2022
05.10

吉野家騒動。「ああやっぱり」と私は思います。

らかす日誌

牛丼の吉野家が浮名を流している。
常務取締役というお偉いさんが、吉野家の販売戦略を語るのに

「生娘をシャブ漬け戦略」

と表現して顰蹙を買った。

ハリウッドの映画には、敵をシャブ漬けにするシーンが出てくる。「フレンチコネクション2」では、麻薬組織を追い詰める我らが刑事、ジミー・ポパイ・ドイルが組織に囚われてシャブを打ち続けられ、ヨレヨレになって観客をハラハラさせる。ギャングが金持ちの娘を拐(かどわ)かし、監禁してシャブ漬けにする映画も見た記憶がある。

この常務さん、きっと映画好きなのだろう。まだ味覚がきちんと成長しないうちから吉野家の牛丼を食べさせ続ける。そうすれば、吉野家の牛丼なしでは生きていけないたくさんの客ができる。これを称して「生娘をシャブ漬け戦略」と表現されたのだろう。

「俺って、たくさん映画を見ている知性派なんだ」

という気持ちがあったのかも知れない。
早稲田大学の学生を前に、笑いに包んだ真実を伝えようとの気持ちもあったのだろう。

が、まあ、である。酒の席ならみんなが拍手喝采して終わりになったのかも知れない。が、この方、酒抜きの改まった席でこの言葉を口にされた。

私は言葉に枠をはめる言葉狩りは嫌いである。盲蛇に怖じず、という言葉を禁じても、目が不自由な方々に対する不当な視線がなくなるわけではない。言葉を刈り取っても実態が残れば何の意味もないと考えるからである。

だが、その私でも、流石に公衆の前でこの表現をする気にはなれない。ま、この方の人間性の限界といえる。

それでも、言葉の問題には鷹揚な私なので、このシャブ漬け騒動は

「ああ、そんな人もいる会社なんだな」

で片付けていた。
しかし、今度はいけません。名前がカタカナの学生が就職説明会に参加しようとしたら、

「外国籍の人は就労ビザを取るのが難しいから」

という理屈で参加を拒否した。
この採用担当者は、ひょっとしたら親切心からの行動だったのかも知れない。就職説明会に参加して、上手く採用が内定しても取得が難しい就労ビザが取れなけば働けないのだから、参加しても無駄ですよ、お互い無駄はなくしましょうよ、という好意の表現である。吉野家はかつて外国籍の人に内定を出し、すったもんだの騒動に巻き込まれたともいうから、主観的な親切心からの行動だったと見た方が筋が通る。

しかし、だ。閉鎖的だった日本の社会も徐々に国際化は進んでおり、外国籍を持つ社員がいる企業も随分増えてきた。それなのに、外国籍の人が就労ビザを取るのがそれほど難しいのだろうか? だったら、他の会社はどうやって外国籍の社員を採用しているの?
いや、例え就労ビザを取るのが限りなく難しかったとしても、だ。ビザを申請するのは本人である。取れなかった際に

「ごめんなさい」

とは、内定をもらった本人が内定を出してくれた企業に向かって発する言葉である。

内定とは、その学生の能力を認め、会社の戦力に育ってくれると判断して出すものである。であれば、内定者が就労ビザの取得に苦労するようなことがあれば、企業は全力を挙げて彼、あるいは彼女を支え、国を説得してビザの発行を求めるべきではないか? そんな努力をするつもりもない採用内定って、各人をきちんと評価して出すものではなく、採用予定数に合わせるだけの単なる数合わせに過ぎないのではないか?

カタカナ表記の名前だけで

「外国籍」

と思い込んだとんまな採用担当者にはその意識はなかったろうが、これは立派な外国人差別である。この1件だけは許せない。
あれといい、これといい、吉野家とはとんでもない企業であると思う。

実は、吉野家には個人的な想い出がある。
あれは最初に名古屋勤務をしたときだから、1980年前後のことだ。私は吉野家を取材したことがある。吉野家の本社は東京だから、恐らく名古屋支社だったのだろう。名古屋駅前の美るんぼ一角を訪ねた。
取材の目的、取材内容は全て記憶にない。だが、記憶に焼き付いていることがる。汚れたシャツである。

取材に対応してくれたのは40歳前後と見える男性だった。多分、広報担当なのだろう。にこやかに挨拶を交わした後、向かい合って座った私の目に、彼のシャツの首筋が映った。汚れている。シャツの衿にがこびり付いて黒く変色している!
ギョッとして、目線を手首に移した。ここも垢じみて汚い。
えっ、この男、同じシャツを何日着てるんだ? 何日着ればこんなに垢でどす黒くなるんだ?

吉野家は外食チェーンである。客に出すのは牛丼を中心にした食べ物だ。この事務所で牛丼を今日しているわけではない。だが、多くの人に牛丼を食べて頂いている会社の広報担当が、1週間も10日もき替えていないようなシャツを着て取材に来た記者に応対する。おいおい、清潔さって、食いもの商売では最も大切なことじゃないのかい? こんな風呂にも入らないような社員がいる会社が出す食べ物って……。

気分が悪くなった私は早々に取材を切り上げた。多分、記事にはしなかったはずだ。

そしてあれ以来、1度も吉野家の店舗に入ったことがない。だって、あんな、文字通り汚い男が本社にいる会社の食べ物を口に入れる勇気を持ち合わせていないからである。

だから、今度の事件を見ても

「やっぱりそうか」

と思うだけである。

にしても、だ。就職説明会への参加を拒否されたあなたへ。

こんなに早く吉野家の本質に出会えてよかったね!
もし採用担当者があなたを拒否せず、スルスルと内定まで進んで来春吉野家の社員になっていたら、吉野家の本質に出会うのはその後になります。本質に呆れかえって会社を辞めるにしても、その間の時間は完全に無駄使い。今回は採用担当者の行き届いたご配慮で、無駄な時間を使わずに済んだことを喜ぼうではありませんか! ちゃんとした企業は他にいくらでもありますって!

気持ちを入れ換えて、もっと素敵な会社の内定をお取りになるよう祈っております。