって少しづつ違っているものであり、その為に、放熱キャップはユニバーサルタイプがあるから、放熱キャップの割れ日を利用して、ドライバーで広げたり、狭くしたりする必要がある。この放熱キャップは、 きっちりとはまっていないと効果が少ないものであるから、トランジスタをプリント基板に取り付ける前にキャップをはめておかないと、後からはめにくくなる

プリント基板のハンダ付け作業が終わってから、その裏面を溶斉使ってふき取る人がいる。 ロジン入りの松脂がハンダ付けの部分に残っているのを取る為かもしれないが、ついでに基板の裏に塗ってうるフラックス・コーティング(flux coating)が溶けて汚なくなるので、 ジャブジャブ洗うに違いない。一般的に溶剤は水より密度が低く、表面張力が小さいので、わずかなすき間に入り込み易いものである。その溶剤が表にまわって電解コンデンサなどの部品をオシャカにしてしまう。誰に教わったのか知らないが、こんな馬鹿みたいな事をする方は、もう一度、中学校の物理の時間の授業を受けてから、アンプ作りをする事を真剣におすすめしたい。