2022
09.10

「小説家を見つけたら」の最新事情。

らかす日誌

昨日の「らかす日誌」で書きわすれたことがある。原稿の最期に出て来た「小説家を見つけたら」の最新事情である。

といっても、2000年に公開されたこの映画の21世紀にいかなる歴史を辿ったかを書こうなどという大それた企てではない。テーマはこの映画の桐生における広報体制の変化について、という身近なものである。

かつて桐生では、というか、私のネットワークに入っている桐生では、この佳作を褒めそやすのは私であった。

「いい映画なんだよ」

「ジャマール少年の胸の空くような啖呵が何とも素晴らしくてね」

「ショーン・コネリーがいい味出してるって」

広報のキャッチフレーズには事欠かなかった。

「だから、是非見てみなよ、この映画」

ところが、私からそのお株を奪った人がいる。例のO氏である。彼は最近、極端に言えば会う人ごとに

「小説家を見つけたら、っていい映画だぜ。ほんと面白いから見てみなよ」

と勧めまくっている。その広報に費やす迫力たるや、私に数倍する。

私が勧めたから見たこの映画が余程お気に召したこともあろう。だが、私が見るところ、原因はそれだけではない。どうやら、この映画がBMWを重要な小道具として使っていることが、O氏をしてこの映画に惚れ込ませたのではないか、と思われる節があるのだ。

私が桐生に来た2009年、私の車はBMW320iツーリングワゴンだった。濃緑という珍しい色を選んだこともあり、

「大道さん、昨日あそこにいたでしょう」

と人に言われるほど、私のシンボルマークとなった車である。そして私は、BMWという車に惚れ込んでおり。新車が買える財力がなくなったいまでも、 格安の中古でBMWに乗り継いでいることは、皆様ご存知の通りである。BMWとはそれほど魅力のある車である。

そんな私だから、桐生に来て最初に親しくなったO氏に

「あなたもBMWに乗りなよ」

と何度も勧めた。しかし彼は頑として私の言葉を受け入れず、

「車は国産がいいんだよ」

と日産、マツダに乗っていた。
その彼が突然変心したのは、確か1年半ほど前だったと思う。

「俺もBMW買っちゃったんだよ」

何でも、共通の友人であるK氏にもBMWを勧められ、K氏が経営する修理工場を通じてオークションで3年落ちの320dを落札、200万円少々で手に入れた。つまり、私と同じ手法で中古BMWのオーナーとなったのである。
そして、ハンドルを持って初めてBMWの魅力に開眼したらしい。以来、彼はBMW信者となっている。そして彼が「小説家を見つけたら」をやたらに人に勧めだしたのは、BMWオーナーになってしばらくたってからなのである。

我が愛車はこのような車なのであるぞよ。それをジャマール少年に語らせたいのがO氏の「小説家を見つけたら」普及活動の根底にあるのではないか?
念の為に、ジャマール少年のシーンを、台詞で再現しておこう。

ジャマール : I’m not gonna do anything to your car, man.
(あんたの車には何もしないよ)
若い男 : I’m sorry?
(何だって?)
ジャマール : Because you look worried, like I’ll do something to your car.
(だって、心配そうじゃないか。俺が何かするんじゃないかって)
若い男 : No, I worry about this car everywhere, not just here. So don’t take it personally.
(そうじゃない。どこに行ってもこの車のことは気にかかるんだ。ここだけのことじゃない。お前のせいじゃないよ)
ジャマール : It’s just a car, man.
(たかが車だろ?)
若い男 : No. It’s not just a car. It’s BMW. Those who know anything about that company knows that it’s more than just a car.
(いや、こいつはたかが車じゃない。BMWだ。あの会社のことを少しでも知っていれば、たかが車じゃないってことが分かる)
ジャマール : Oh, anybody knows anything about that company. So I wouldn’t know anything like that, right?
(そうかい。みんなは知ってる。だけど俺は知るわけがないと?)
若い男 : No, that’s not what I meant.
(そういう意味じゃないが)
ジャマール : Last thing I know about BMW is, they made plane engines when they first started. A guy by the name of Franz Popp started it all. Franz Popp, I like that name, made this one engine before 1920. It flew six miles up. Well, Popp and his boys were just getting started, man, made this one engine, the 801, World War Ⅱ……, 14cylinders, 2300 horse power, seven miles up. If they’d have more time, they would have bombed the slit of England and maybe even won the War. That’s where this comes from. White propeller zipping around a blue sky. After the War, they couldn’t make engines anymore. Nothing BMW, gave some serious thought to making cars. Kind like this one. But you probably knew all that, since you lease one or own.
(俺の知ってるBMWは、最初は飛行機のエンジンを作ってた。フランツ・ポップってのが創始者だ。フランツ・ポップ、いい名前だ。ヤツが1920年以前にエンジンを作った。9600mまで上昇した。ヤツとヤツの仲間が、第2次対戦では801型を作った。14気筒で2300馬力、1万1200mまで上った。もっと時間があったら、イギリスを空襲して戦争に勝っていたかもな。それがこの車のご先祖だ。ほら、このマークは白いプロペラが青い空を背景に回っているのさ。戦争が終わると、奴らはエンジンが作れなくなった。BMWがなくなる。それで真剣に車を作ろうと考え始めた。こんな車さ。ああ、悪い、悪い。この車、リースなのかあんたのなのか分かんないけど、乗ってんだから、そんなことは先刻ご承知だったよね)
若い男 :  Thanks for the history lesson
(歴史の講義をどうも)

うん、何度読んでも胸のすくやりとりである。あなたも中古でBMWが欲しくなったら、桐生市の隣、みどり市の沼田屋タクシー 自動車整備工場に問い合わせをされることをお勧めする。

ついでである。O氏が「小説家を見つけたら」と一緒に普及活動に邁進しているのが「ウォルター少年と、夏の休日」である。これは、私と同年代の彼の、

「こんな年寄りになりたい!」

という願望の表れだと思われる。まあ、その点では私と大差はない。

しかし、である。そのO氏も、この2本の映画を除くと、良質な映画の普及に努める兆しはない。「小説家を見つけたら」と似た映画にアル・パチーノの「夢の香り セント・オブ・ウーマン」があるが、彼はそこを素通りする。私が日本映画では黒澤作品と並べて評価する「裸の島」も話題には上らない。韓国映画の名作「おばあちゃんの家」を彼は見たのだろうか? 同じ韓国の「シュリ」は? 私の「シネマらかす」には、素敵な映画の数々を取り上げているのだが……。

O氏の文化度をいまひとつ上げるには何をしたら効果的なのか? そんなことも追々考えてみようと思う私であった。