07.26
2011年7月26日 それにしても
中国とは、常識の範囲では捕らえきれない国である。
中国ご自慢の高速鉄道が事故を起こした。日本の新幹線をはじめとした世界の高速鉄道の技術をちゃんぽんにし、中国独自の技術でまとめ上げたと自称して
「世界で最も進んだ高速鉄道」
と胸を張り、これから輸出にも力を入れようとしている戦略商品の事故だった。
事故も、中国にとっては痛手だったろう。なにしろ、事故原因は外国から輸入した技術によるものではなく、それをまとめ上げた中国独自の技術の部分にあった疑いが高いからだ。
だが、それだけなら取り返しもつく。最先端を走る技術は、それこそ「想定外」の弱点を持っていることがままある。最先端技術の粋を集めたはずのスペースシャトル、チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発、炎上したのは1986年のことだ。2003年には大気圏に再突入したコロンビア号が空中分解した。日本の新幹線が、開通以来事故らしい事故を起こしていないのは、幸福な例外である。
だから、事故を非難しようとは思わない。無理に無理を重ねた開発計画もあっただろうし、ひょっとしたら不幸な自然災害もあったのかも知れない。
唖然としたのは、事故を起こした車両を重機で粉々にし、土中に埋めたという報道である。昨日の朝刊で朝日新聞だけが報じた。
「これはこれは」
と思い、昨日中に日誌に書くはずが来客があり、夕食をともにして酒をたらふく飲んだため、昨日は書けなかった。
今朝になったら、ほかの新聞でも取り上げ始めた。
事故は不幸な出来事だが、一方で、製品の品質向上のためのまたとない機会でもある。どれほど細部にまで目を届かせたつもりでいても、人間には限界がある。事故で初めて気がつく弱点もあるのだ。よりよい商品に育てるためには、事故を最大限活用しなければならない。
それを、砕いて、埋めた? 思わずうなった。
「中国って、ダイナミックやなあ!」
誰が、どんな思惑で事故車両を埋める指示を出したのか。今のところ明瞭ではない。恐らく、慌てふためいた鉄道省の幹部あたりが震源地ではないか。
まあ、事故車両を埋めた責任者が誰であるかは別として、これは中国のいまの体質を象徴する事件であることはまちがいない。
何事についても、己の非を認めないのがいまの中国の特質である。北京オリンピックの際に話題になったチベット問題でも、南シナ海でのベトナムとの対立でも、領有権を巡って日本と対立している尖閣諸島問題でも、中国は常に
「正義は我にあり」
である。そう主張し続け、反論を目先で退けるためには、とりあえず隠しておかねばならないことが沢山出てくる。目先の論争を乗り越える間は絶対に明らかにしてはならない。
事故車両の埋設を指示した幹部は、考えたのではないか。
「原因究明の決め手となる事故車両の運転席を粉々に粉砕し、人の噂が静まるまで埋めておけば、原因追及ななんてそのうちあやふやなままで終わるさ。俺も責任を逃れられるってもんだ」
この幹部は、いまの中国の体質の、無様な象徴である。
世界2位の経済大国となり、いまや肩で風を切る勢いの中国の体たらく。
眠れる獅子とバカにされていた中国はいま、起き上がって動き出しているように見える。だが、動いているのは身体だけで、頭はまだ眠ったままではないのか?
これで、中国の高速鉄道システムを買う国はなくなるはずだ。
中国製の車も、他国のメーカーが中国で作っているものならともかく、純粋な中国製を欲しいと思う客もいなくなるはずだ。
いやいや、とにかく、中国で作られている問いだけで忌避する動きも出るのではないか?
今回の事故車両埋設で、中国は国際的な信用を失墜した。
ねえ、こんな言い方をするとあちこちから叱られそうだが、原発事故が起きたのが日本でよかったと思いませんか? これが中国で起きた原発事故だったら、どのような推移をたどっていたか。事故後の処置に数々の「考えられない」失態が重なって大量に放射性物質が大気中にまき散らされ、それが偏西風に乗って日本列島を覆い尽くす。
まさに地獄図が描かれていたとは思いませんか?
と昨日考えた。
今日になったら。埋めたはずの事故車両を掘り起こし、運び出したという報道があった。
いったい、中国って何を考えてるんだ?
何十年かぶりに「孫子」を再読しながら、そう思う昨日今日である。