2006
12.27

2006年12月27日 忘年会

らかす日誌

昨日、職場の忘年会を催した。ま、12月は全国津津うらうらで、忘年会が挙行され、赤い顔をしたおっちゃん、おばちゃん、兄ちゃん、姉ちゃんが千鳥足でご帰還になっていることだろう。我々もその仲間入りをしたのである。

だが、我が職場の今年の忘年会はちょいと違った。始まりは、幹事さんの一言だった。

「大道さん、忘年会なんですが、そのー、予算があまりありませんので、会議室で、乾き物でやろうと思ってるんですが……」

様々なことがあり、泣いたり笑ったり怒ったり驚いたりした2006年を締めくくろうという忘年会が、会議室、乾き物。あまりににもショボい。

「いやー、それじゃあ盛り上がらないよねえ」

と言ってはみたものの、予算がないという現実は確固不動に立ちはだかっている。

「…………」

何日か考えた。ふと閃いた。閃くとろくなことがないことは身に染みているが、再び閃いてしまった。

「俺って、『グルメらかす』の著者ジャン!」

私はシェフを買って出た。計画をたてた。
集まる人数は40人~50人。使える金は10万円ほど。1人あたり2000円から2500円である。これで食い物と酒をまかなわなければならない。ワインや日本酒、焼酎は頂き物がある。多少だがビール券も備蓄がある。我が職場にはこよなくビールを愛する不逞の輩がいることを考えると、2万円ほどはビールを購入せざるを得ない。とすると、食事に割けるのは8万円程度。

レシピを考えた。

1、パエリヤ
2、刺身
3、手捏ね寿司
4、野菜の手巻き寿司
5、カリフラワーのクミン炒め
6、豚の冷しゃぶ
7、スペイン風サラダ

以上である。
いかがであろう。刺身はレシピもへったくれもないから取り上げなかったが、あとはほぼすべて、私がレシピとして紹介した物ばかりである。あ、冷しゃぶも、取り立ててレシピらしき物は必要ない。要は、湯をくぐらせた豚肉を並べれば済む。

魚は前日、築地市場まで行って買いそろえた。

「ね、メジマグロ持ってる?」

 「ああ、ほら1本だけ残ってるよ」

 「幾ら?」

 「3300円。8kgはあるかなあ」

 「じゃあもらおう」

 「あれ、計ったら9 kg あるよ」

 「それでいいよ。じゃあ3700円ね」

 「えっ、冗談だろ? 1kg 3300円だぜ」

メジマグロは断念した。こちとら、予算に制約のある身なのである。それにしても、メジマグロが1kg 3300円。正月前の価格高騰か、それとも世界的なマグロ価格高騰の余波か……。
かわりに、カンパチを2匹仕入れた。手捏ね寿司用にはブリのさくを買った。パエリヤ用には、オマールエビを2匹(1匹1600円)張り込んだ。
野菜もすべて仕入れた。 こうして26日を迎えた。

朝10時、戦闘開始。
女性社員2人が補助についてくれた。1人には冷しゃぶをお願いした。

そうそう、ここで【冷しゃぶの美味しい作り方】をご紹介しておく。

豚肉をくぐらせる湯には、ネギ、生姜、塩、酒を加えておく。こうして豚肉に下味を付けておくと、ひと味上の冷しゃぶとなる。

戦闘が始まって、いくつかの計算違いが生じた。
1つは、戦闘開始前に発覚した計算違いである。

パエリヤ鍋は、畏友カルロスに借りた。

「30人前の鍋がいるんだが、貸してもらえるだろうか?」

「よかばい。取りに来んね」

店に行った。鍋はあった。2人前、5人前、50人前の3種類だった。

「おい、30人前は?」

 「そげなもん、持っとらんばい。いるんなら自分で買わんかい」

話が違う。が、話は違っても現実が変わるわけではない。こうして私は、なんと50人分のパエリヤを作る羽目に陥った。「グルメらかす #30」~「グルメらかす #33」の再現である。ああ!

2つ目は、私の補助をお願いした女性である。野菜を刻む手つきを見て、重大な事実に気が付いた。この女性、あまり料理をしたことがない……。普通、多少料理をすれば、包丁とまな板は、トントントントンと心地よいリズムを刻む。この女性の包丁とまな板は、トン……トン…トン………トン、てな具合で、複雑なリズムを刻む。しかも、遅い。

3つ目は……。もうよい。先を急ごう。

午後5時、作業がすべて終了した。

パエリヤは、やや米の量が多かった。ために、表面の米は白っぽかった。
手捏ね寿司は、大葉抜きとなった。大葉は刻んで紙皿に乗せておいたのだが、ちょいと窓を開けたら折からの強風に飛ばされて床に落ちた。瞬間、そのまま使おうか、とも考えたが、ノロウイルスなんぞにとりつかれては大変だからやめた。
野菜の手巻き寿司は、野菜スティックに変わった。ご飯の調達を忘れたためである。

それでもみんな喜んでくれた。多少の失敗は許すのが大人の振る舞いである。パエリヤも、手捏ね寿司も、野菜スティックも、スペイン風サラダも、冷しゃぶも、たいそう評判がよかった。私のそばに来てレシピを教えてくれと懇願した女性も1人や2人ではない。
大量に残ったのは、作りすぎたためである。私はそう信じている。
個人的には、カンパチの刺身が一番美味しかった……。

豚も褒められれば木に登る。私は調子に乗った。乗って、ギターをかき鳴らしながら歌った。

Imagine ― 例の、複雑なリズムを刻んでいた女性がピアノで協力してくれた。
プカプカ― ザ・ディランII の名曲です。

カラオケの曲選びに手間取っている人がいたので、

「じゃあ、もう1曲長いのをやるから、ゆっくり選んで」

と叫んで、また歌った。

ジェームス・ディーンにはなれなかったけれど ― 岡林信康の名曲です。

ピアノの連弾があった。テノールの独唱があった。沖縄民謡があった。ジュリーのまがい物が登場した。
こうして、師走の夜が更けた。

今朝目が覚めて、両手がヒリヒリした。調べると、左手に5箇所、右手に4箇所切り傷があった。包丁でつけたものである。そして、疲れと酒が残っていた。

我が2006年は、どうやら手の痛みと、疲れと、二日酔いともに幕を閉じそうである。