2021
08.13

オーディオシグナルジェネレータの3

音らかす

②パワーアンプ
前記の正弦波発生回路から取り出せる信号電圧は1.35V R.M.S. ±10%である。つまりこの範囲を越えると歪率が極端に増える。従って、本機の使用目的の3.16Vにするためには、もう一段増幅回路が必要になる。そしてその後から出力信号を取り出すのであるから、パワーアンプと考えるのが合理的である。1.35Vのものを、3.16Vにするのだから、2.34倍のゲインが必要である。素人が測定器も持たないで、こんな特種なアンプ回路を作り上げる事は非常に難しい。アンプとは、一段に何十倍のダインを持つものであるからである。これまたオペアンプ。全く便利な増幅器である。回路図のように結線すると、見事に出来上がる(但し、このアンプは55kHzより上の方は使えないので念の為)。

③アッテネータ
かなり高価なジェネレータにしか使っていない、少々贅沢な回路である。一番上、つまりS-3の0番ピンヘスイッチが入ったときに、減衰量が0、1番ピンヘ入って、312Ω2本と、422Ωで1/3.16(=−10dB)になるから−10dB、次が−20dBといった具合に−40dB(1/100=0.01倍)までアッテーネートされる。これ等の抵抗値の計算は、

但し、Kは減衰量で、R0は回路インピーダンス(600Ω)

例えば、1/10=0.1倍(=−20dB)に減衰するためには、

で求められる。金属被膜抵抗で高級メーカー製並に1%のものを特注したので、一組¥2,000もかかったが、作って見れば解るように、ドンピシャリ合うので確かに都合が良い。ミリバル1台分のかわりだと思えば、¥2,000は大いに安い。これだけ部品にゼイタクをしても、市販測定器や、キットに比べて、かなり割安に出来た。自作品の強味と言うべきであろう。但し、次回に述べるミリバルとの並用を考えて、減衰量0のときが+10dBmにしてあるので、−40dBのところが−30dBmになるように設計してある事に注意され度い。

④方形波発振器
方形波なんてむつかしい事を考える必要はない。シュミット回路だと考えると解り易い。第8図に、シュミット回路の原形を示しておく。アメリカの文献からそのままとったので原文のままのせておく。高校生の英語の教科書よりやさしい文章なので、読んで見るのも面白いと思う。いわゆる、パルス回路で、Q1のベースヘ信号が入ったときに、Q2が、その信号の周波数に応じて、カットオフになったり、最大電流値になったりを繰り返すスイッチング動作をする、と考えれば解り易い。したがつて、Q2の出口へは、山があったり、谷があったりしないで、上へ上がりっぱなしになったり、下がりっぱなしになったりするので、写真1のように、入力に入ったサインウェーブの山側のときは上がりっぱなしで、上に一直線、逆の場合は下に一直線になるので、方形波になるわけである。したがって、良い回路程、立ち上がりが早いので、上がる時と下がる時の縦の線は見えないものである。

第8図

方形波の出力は、 先に述べたように、出来るだけ早い立ち上がりをそのまま利用したいので(本機のは80nS)、余計なアンプなどを通さないで、直接出した方が良いのは勿論である。

市販品だとそんなわけには行かないので、上のバッファアンプヘわざわざ入れて、アッテネータを経て出力側へみちびいてあるために、方形波が、とかくあまくなり勝ちで縦の線が比較的はっきりと見える場合が多い。ここにも自作の良さがある。マチュアリズムに徹して、商策とらわれないで、合理的なものが出来上がるからである。

なお、 このシュミット回路には、少なくとも0.8V R.M.S.のサィンウェーブを入力側に入れなければならないので、入力側にボリュームを入れると、ある程度しぼったところで、方形波が消えてしまう。従って。出力側にボリュームを入れなければならない事になる。

⑤電源部
測定器用電源部である。家庭電源の変動の影響をうけたり、±15Vの2電源が負荷の変動により動いたりするものは使いたくない。したがって、同じようにICを使ったクリスキットミニC-1の電源部よりいくらか割高についたが。同じくNECから出ているプラス用直流安定化電源用ICのμPC141Aとマイナス用のμPC142Aを使った。第9図で見られるように、200mAまで±15Vが完全に保たれる。その上、リップル分が非常に少ないので(20μv以下)、少しゼイタクかも知れないが、アンプに使うと非常に良い電源部になると思う。

電源

第9図

製作について

回路の大体の理屈が解れば製作については特に述べる事もないが、今までにいただいた質問状などを参考にして、注意すべき点だけを列記する:—

①ハンダづけはしっかりと。特に発振器は、名前の通り発振しやすいものであるから、ハンダ付け不良などがあり、接触点があやしいと、それが原因となって、とんでもない波形でハッシンすることがある。ラグ端子は、接触不良をふせぐために、機械で止めてある部分を、箔面にハンダづけする。機械的につながっていても、電気的にはつながっていない事が良くある。

②オペアンプのとりつけにこは、それ専用のプリント基板のパターンがあるのだが、先の尖った特別のハンダゴテはアマチュアには無用のものなので、普通のハンデゴテでもつけ易いように、ピンの間隔をあけてある。したがって写真2のように、オペアンプの足を広げて、先を垂直に5m/mばかりまげて、基板につっ込んでからハンダづけするとやり易いし、何かの理由で取りはずすときにも、便利だと思う。8番ピンのところで、キャップにエミッターマークに似たとび出しがあるので、足の位置を違えないように注意する。

③プリント基板等の取りつけ方は、実体図を参考にすれば良い。

④メーターは、取りつけ穴に、胴の部分を前から差し入れると、ことりと納まるから、附属の金具を使って、うしろから止めると良い。

⑤A~Hまでの端子とファンクションスイッチ(S-1)(少し贅沢だと思ったがアルプスのF型スイッチを特注した)との結線は勿論ヨリ線で行なうが、A~D及びE~Hはそれぞれひとまとめにして、モノフィラメント(ビニールひも)で結えておく方が良い。

⑥後日、μPC55Aなどと取り換えた折には、15kHzの端子(I)及び(J)用に穴だけ開けてある。先に述べたような要領で改造出来るように、という考えからである。

⑦アッテネータ用の抵抗は、特殊な値になっているので、カラーコードが5本になっている。最後のバンド(茶色)は±1%(F級)の意味だから、他の4本により、例えば4(黄)9(白)1(茶)10(茶)で491Ωといった具合いに読む。(このスイッチも割高にはなったが、アルプスのF型ロータリースイッチを特注した。使って見れば解るように、Y型よりはるかに切れ味が良く、接点の導通も良い)。

⑧P.のマークは、テストポイントの事で、出来上がったときに、 ここの交流電圧を測るためのものであるから、事務用などに使う針ピンを箔の方から差し込んで、ハンダ付けしてから、先を適当な長さに切り取って、ラジオペンチで輪を作っておくと、テストリードがひっかけ易い。

⑨誘導ハムを出来るだけ少なくするために、本機でも、プリアンプと同じように一点アースにするが、実体図にも示してある通り、正弦波基板の出力のところでまとめるのが一番良い。

実体配線図