05.12
2008年5月12日 本番
【ますはカットから】
長い。ひたすら長い。12フィート=約3m60cmというのはとてつもない長さである。これをどうやって3階まで運び上げるか。
「ベランダを使うしかない」
我が家の南面には、2階と3階に幅の狭いベランダがある。エアコンの室外機が設置してあり、物干し場、ゴミの一時保管所として使われている。ここを利用するしか、ひたすら長い木材を3階に運び上げることはできない。
3階からロープで引き上げるか? 残念ながら、ロープがない。それに、途中で回転して家にぶつかったりするのも嫌である。では……?
1階の猫の額ほどの庭にウッドデッキを作ったことは「事件らかす #5 年賀のご挨拶」で書いた。ウッドデッキに丈夫な手すりを設けたことも、写真付きでご紹介してある。
これを使おう!
まず、この手すりから2階ベランダの手すりに木材を立てかける。いま家にいるのは妻と次女と瑛汰である。誰1人としてこの木材を2階のベランダに引き上げる腕力は持つまい。だが、私が2階に上がるまで木材がずれないように支えるのにはたいした力も体力もいらない。妻でも充分にこなせる仕事である。
下図を参照されたい。
「おーい、ベランダに出てくれ。いまから木材を立てかけるから、俺が上がっていくまで支えておけよ」
12フィート、10フィートの木材計4本を立てかけ、急ぎ2階に上った。2階のベランダまで木材を引き上げるためである。
次は3階のベランダに上げなければならない。これも要領は同じだ。次の図をご覧いただきたい。
この状態で私は3階のベランダに上がる。2階のベランダにいる妻に、上から声をかける。
「おーい、1本ずつ、3階の手すりに近付くように動かしてくれ」
かくして、3階のベランダで木材を捕まえた私は、再び引き上げる、という作業を続けた。
日曜大工とは、素人が木材を相手に格闘することである。プロと違い、環境が整った作業場を持たないのが素人の弱みだ。作業は、与えられた条件の中でこなさねばならない。
与えられた条件を無視して、あるいは気が付かなくて勝手に設計図を引くと、このような苦労が訪れる。
それも、日曜大工の楽しみの1つかも知れないが……。
6フィートの材料は、階段を使って3階まで運び上げた。2×4材13本、1×4材35本の運び上げは、ちょいとした仕事である。7回も8回も階段を上り下りし、なんとか作業場となる6畳間に木材を揃える。汗が噴き出す。
私の設計図通りに本棚を作るには これだけの木材が必要なのである。
木工のスタートは、材料のカットである。汗を拭いた私は、早速作業に取りかかった。
直ちに2×4材に挑みかかったのではない。正確にカットするには準備がいる。電動丸鋸が正確にカットラインを辿るよう、ガイドを作るのである。
といっても、難しいことではない。板に細身の板を釘付けし、細身の板に電動丸鋸のガイド板を押しつけて板を切るだけだ。こうすれば、木材のカットラインにこの切り口をあわせ、同じように電動丸鋸を動かせば、木材はカットラインで正確に切断される。
正確なカット。これは日曜大工で立派な作品を作るための要諦である。
そうとばかりはいってられない現実が襲いかかってくることもあるが……。それは後の話である。
次の写真が、このガイドだ。
上端が最初に丸鋸で切った直線だ。右端に見える電動丸鋸の黒い板の下端を細身の板の上のラインに押しつけ、電動丸鋸を前(写真では左)に動かすのである。
まず、12フィート材が相手である。これを3m30cmの長さに 切りそろえる。そのためには巻き尺で長さを出し、曲がり尺(差し金)でカットラインを引く。
このようにして、曲がり尺の上部に合わせて鉛筆で線を引くのである。昔の大工さんは本当に頭がよかった。曲がり尺なくして正確なカットラインを引くのは、ほぼ不可能だ。先人の知恵に感謝しながら作業を進める。
カットラインができたら、いよいよ切断だ。
先に作ったガイドの切断面をカットラインに合わせ、電動丸鋸を使うのである。
この写真によると、ちょうどそのころにわか雨が降ってきたらしい。そういえば、あわてて木材を室内に運び込んだ記憶がある。
それも日曜大工、なんだなあ……。
まずは、本棚の躯体を作らねばならない。
12フィートは3m30cmに切りそろえる。
10フィートは3mに切りそろえる。
6フィートは90cmが12本と15cmが20数本。90cmは構造用棚板になり、15cmは2枚の2×4材をつなぎ合わせて幅27cmの側板、構造用棚板を作るためのつなぎ材である。
作業は徐々に進んだ。2×4材すべてのカットが終わる前に午後4時を過ぎた。愛犬「リン」と瑛汰を連れて公園まで散歩をする時間である。リンは排尿、排便のため。瑛汰は、夜の快適な眠りに向けて体を疲れさせるためである。
最近瑛汰は、リンの散歩がお気に入りだ。玄関を出ると片手にリンの引き紐を持つ。もう一方の手にはフン取り器を持つ。私がリンを散歩に連れ出す時とまるで同じ格好である。自ら求めてこのスタイルを取る。そして、リンに引きずられながら公園を目指す。
付き添いの私は気が気ではない。公園までは車も通る道を行く。ちょいと強く引きずられれば、瑛汰は簡単に転ぶ。私は常に車に気を配り、リンが突然走り出したりしないよう、猫や犬に目を配り、瑛汰が転けないように付き従う。
自分で犬の引き紐を持つ方が100倍も楽だ。が、瑛汰は引き紐を離さない。ボスと同じことをする自分が誇らしいのだろう。
100倍疲れても、子どもの誇りは大事にする。子育てとは、我慢である。教え導くことは必要だ。しかし、許してはならない一線を越えるまでは子どもの思いを大切にする。間違っても、自分が楽をするために子どもの思いを押しつぶしてはならない。
私は大工仕事で疲れた体に鞭打ちながら、瑛汰と公園を目指した。
この稿、続く。