05.16
2011年5月16日 事前通告
「瑛汰、いまから大変なこというからね。ボス、いいですか。瑛汰、大変なこというよ」
昨夕、入浴していたら電話が来た。何事ならんと、フリチンのまま脱衣室に出て携帯を取り出すと、瑛汰だった。
「瑛汰、どうしたの? 何だ、大変な事って?」
ママに内緒でソフトクリームでも食べたか?
それとも、ママがこっそり隠していたへそくりでも見つけたか?
「あのね、ボス、今度誕生日でしょう」
確かに、今月は誕生月である。22日になると、望みもしないのに年齢が一つ加算される。加算されていくつになるかの計算は、とうにやめた。人は、毎年誕生日が来るから齢を重ねるのではない。誕生日を迎えて齢を重ねたと思い、それに合わせようとするから老けるのである。だから、誕生日など忘れるに越したことはない。主観的には、私はまだ40代である。
ヘルニアが出た40代である。
で、瑛汰、それがどうした?
「あのね、誕生日にボスにあげるもの、瑛汰、決めたんだ。タオルをあげるんだ」
いや、ボスは誕生日など忘れておる。忘れておるが、それを記憶する瑛汰からプレゼントを貰うのは嬉しくなくもない。
でも、タオル?
「あのさ、水につけると冷たくなるんだって。ボス、暑いの嫌いでしょう」
ははあ、今年は電気の足りない夏である。どこもかしこも冷房設定温度を上げる。どこに行っても汗が出て止まらない夏になる。
汗をかく夏。私は確かに嫌いだ。
それを見越して、熱中症を予防するとかで特殊なタオルが人気を集めていると、新聞か何かに出ていたな。瑛汰、そこに目をつけたか。こういうやつだな。
そうか、瑛汰、ありがとうよ。大事に使わせてもらうわ。でも、タオルを首に巻いた私は、単なるオッさんにみえないか?
7月にやってくる自分の誕生日に向けてのプレゼンテーションかも知れないが、まあ、それはそれでいい。吉田兼好ならずとも、物をくれる人はよき人であると思うのが人間である。
「でさあ」
もっと話があるの? ボスはいま裸で、お風呂に入るところなんだけど。
「今日ね、雀の子供が死んでたの」
ボスの話、聞いてるの? でも、雀の子供?
「巣から落ちちゃったんだよ。落っこちて死んだの。それを見つけたの」
瑛汰の家に雀が巣を作っていたか? ボスは、瑛汰の家から桐生に戻ってきたばかりだけど、気がつかなかったなあ。
「違うよ。友だちの家の近くの電信柱に巣があるの。そこから落ちて死んじゃったの」
ふーん、それを見つけたんだ。
「お父さんとお母さんも探してたんだ。どこ行ったのかなあ、って」
ということは、雀の両親が探していたということらしい。ホントか?
「もうね、固くなってたんだ。それで土に埋めてやったんだよ」
このようなときに、
瑛汰、土に埋めるより、毛をむしって焼き鳥にして食べちゃえば良かったのに、などというデリカシーのないことをいってはならない。
「そうか、瑛汰。偉かったね。御墓をつくってあげたんだ。うん、瑛汰は偉いね」
墓など不要、と公言している私も、このような際にはほかの言葉が出てこぬ。人を見て法を説くのも大事なことなのである。
「じゃあね。バイバイ」
いいたいことだけいって、瑛汰からの電話は切れた。いつものことである。
すぐに湯船に戻って、小説を読み始めたのはいうまでもない。
本日、携帯電話をiPhone4に代えた。これまで使っていたiPhone3Gの契約期間が10日で満了したからである。2年使った旧型は最近、バッテリーの持ちが悪くなっていた。
そういえば、瑛汰ははやくiPhone4にしろといっていたなあ。テレビ電話でボスと話をしたいらしい。
瑛汰、それは無理だ。ボスのところには無線LANがない。だから、テレビ電話は使えないらしいよ、とはまだ伝えていない。
伝えても、理解してくれるとは思えないけど。
まあ、また遊びに行くから勘弁してくれ。