2008
03.25

2008年3月25日 Audio Spotlight報告

らかす日誌

2月27日の日誌で取り上げたAudio Spotlightに接してきた。昨日のことだ。お約束した通り、その結末をご報告する。

一言で言えば、私は、我が不明を恥じなければならない。音源からずっと離れた場所で、周りの人には聞こえない音が確かに聞こえたのである。

開発者はジョゼフ・ポンペイ氏という。我が知人を頼り、実機を携えての来日である。日本市場に本格的に上陸するのが狙い、と普通は思う。

「ですよね?」

と聞いた。当然英語である。だが、どんな英語を使ったか忘れたので、会話は勝手に私が日本語訳させて頂く。悪しからずご了承頂きたい。

「いや、レッドソックスの応援をしようと思って」

34際のポンペイ氏は、根っからのレッドソックスファンらしい。日本市場への売り込みはそのついでらしい。今夜は東京ドームで、声をからして松坂に声援を送るはずである。

まあ、それはいい。話はAudio Spotlightである。

装置は、無線LANのルーター程度のアンプと、一辺が40cmほどの平らなスピーカーであった。これだけで、遠く離れた特定の場所にだけ音を届ける。

まず、理論的背景を聞いた。ホワイトボードになにやら数式を書き、

「ほら、こうすればもとの音とほとんど同じ音が出るわけです」

とおっしゃる。こちとら、自慢ではないが、

E(t)=~

なんて数式を見ると頭が痛くなる。大学受験が終わって以来、その手の世界とはスッパリ縁を切っているのである。バカにしないでいただきたい。

が、仕方なく、例のH氏に解説を頼んだ。

「まあ、よく分からんが、数学的に解明されているということだよ」

この程度の解説で理解できれば、はっきりって学問など無用の長物だ。

「理論的な説明は置くとして、やっぱり体験してみないと」

と言い出したのは、私だったか、それともH氏だったか……。

アンプにCDプレーヤーをつなぎ、音を出した。私とH氏は20mほど離れたところに立つ。四角なスピーカーがこちらを向く。聞こえる、確かに聞こえる。ジャズである。

左に3歩ほど移動する。ほとんど聞こえない。再びもとの場所に戻る。聞こえる。確かに聞こえる。不思議だ。背景となる理論が全く理解できない私の耳にもちゃんと聞こえる……。

Audio Spotlightのホームページに行くと、理論らしきものが書いてある。それによると、高周波の非直線性相互作用(これでいいのかな?)を用いて耳に聞こえる周波数を作り出す技術は、1960年代に潜水艦のソナー技術として発展した。1975年に、水中でできるなら空気中でもできるはずだと、松下やリコーが研究したが成功せず、ポンペイ氏が初めて実用化に成功したのだとある。

これで、

「なるほど」

と思える人は幸いである。あなたには深い学識がある。

が、そのような資質がない我々には、目で見、耳で聞いたことがすべてである。

「どんな使い方ができるかなあ」

夕刻から「小菊」で始まった飲み会は、その話題で沸騰した。以下はその主要なものである。ただし、会話はもっぱら英語で進行した。私の理解が間違っていても、私は一切責任を負わない。ご了承頂きたい。

ポンペイ氏によると、すでに米国では一部で利用が始まっている。

例えば、美術館。展示物の前に立つとその解説がどこからともなく流れてくる。その場所を離れると何も聞こえない。

例えば街頭広告。その前を通ると音が聞こえる。行きすぎると何も聞こえない。iPodの宣伝にも使われているそうだ。

例えば自動車。それぞれの座席の上に、別々のスピーカーを取り付ける。すると、各人が好きな音楽を楽しめる。

…………。

まあ、そのあたりは日本でも利用が始まるかも知れない。だが、消費者が自分で買いたくなる使い方はないか? それが見つかれば面白い。

例えば。アンプをチップ化し、スピーカーを小型にして携帯電話に組み込む。イヤホンなしでワンセグ放送が楽しめる。

…………。

アイデアとは、なかなか生まれないものである。

 

発想を変えよう。消費者から離れれば――

交差点の信号機と連動させれば、目が不自由な人に横断して良いかどうかを知らせることができる。

JRや私鉄のが採用すれば、あのうるささから逃れることができる。

飛び降り自殺の名所に取り付ければ、その場所に立った人にだけ、絶対確実な飛び込み方を指導できる……。

面白くなってきた!

さて、あなたも考えてみませんか? いいアイデアが生まれたら是非お知らせください。ポンペイ氏に連絡してみますので。

あなたの会社で採用を検討したいという方もご一報ください。ポンペイ氏、あるいはその代理人につなぎます。

ただし、1つだけご注意を。

このシステムを通って出てくる音は、電話の受話器を通して聞くような音になります。ハイファイを目的とした音楽再生などには向きません。

さあ、この制約のもとで、多彩なアイデアを生み出してください!

とりあえずのご報告でありました。