2009
06.21

2009年6月21日 下手な考え

らかす日誌

19日の金曜日、「秀明」に行って眼鏡を注文してきた。フレームはサングラスと同じ川崎和男のデザインである。遠近両用レンズ込みの価格は4万3000円。東京に比べれば2万円ほど安い気がする。

昨日土曜日は、日帰りで横浜に行ってきた。次女が体調を崩し、食事ができない状態に陥ったためだ。当初の予定では27日に横浜に行き、1泊して戻ろうと思っていたが、緊急事態で緊急の対応をした。

横浜に着くとまず、瑛汰を車に乗せ、2人でみなとみらいのボーネルンドに向かった。来月13日に3回目の誕生日を迎える瑛汰にプレゼントを買うためだ。同時に、次女から瑛汰を引き離し、しばしの休息を与える目的もあった。
瑛汰へのプレゼントは、大工さんセットと、そのセットで工作するパーツ。締めて1万5000円強である。…………、まっ、いいか!
昼は外に食べに出た。川崎の「松の樹」。そのころになると次女も気分がよくなったらしく、その足で「さいか屋」へ。もっぱら私は瑛汰番で、満腹になって眠り込んだ瑛汰をベンチで抱き続け、やがて目を覚ますと、川崎駅地下街に行って瑛汰とアイスクリームを賞味。

「ママとババには内緒だぞ。アイスクリームを食べるとママは怒るからな。2人の秘密だぞ」

と言い聞かせたが、効果なし

ご報告することは以上である。これだけなら、それほど長い文章ではない。だが、私の文章は長い、長いといわれる。さて、
そうか? じゃあ、以上の内容をいつもの私流で上記の内容を書き改めてみるか。
本日は実験にお付き合い頂く。

下手な考え休むに似たり、という。
木曜日の夜の私は、その言葉を実践した。布団に入って朝まで考えてみるつもりが、布団に入ったら,休むのを通り越して寝込んでしまった。レンズだけにするか、フレームも取り替えるか、は下手な考えであった。

というわけで金曜日、「秀明」の駐車場に車を止め、店内に足を運んだ私からは、なぜかレンズだけ取り替えるという選択肢がすっぽり抜け落ちていた。

ブロンズ色の現在のフレームにやや飽きが来ていたこともある。

出がけに妻が、

「そのフレームはよくない。もっと小さなレンズにしてもらいな」

といったこともある。

いや、それよりも何よりも、

「頭髪が白くなったん。どっかでカバーしないといい女に目をとめてもらえないぞ。ちょっと不良してみる?」

というスケベ根性がムクムクと芽を出したことが決定打だった。

のではないかと考えるが、さて、俺はそんなに女にもてたいかというと、実はそれほど意識しているわけでもない。まあ、現状にそこそこ満足しているから、新たに女に登場してもらう必要をあまり感じていないのだ。ここは、あくまで読者を意識した一節だと解釈されるのは、読者の自由である。

というわけで、なぜフレームごと取り替える気になっていたかは不明のままである。まあ、人間とは解説できないパーツを持つものなのだ。

という次第で、「秀明」に入った私は、早速フレーム選びを始めた。ターゲットは川崎和男デザインである。

さて、眼鏡のフレームを選ぶ場合、何ともならないジレンマがある。手にとってフレームの形を見ることはできる。だが、眼鏡のフレームとは手に持って歩くものではない。顔にかけるものである。かけたときに私の顔がどう見えるかが選択のポイントであって、手に持ってながめ、これはいい、あれはいけないといってみたところで一文の得にもならない。
だから、いまかけている眼鏡を外し、そのフレームを顔にかけてみる。鏡に向かい合う。ところが、眼鏡の力で強制されている私の視力は、眼鏡を外したとたんに突然衰える。すべてがピンぼけの写真になり、何一つはっきり見えない。
そうなのだ。眼鏡とは裸眼では正常な視力を発揮できない人間が必要とするものである。それなのに、それが自分の課を似合う加藤かを判定しようとすると、正常でない視力に戻らねばならない。これは理不尽ではないか?
さて、あなたは、ピンぼけの写真を見て、このフレームは私の顔に似合う、いや似合ってない、と判断できますか? 私はできない。新しいフレームをまとった私の顔のピンぼけ写真を見て、

「何でこんなにぼやけた顔をしてるんだろう?」

といぶかるばかりである。つまり、自分で眼鏡のフレームを選ぶなんてのは、どだい無理な話なのである。

その際、

「この女に、『ステキ!!』といわれたい」

という女性を同伴していれば迷いは生じない。彼女に選んでもらえばいいのである。だが、そのような恵まれた条件下に置かれた試しがない私は、どうしても自分で決めざるを得ない。
このジレンマをどう抜け出すか?

仕方なく、店員の意見を聞く。聞かれた方が迷惑しようがしまいが、

 「お前の顔なんて、どの眼鏡をかけたって何の違いもないよ。それを、あれだ、これだった迷うなんて、あんた、鏡で自分の顔を見たことあるの?」

と心の中で悪態をつこうと、こちらとしてはほかに頼る人がない。

「ねえ、私にいいフレームないかな」

私が桐生で出会ったもっとも美しい女性も加わった選考委員会は、2つのフレームを選び出した。川崎和男デザインの縁なしフレームと、同じ会社から出している、どう見ても川崎和男に影響を受けたとした思えないデザイナーの金属製黒縁フレームだった。これは左右の端はレンズとフレームの間に隙間がある。洒落ている。
どちらもレンズが横に細タイプで、おしゃれといえばおしゃれである。

「で、どっちがいいのよ」

店主に詰め寄った。

「うーん、縁なしはエレガントだよね。縁ありは個性的」

そんな解説を聞きたいのではない。どちらが私に似合うかを聞きたいのだ。と突き詰めると、うーん、とうなるばかり。まあ、それはそうだろう。売る立場としてこちらがいいと結論を出せば、1ヶ月後に

「お前の選択は間違っていた。取り替えろ」

とねじ込まれるおそれがある。特に、私のような客を相手にする場合は心すべきことである。

というわけで、最後は私が決めるしかない。さんざん迷った挙げ句、川崎和男まがいより、川崎和男で行くべきだ、と決めた。やっぱり、まがい物は排除すべきである。

こうして私は、初めてフレーム無しの眼鏡をかける。あと数日すれば完成して私の元に届くはずである。上下が狭く、老眼鏡には見えない遠近両用眼鏡。
かけた姿を、さて、誰に評価してもらおうか?

 

土曜日は横浜に帰ってきた。
先週半ばまでは、この週末は横浜で過ごそうと考えていた。何しろ、大枚をはたいてリフォームしたのに、リフォーム完成後の我が家で過ごした時間がほとんどない。時には横浜に戻って、投下した資金の効果を確かめなければ、金を使った意味がない。
ところが、突然日曜日が、つまり今日が仕事になった。予定が狂い、横浜に帰るのを1週間延ばすことになっていた。

 「みのりが体調を崩しているらしいのよね。熱があってご飯が食べられないんだって。医者に行って点滴でもしてもらいなさいっていってるんだけど、瑛汰がいるからねえ」

みのりとは次女である。というより、瑛汰の製造責任者といった方がわかりやすいかもしれない。妻から聞いたのは、眼鏡の注文をすませて家に戻った木曜日であった。
瞬間、考えた。四日市にいる長女は、体調を崩しても頼るところがない。自分の親とも旦那の親とも遠く離れているからである。
次女だって、自分の力で何とかしたらよかろう。そうするしかないではないか?
すぐに考えを変えた。
ここ桐生と横浜は、時間距離では2時間少々だ。親として何かしてやれるのであればした方がいいのでは?

「おい、土曜日に日帰りするか?」

当初妻は、キョトンとしていた。ま、頭の回転が極度に遅いのがキャラである。そこは無視せねば、話は先に進まない。

「そうね、それがいいわ」

と妻がいうまで、さて、何秒かかったろう?

こうして20日土曜日、我々は午前8時過ぎに桐生を出た。通り道で、昔ながらの製法を守り、添加物をいっさい使わない豆大福を製造販売している「根岸屋」で豆大福を買おうと思ったが、まだ店が開いていなかった。通りかかるのが10分ほど早かったらしい。

50号線バイパスを佐野に向かい、東北道に乗って横浜へ。首都圏の渋滞は一般道に降りて回避し、10時半に横浜の自宅についた。

「瑛汰!」

 「ボス!」

の型どおりのエールの交換をすませ、私は瑛汰をボーネルンドに誘った。

「瑛汰ね、ボスとママとババと行くの」

幼児とは、しばらく顔を合わせないとはにかむものである。はにかんで、慣れ親しんだ母親の陰に身を隠そうとする。

「瑛汰、瑛汰とボスはラブラブだろ? ママとババはいらないって。瑛汰とボスで行こう。瑛汰は大工さんセットが欲しいんだろ?」

ここで娘を連れて行かねばならないのなら、来た意味がない。ここは私が瑛汰を連れ出し、たとえ30分でもいいから娘に休息を与えなければならない場面なのである。

こうして私と瑛汰は、2人きりでみなとみらいのボーネルンドに向かった。瑛汰が座っているチャイルドシートは、桐生から積んできたものである。

2人で行くと決心した瞬間から、瑛汰の関心はボーネルンドに集中したらしい。助手席にセットしたチャイルドシートで、

「ボーネルンド、まだなかなあ」

 「あ、あそこだよ」

とビルを指さす。まだ、みなとみらいの入り口にも来てないって!

駐車場からエレベーターに乗り、ボーネルンドのあるフロアで降りた。遠くにボーネルンドのにぎわいを目にした瞬間、瑛汰の目の輝きが一変した。私の手を振り切ると、駆け足で店に向かったのである。

Run, Eita, Run!

そう、瑛汰、駆けるがよい。ボスだって駆け出したいときがある。まあ、向かう先はおもちゃさんではないけどな……。

私より遙かに先にボーネルンドにたどり着いた瑛汰は、だが、ダイレクトに大工さんセットに行くのではなく、店先で腰を下ろしてしまった。水遊びセットが置かれていたのである。そのセットにすっかり魂を奪われた瑛汰は、低いところから高いところに水をくみ上げるポンプを盛んに操作している。が、どうやら壊れているらしく、水は一滴も上がってこない。

「瑛汰、大工さんセット見に行くぞ」

3度目に瑛汰は私を見た。腰を上げてこちらに来た。

Boschの大工さんセットにはモンキーレンチやスパナ、ペンチ、のこぎり、金槌などがそろっている。中でもお気に入りは電動ドライバーだ。締めて8400円。

が、道具だけあったっておもしろくない。道具は何かを作るための補助具に過ぎない。で、敵も去る者だ。置いてあるのだ、この道具で工作するためのセットが。

「こちらがよろしいのでは」

確か、1万円強。

あっ、計算が合わないのは、誕生日の前後だと割引になるサービスのためである。
いずれにしてもカードで支払いを済ませ、大きな袋に2つの商品を詰め込み、私と瑛汰は帰途についた。
家に着くとすぐに荷ほどきである。瑛汰が欲しくて仕方がなかった道具が次々と現れる。電動ドリルには電池をセットした。引き金を引くと先っぽがくるくると回転する。

「これでね、修理するの」

瑛汰は、パンツのおしりのポケットに電動ドリルを入れ、ペンチやドライバーも押し込もうとする。

「リフォームで来ていた大工さんの真似よ」

と娘。なるほど、子供は周りを見ながら成長する。いま、瑛汰は大工仕事に心を奪われているらしい。
瑛汰、大工で暮らしていくのは、なかなか大変だぞ!

「松の樹」でラーメンとチャーハン、シュウマイという、やや炭水化物に偏りすぎた昼食をすませ、我々はさいか屋に向かった。妻が靴をほしがったからだ。私も下着の数が減っている。横浜に来なければ、この日は佐野のアウトレットで買い物をしていたはずだった。

 「瑛汰、眠たい」

さいか屋に向かう途中で瑛汰はうとうとし始めた。まあ、おなかがくちくなれば眠気を催すのは人の自然である。が、これから買い物をしようというのに、瑛汰に寝込まれてはやっかいだ。

「瑛汰、さいか屋に着いたらアイスクリーム食べる?」

 「何?」

 「ボスとソフトクリーム食べに行くか? ママに内緒で」

 「ママに内緒?」

 「うん、ママにもババにもいっちゃいけないよ」

 「瑛汰、眠たい」

アイスクリームの誘いも効果なく、さいか屋の駐車場に車を入れると、次女に抱かれた瑛汰は半ば眠っていた。私は瑛汰を抱き取り、駐車場と店舗をつなぐ通路のベンチに腰を下ろした。眠った瑛汰を抱きつつ、本を読みつつ(常日頃からその程度準備はしてある。このときは「ストロベリーナイト」。何かの書評で、本屋さんがえらく褒めているって書いてあったのだが、褒めた本屋さんの知性を疑いたくなる本。もっとまともな本を読んで客に勧めてね、有隣堂の梅原さん!)、妻と次女が買い物を終えるのを待った。

30分もたったろうか。瑛汰がムックと目を覚ました。本では、頸動脈をカッターナイフで切り裂かれた殺人事件が進行中で、あろうことか、死体の腹部も切り裂かれ、内臓が露出していた。いったい何故?

「瑛汰、寝てていいんだよ」

と声をかけるとすぐに目を閉じたが、次の瞬間、また目を見開く。なーんだ、完全に目が覚めちゃったか。

「瑛汰、アイスクリーム、行く?」

 「なに?」

 「アイスクリーム。ソフトクリームでもいいぞ」

 「瑛汰、ジュース」

というわけで、さいか屋のジュース売り場まで歩いた。ここには、常時10種類前後の生ジュースが置いてある。

「瑛汰、どれがいい?」

 「瑛汰、マンゴージュースがいい」

なかなかのグルメである。マンゴーを探す。ない。

「僕、マンゴーヨーグルトはどう? はい、これ飲んでみて」

中年女性の店員が声をかけてくれ、小さな紙コップに入ったマンゴーヨーグルトを渡してくれた。瑛汰の飲ませた。

「瑛汰、これにする?」

 「瑛汰、いらない」

瑛汰少年は、なかなか味覚にシビアである。かくして、我々は駅地下のアイスクリームショップに向かった。買ったのはチョコとバニラのミックス。

最初の一口は、スプーンで瑛汰の口に運んだ。

「これ、冷たーい。これ、甘くて美味しいねえ」

瑛汰の顔が笑みで崩れた。語彙も豊かになった来た。でも、甘みに飢えてるのか?
笑い崩れながら私からソフトクリームを奪い取り、自分でスプーンを使って2口目を口に運んだ。

「ボス、食べる?」

3口目は私の口に入った。こいつ、天性のジジイ殺しか? 私も若い頃はジジイ殺しといわれた。まあ、いまやジジイへの道をまっしぐらだが。

買い物を終えた妻、次女と合流して横浜の自宅。大工さんセットで家のあちこちを修理。3時半から瑛汰と入浴。次女が入浴できないため、光栄にも瑛汰を入浴させる仕事が私に割り振られたのである、この早い時間に。

というわけで、私のあとに入浴した妻を待って、早々にといっても午後5時前後に横浜を発ち、桐生に向かった。首都高が混んでいて時間がかかり、早く戻りついて夕食にありつきたいという動物本能に駆られてハンドルを握っていたら、東北道ではいつの間にか速度計が160km近くまで 回っていた。
私のBMW、速度計が壊れたかな?

冒頭の17行をいつものスタイルで書くと、こうなる。だから、更新が滞るのかもしれないが。

さて、どちらのスタイルをお好みですか?