2021
10.03

10月。間もなく新しい総理大臣が誕生しますなあ。

らかす日誌

時間の流れが加速度を加えているような気がする今日この頃である。多分加齢のためで、つい先頃

「今年は珍しくカレンダー通りに秋が来た」

と喜んでいたら、もう10月。桐生は台風一過、朝から快晴である。気温も上がって夏の終盤戦を感じさせる暑さだ。

毎月1日には、雑誌「選択」が届く。開封して表紙をめくると

「新政権は『安倍=菅政治』を断ち切れ」

という見出しが目に飛び込んだ。こちらも、あの2人の

「由らしむべし、知らせるべからず」

スタイルというか、聞かれたことにまともに答えず、いつもはぐらかしてばかりのやり口に

「野党がだらしないからだ!」

と嘆きつつ、その政治手法に憤りを感じていたから、早速目を通した。

記事は、一橋大学名誉教授の渡辺治氏へのインタビューである、
まず、最初の質問への答に目を惹かれた。

「安倍晋三、菅義偉の二代の政権をどう評価しますか?」

と聞かれて、ズバリ

「両政権の時代は、日本を壊した九年だった」

という答が返って記してあったからだ。
日本を壊した九年? これ以上の全否定はない。面白くなって先を読み進めた。

日本を壊す。最大の実例がコロナ対応だ、と渡辺さんはいう。
新自由主義による経済回復を掲げ、多くを民間に委ねて経済回復を図ろうとしたアベノミクスの一つの表れとして、医療・公衆衛生分野への支出が減らされた。出費がかさむ感染症病床を減らし、保健所を削った。1990年代と比較すると、感染症病床は5分の1以下になり、800以上あった保健所は450以下に減らされたのだそうだ。

ほう、知らなかった。世界の先進国と比べても、日本の医療体制は引けを取らないほど充実していると聞く中で、欧米に比べればはるかにコロナ感染者数が少ない日本で医療崩壊が何故起きるのかずっと謎だったが、この指摘で納得出来た。
とはいえ、1990年代と比べてあるから、これは安倍=菅内閣だけではなく、歴代自民党内閣が進めてきた政策である。確か、新自由主義を最初に掲げたのは小泉内閣ではなかったか。だから2人の関与が何処まであったのかどうかがよく分からないし、すべての責任をこの2人に押しつけていいのか? と思わせるのがこのインタビューの欠点といえば欠点である。

しかし、だ。そんな大事なことを何故私は知らなかったのだろう? と思って読み進めると、その答えも渡辺さんの話の中にあった。

「メディアが報じないからだ。日本では毎日、数多の『新型コロナ』関連の報道があるのに、『感染症病床や保健所は何故足りないのか』という、掘り下げた報道はほとんど見られなかった」

そういえばそうだよね。新規感染者の1週間平均は、重症患者数は、飲み屋さんが困っている、旅館やホテルが潰れる、コロナに感染しても入院出来ない、なんて目先の話は掃いて捨てるほど紙面や画面を占拠したのに、

「何故医療崩壊が起きるのか」

という肝心な深層にまで取材を行き渡らせた報道は記憶にない。記者連中の知性も落ちるところまで落ちたということか。ま、それに気が付かないまま過ごした元記者もたいしたことはないが。

不正規雇用を増やし、労働者の賃金を削り、新自由主義の元でグローバルな競争に勝とうとしたこと、地方に利権をばらまいて集票構造を作ったこと、地方に困難な仕事を押しつけたこと、渡辺さんが指摘する両政権の罪は幅広い。中でも、「Go to トラベル」は自民党政治の真骨頂だと切って捨てている。

見出しとはやや違い、渡辺さんは新政権に期待などしていない。安倍=菅政治を断ち来るなんて無理だろうと見ている。確かに、半ば安倍の後押しで総裁の座を射止めたのが岸田だから、安倍に弓を引くような真似は難しかろう。
だから、と渡辺さんは野党が結束しての政権交代に期待する。それが論理的帰結だとは思うのだが、さて、今の私達はそんな期待を抱けるだろうか?

各種世論調査によると、安倍=菅政権のでたらめぶりな9年間を経た今でも、有権者の支持は自民党に厚い。反自民の旗をかかげる野党の支持率を全部集めてもはるかに及ばず、最大野党の立憲民主党にしてからが、ほんの数%の支持しか得ていないのだ。菅首相で自民党が衆議院解散に打って出れば勝つチャンスがあると踏んでいた枝野代表が、突然の菅退陣に慌てふためき

「コロナが蔓延しているいま政権を投げ出すのは無責任だ」

と発言、ものの分かった人々からは

「菅内閣なら選挙に勝てるかも知れない、少なくとも議席数は伸ばせると踏んでいたのに、当てが外れたのね」

と失笑を買ったのは記憶に新しい。もっともその後路線を修正し、いまは

「菅内閣を退陣に追い込めたのは成果」

と語っているらしいが。
政治は言葉の闘いともいうが、ここまで言葉を馬鹿にしてもらっては、聞かされる方も迷惑というほかない。

これが最大野党の代表である。民主党政権のでたらめぶりも記憶に新しい今、政権交代が起きる可能性は限りなくゼロに近いのではないか。

さて渡辺先生、このような客観情勢を見るとき、論理の筋は筋として、筋を追えば政権交代しか解決法がないという結論に達するとして、現実の私達は何を期待し、何をすればよろしいのでしょうか?

言論には力なんてない、単なる言いっぱなしだ、とは思いたくない。しかし、現実的な解決法を示せない言論って……。
悩ましい問題であります。

言論といえば、お隣の中国では言論統制が進んでいるそうだ。親日女優がウェブ上で名前を消され、人気女優は脱税で51億円の罰金刑を受けた(払えたんでしょうねえ。羨ましい)。言論・学術分野でも習近平体制に少しでも懐疑的と見られるとやり玉に挙げられる。その先頭に立つのが胡錫進編集長が率いる環球時報というメディアだそうだ。
この胡錫進さん、習近平に尻尾を振りまくる忠犬らしく、習政権のお先棒を担いで日本たたきにも余念がないのだそうである。何でも、アイドルグループ「乃木坂46」を採り上げて、明治時代の乃木将軍と結びつけて批難を浴びせたらしい。あのトランプがアメリカの大統領になって呆れていたが、とんでもない男が権力を握ってフェイクニュースを垂れ流すなんて、そう珍しいことでもないらしい。くわばらくわばら。

歴史を遡れば、国民(かつては臣民と呼んだかも知れないが)を弾圧し、自在に操り、己の帝国を作りあげた強権国家が長続きした試しはない。習近平体制もいずれ崩壊するはずだ。できれば、私の目が黒いうちに起きてほしいものである。

さて岸田さん、主要ポストの人選もほぼ終わり、あとは岸田内閣の船出を待つばかりである。自民党内左派とも見ることができる宏池会に所属、一応良識派ではあるらしいが、ここの所属議員はサロンでの議論を楽しむ高等遊民だともいわれる。
どのような手腕を見せるのか、あるいは見せるべき手腕名護持ち合わせてはいないのか。上空にたちこめる安倍の黒雲を祓う根性があるのか、それともインテリにありがちな

「長いものには巻かれる」

に徹するのか。
しばらくは、まず見るしかない。

がんばれよ、岸田!