2021
08.14

オーディオシグナルジェネレータの4

音らかす

調整について

オーディオ測定器は、音楽を聴くためのアンプと違って、音を出すものでないから、データー通りの特性を出せばそれで良い。したがって微妙な調整は全く不要である。正確な特性が出ていればそれで良い事になる。

本来オーディオジェネレータは、 ミリバル、オシロスコープ、歪率計などにつないで始めてその用をなすものであるから、本項にひきつづき、オーディオ用交流電圧計(ミリバル)の製作について述べるので、もしまだ手持ちのない方はそれまで待つとして、それまでとり合えずテスターを使って調整する。テスターでも±10%位の精度で調整することが出来る(テスターの場合100又は1,000Hzでないとくるいが大きくなる事がある)。

正確には、 ミリバルが出来上がってから、もう一度調整しなおせば良い。次の説明を読むのに便利なように、第2表に、調整表(Calibration Chart)を示してあるので、それを参照しながら読むと、説明が解り易いし、後日校正を取るときにも便利だと思われる。

第2表

スイッチを入れた時、パネルメーターが大きく右に動くが、これは誤配線によるものではない。

電源を入れた時に、メーターはほとんど振れない回路も出来るのだが、AC電圧測定の誤差が出来るだけ少なくなるような回路を選んだので、この点はやむをえないと思う。市販品もおもちゃのように精度の低いものは別として、同じようにメーターが振り切れるものが比較的多いのは、同じ理由によるものである。

特に本機では、メーターの針の動きが出来るだけスムーズなように、ピボット型軸受けのものを使用してあるので、動きが余計大きく感じられるかも知れないが、そのためにメーターをこわすことはない(どうしても気になる方は、SD46、IN60等のデルマニウムダイオードをメーターのターミナルにマイナス側にカソードが来るように橋わたしをして下さい。)

まずスイッチオンで、電源部から±15Vが正しく出ているかどうかを確かめる。非常に正確に働く電源部であるから正確に合わせるに越した事はないが、テスター程度の精度で充分であるから、電源基板のR-2(300Ω)を左右にまわして、±]5Vに合わせる。テストはプリント基板の土VCC印加点ならどこでも良い。

そこでオッシレータ基板のR-2(300Ω)をゆっくり右へまわすと、テストポイントにつないだミリバル(テスター)の針が上がって行くので、1.35V丁度を指すところまでまわして止める。出来れば5分位そのままにしておいて、ミリバルの針に変化がないかどうか確かめる。落ち着いたところで、オシロスコープがあると、つないで見れば、IC1と IC2の回路がうまく働いて、正確な1,000Hzの波形を出して見る事が出来るので、私の言っている通りになっている事が確かめられる。この出力電圧が、最も歪率の低い点であるが、 0.03%と非常に低いので、¥300,000以上の歪率計でないと読みとれないので念のタメ。

次にVR-1を右いっぱいにまわしたときの、本器の出口の交流電圧を測るので、 ミリバル(テスター)を出力ターミナルに当てる。今度は3.16Vを読み取るわけだから、テスターだともうひとレンジ上げなければならないかも知れぬ。

R-9(30kΩ)は左いっぱいに回わしてあるので、2.5Vあたりまでしか上がってない筈である。そこでこの半固定抵抗をゆっく(り)まわして、3.16V(ミリバルは10dBきざみになっているので、+10dBのレンジで針が3Vを通り越して、隣の目盛の10のところへ合わせればそこが3.16Vである。√10=3.16については、 以前まとめ方の項で詳述した。)を指すところで止める。これで正弦波ジェネレータの方は出来上がり始めて測定器を作った人々には、これで良いのか、と思う位、いとも簡単に出来上がる。流石に桝谷先生の記事である(なんて、ひとが言ってくれる前に自分で書いておく)。

次に方形波の調整にかかるが、方形波は、オシロスコープなしには全く意味のない回路である。したがって、本機の方形波回路の調整には必ずオシロスコープが要る。勿論高級品でなくてもアマチュア用のもので充分である。オシロスコープが手元にない場合は、どうせこの回路は使えないので、その時まで無調整のままおいておけば良い。(近く本項とシリーズで、130mmのオシロの製作記事を発表する予定)。

S-2を方形波に倒し、出カターミナルにオシロスコープをつなげばそれで方形波が取り出せるわけであるが、いきなり大きな波形が出てもこまるので、R-31(2kΩ)(方形波出力調整)を右へいっぱいまわしておく。

オシロスコープとつなぎ終ったら、1,000Hzに合わせてからR-28(3kΩ)をゆっくり左右へまわすとパルス波形が現われる。R-21(10kΩ)は中点に合わせてあるが、Q1及びQ2のhfeのバラツキのために、いきなり方形波にならないので、R-28(3kΩ)(BIAS)の方を少しずつ、右、左にまわしてQ2のバイアスを合わせると、上下の波形が揃う。この半固定抵抗は、一度合わせたらやたらにまわさない方が良いので、後日、エンジングした折に、少し狂ってくるのは、R-21(10kΩ)(Symmetry)の方で合わせるようにする。

この調整は、どんな発振器にもついているので、時々合わせ直しをする必要があるものである。

出来上がれば解ると思うが、本機の方形波はかなり高級のジェネレーターでなければ期待出来ない程見事なというか正確な波形が得られる。写真3はその各周波数における波形のシンクロスコープ写真である。

次が出力信号電圧用のパネルメーターの調整である。このメーターは、サインウェープの折にのみ働くように設計してある。方形波の電圧を、アナログメーターで測っても意味がないからである。

この時、アッテネータは、 どのレンジを指していても良いのだが、一応最大値(+10dBm/3V)に合わせておく。そして、OUTPUTボリュームを右いっぱいにすると、 3.16V の交流信号が出ているので、その値に(メーターの右端のところ)R-12(5kΩ)(meter)を右へまわす事によって、メーターの針をメータースケールの右端(フルスケール)に合わせる。(この調整も1,000Hzで行う)

ミリバルを使う事が出来れば、アウトプットボリュームを加減して、+10dBm(=2.45V)の出力になるようにして、本機のパネルメーターを0dBmに合わせる(+10dBmレンジで0dBmという事は+10dBmの事で、左へ下げて、−2dBmのところでは、+10dBm−2dBm=+8dBmといった具合である)。これでメーターのリニアリティは、フルスケールから、−10dBmまでの間は、ほぼ1.3%の誤差になっている事になる(市販品には3%以上の誤差を持ったものが多い)。

かなり正確なミリバルがあれば、10,000Hz にした時にもメーターが合うようにC-3(20pF)を加減すればなお正確になるが、20pFのままでも、アマチュアの、オーディオ器機の分析には充分信頼性のあるものになっているので、あまり神経を使う必要はない。

測定マニアになって、針でつついたような誤差を気にし始めると、¥300,000位のオーディオジェネレータを買い込んで、結局は宝の持ちぐされになる。測定マニアにならないよう、くれぐれも注意しておく。

これで出来上がったわけであるが、念のため、アッテネータをまわして見て、パネルメーターを0dBmに合わせた時に、各レンジで、+10dBm(2.45V)、0dBm(0.775V)、 −10dBm(0.245V)、−20dBm(0.0775V)、−30dBm(0.0245V)になっている事を確かめる。大きく狂ったら、R-32~R-43のどれかを取り違えているか、ハンダづけ不良によるものである。

性能について

こうやって自作したものが、測定器として、どの位の信頼性があるかという事を確かめて見る。

①周波数確度:岩通のUC-6141(写真4)を使って当たって見たのが第1表の結果である。バリコン法のよりはるかに正確なのは、C.R.に2%級を使い、しかもそれを組み合わせて、単品の誤差を打ち消したからであろう。

②出力電圧偏差:出力電圧0dBmのとき各レンジで05dBに入っている。市販品だとか、かなり高級なものでないとこうは行かない。オペアンプがきいたのだと思う。これをはかっているときに、トリオ106及び106Fのミリバルの周波数特性及びメーター直線性(Linearity)があまり良くない事に気が付いた位である。自作の強味がここにあるのかも知れない。

③歪率:回路編で述べたように、本機の上三つの特性を満足させるためと、自作し易いという点を考えてオペアンプを使ったために、高級品としての10,000HZ以上で1%以下にすることは、少なくともテスター一丁での製作は不可能である(一番悪い10kHzで0.37%)。

使用部品

写真5は、μPC151Aと同種のオペアンプのキャップを取って、その内部を顕微鏡でのぞいたものであるが、1m/mより小さいチップの中に、何十という部品を封じ込んだもので、科学の驚異を感じる位である。しかしながら、最近の電子工学の進歩から考えると、 間もなく同じ大きさのオペアンプで、高域特性の更によくなったものが出て来るに違いない(現在でも非常に高価ではあるが、工業用のものがある)。

それに、本機は低歪率よりむしろ、アンプの分析のうちで、周波数特性、方形波及び正弦波により、オシロスコープ、 ミリバルと並用してアンプの動作の状態を見るのが目的である。歪率測定用には、それ等の特性を犠牲にするか、あるいは非常に高価な測定器を購入する以外に方法はない、と私は思う。

とにかく第10図が本機の歪率特性である。おもちゃとしか思えない一部のアマチュア用測定器の歪率より少ない事は間違いない。

第10図

試作機が出来上がってから2ヵ月。出力用メーターもついているので、殆どの測定には本機を使っている。

次回は、本機とペアに使うミリバル(オーディオシグナル電圧計)の製作について述べる。