2022
12.04

どうやら、前立腺、ガンという言葉につきまとわれているような気がする。

らかす日誌

我が前立腺に不具合が見出されたのは10月26日だったから、もう1ヶ月以上たつ。まあ、73年も生きてくれば身体のどこかに不具合が発見される確率はかなり高いというのが常識だろう。だから、PSA値が高くても、少々のショックは受けながら、

「ま、そんなモンだろな」

という気がしている。

ところがあれから、不思議なことが相次いでいる。
最初の驚きは、定期購読している文藝春秋の、11月10日に発売された12月号の特集が

「世界最高のがん治療」

だったことである。当然前立腺がんにもページが割いてあり、がんであるかないかを見定める検査、治療法を詳しく書いてあった。かつては肛門から検査器具を挿入し、その先端から10数本の、直径が1.5㎜もある針を直腸越しに前立腺に差し込む手法がとられていた。

うっ、1.5㎜? 10数本?

と思って読み進めると

「被験者は相応の痛みを感じます」

とあり、挙げ句の果ては

「おおきな病院では、針生検は『若手医師の担当する仕事』となっているのが一般的です」

とある。だから、検査の精度は低いとも。

「おいおい! 痛い思いをした挙げ句がそれかよ」

と思いながら読み進めると、

「近年導入が進んでいるのが『MRI-超音波検査融合画像による前立腺標的生検』、分かりやすくいうと『ターゲット診断』と呼ばれる方法です」

と、やや安心できる文章がある。これだと狙った部位の組織を確実に採取できるとのことだ。
だが、この検査法は会陰部から針を刺す。ために

「会陰部からの穿刺は直腸越し以上に強い痛みを伴う」

と、救いを求める読者を脅す。そして

「麻酔を使うのが一般的です」

と安心させる。これを読んでいたから11月17日に1審判決を受けた際、生検のやり方を詳しく聞き出すことが出来た。まるで私のために編集されたような文春12月号であった。

それだけなら驚きは少なかったろう。
次に前立腺がんが登場したのは朝日新聞である。日付は忘れたが、前立腺がんの特集があり、前立腺がんが周りの骨に転移すると腰痛を発症するとあった。

「ん? 俺は慢性腰痛である。ということは、転移してる? しかし、腰痛が始まったのは随分昔だぞ」

と私を疑いに導いた記事である。

3つに目に現れたのは、12月2日に到着した「選択12月号」だ。連載されている「大往生考」の今月の見出しは

「がんで死ぬことの幸せ」

おいおい、俺、がんで死ぬのかよ!

これほど偶然が続くと、何となく気持ちが悪い。もっとも、この記事が取り上げているのは前立腺がんではなく、肺がんである。
筆者(私ではない。この記事の筆者のこと)が医学部学生だったときの恩師ががんで亡くなったという話である。では、なぜがんで死ぬのが幸せなのか?
この先生は学生の信望を集める優れた先生だった。後進の医者を育てることに全力を挙げたためだろう、彼の人生は仕事一色で家庭を振り返る時間を持たず、ために2人の子どもは父親に反発した。そして先に母をがんで亡くし、父のがんに直面した。

発症してから亡くなるまで2年。息子は内科医になっており、父の担当医となった。彼がが仕事に出ている間は娘が付き添い、父の具合が急変するとLINEで連絡を取ってその指示を実行した。
憎み続けていた父と、2人は初めて向き合った。時間は十分にある。身体が弱ってくると、父親は初めて、昔話を始めた。母親との馴れそめ、新婚の貧しかった頃の苦労……。やがて2人は、父が母に甘え、母は父を尊敬し、支えていたことを知った。親子の間にあった長年の不和が融け去った。

この2年間が、親子にとっては紛れもない幸せな時間だったのではないか、と筆者は書き、

「全ての患者がそうとは限らないが、それでも『がんで死ぬのが最高の死に方』ではないか」

と文章を締めくくっている。比較対象は突然死、認知症・臓器不全である。

ほっほ、俺もそうなるのかね? だが、俺の子どもたちは俺を憎んでいるか? それに、うちには医者になった子どもはいないしなあ……。

と思っていたら、最期のサプライズが来た。天皇陛下のご病変である。何でも前立腺に異常が見付かり、東大病院で組織検査をしたのだとか。きっとPSI値が高かったのだろう。

あれまあ、あんたも俺と同じだったの! なんだか身近に感じ始めたねえ!!

てなもんである。

そういえば今の天皇がまだ3、4歳のころ、何かで写真を見て驚いたことがある。

「ん? この顔、何だか俺が幼いときの顔に似てないか?」

まさか昔の写真を引張りだして比べることまではしなかったが、一重まぶたのぽってりした目のあたりといい、高からず低からずの鼻といい、全体が醸し出す高貴さといい……。

長じては全く違う顔になったが、

「俺に似てる!」

と思ったときの強烈な印象は、今でも残っている。
まあ、彼は天皇だから、亥所が見付かったらすぐに生検をした。生検の方法は上に書いた通りだったのだろう。まだ痛みが残っているかな?
私は一般国民に過ぎない。だから医者には

「少し込んでるんですよね。年内なら12月20日はあいてますが、どうですか?」

と1ヶ月以上待たされている。やっぱり身分の差って生き続けているんだな。

というわけで、私の前立腺に異常が見付かった途端、前立腺とがんにからむ話が4つも、私の周りで発生した。これって、やっぱり驚きますよ、はい。

そして、最期の話題となった天皇陛下は、検査の結果、異常なしと認められたのだそうだ。
せっかく、子ども時代は似たような顔をしていた我々2人である。できることなら、20日に迫った生検の結果も彼と同じになれば良い、と願う私である。