01.20
2012年1月20日 テレビ
が壊れた。
朝7時前に目覚め、新聞受けから新聞を取って居間に戻り、リモコンの電源ボタンを押した。そのまま新聞を読み始めたが、ふと気がつくと、テレビの音声が聞こえない。
朝は、新聞を読みながらテレビでNHKのニュースを聞く。それが私の一日を始める儀式である。なのに、テレビが儀式の様式に従わない。おかしい。何だか、クリープを入れないコーヒーを飲んだようである、という例えは、いかにも古くさいか。
どうしたのかな、とテレビを見た。電源が入っていない。もう一度、リモコンの電源ボタンを押した。橙色だった電源ランプが緑になり、だが、すぐに赤くなって点滅を始めた。見たことがない現象である。
テレビ本体の電源ボタンを押して完全にオフにし、再びそのボタンを押してオンにした。電源ランプは、同じように赤の点滅を始める。何か異変が起きている。
取扱説明書を取り出した。こんな現象が起きたら、本体の電源ボタンを押して完全にオフにし、5秒待って再び電源を入れろとある。実行した。やっぱり、赤いランプが点滅する。そして、電源は入らないままだ。
このテレビ、パナソニックのTH-P50V2である。50インチの大画面で、実に映像が美しい。買値は、確か20万9000円。買って1年前後だと思う。先ほど、この日誌に
「買ったぞ!」
と書いたのではないかと思って探したが、見つからない。だから、正確な購入日時は不明である。
午前9時、パナソニックの相談窓口が業務を開始するのと同時に電話をした。0120-878-365(パナは365=パナソニックは1年365日、お客様の相談を受け付けます。実に分かりやすい電話番号である)。オペレーターが出た。
「ただいま相談窓口が混み合っておりますので、こちらでご相談内容を承り、後ほど当方からお電話を差し上げます」
美しい女性の声で、日本語も正確だった。なのに、カチンときた。いや、急いでいるのだが、といっても、同じ内容を繰り返すばかりである。こうなれば、戦わざるを得ない。
「あのねえ、混み合ってますっていうけど、午前9時の業務開始と同時に電話をしたんだよ。9時になる前に2度電話をしてみて、うちの電波時計で9時になってすぐに電話をして繋がったの。なのに、どうして混み合ってるわけ? 相談窓口担当の人が遅刻しているの?」
まあ、正当なクレームであると思う。2分ほど待たされた。相談受付が電話口に出た。これも女性である。
「昨日の夜まではちゃんと移っていたのに、今朝、突然電源が入らなくなった」
と症状を説明した。
「その場合は、本体の電源ボタンで電源を落としていただいて……」
「それもやった。5秒以上待って電源を入れたけど、同じだった」
「それでは、お電話でのご相談では対応できませんので修理ということになるかと」
「うん、そうだと思うよ」
「お客様、保証書はお手元にございますでしょうか?」
「うん。ある」
「お買い上げはいつになっておりますでしょうか?」
「記入されていない」
「えっ、少々お待ちください」
「お客様の機種は2010年3月から販売しておりまして、で、保証期間は1年ですので、それが過ぎておりますと有料の修理ということになりますが……」
このあたりから、少々頭に血が上り始めた。
「そんなことは保証書に書いてあるから判っている。だけど、いつ買ったかが判らないんだよ」
「販売店はおわかりですか?」
「ああ。判っている」
「そちらにお問い合わせいただいて、ご購入の日付をご確認していただけましたでしょうか?」
「あのさあ、まだ朝の9時過ぎなわけ。こんな時間には販売店は開いてないの」
「それでも、ご購入の日付が判りませんと、対応も違って参りますので」
頭の上る血の量が増えた。
私は、我が家のテレビに電源が入らなくて困って電話しているのである。場合によっては修理が有料になることもあろう。設置して、リモコンで電源をオン・オフして、1年内外で故障が出たことに怒りはある。だが、焦眉の急はテレビが元に戻ることなのだ。
「あのねえ、俺はそんな手続きの話を聞きたくて電話してるんじゃないの。いいかい、保証書に購入日付が記入されてないということは、私が勝手に書いてもいいわけだ。勝手に書いて保証期間内だよということもできる。それでも、私は正直に、記入されてないといっている。そんな簡単なことも判らないの? 何で私が販売店に問い合わせなきゃいけないの?」
「それでも、お買い上げいただいた日付が判らないことには……」
「日付が判ったら、いまここでテレビが元に戻るのか? あなたはメーカーの人で、困った私をサポートするのが仕事だろう? 困ったユーザーに作業を割り振るって、どういう神経なんだ?」
「しかし、日付が判りませんと……」
「もういい、修理窓口の電話を教えてくれ。そっちに電話をするから」
「そういわれましても、日付が……」
「君と無駄話をする時間はない。修理窓口の電話をいいなさい!」
我が家のテレビ周りは、パナソニックの製品ばかりになった。テレビだけではない。最初に買ったのはハイビジョンをハイビジョンのまま記録できるデジタルビデオデッキである。次はDVDレコーダー。DVDプレーヤーが仲間に加わって、 ブルーレイが出回り始めると、ブルーレイ・レコーダーが鎮座した。続いたのはブルーレイ・プレーヤーで、つい最近、2台目のブルーレイ・レコーダーを購入した。すべてパナソニックの製品である。デジタル化したテレビ、テレビ周辺機器で最も技術的に進んでいるのがパナソニックの製品であるからだ。
無論、工業製品だから不具合は出る。デジタルビデオデッキの調子がおかしくなったとき、修理に来てくれたサービスマンは
「これ、新しいのと取り替えましょう。ただ、新機種はこの機種より安くなっているんですが、その差額はご勘弁いただくということでどうでしょう?」
と提案してくれた。喜んで取り替えてもらった。取り替えてもらったデジタルビデオデッキは、まだ我が家にある。
DVDレコーダーの不具合の歳は、
「ついでだから、ハードディスクも取り替えましょう」
といい、いや、そんなお金の準備はないよという私に、
「大丈夫です。これだけ当社の製品をお使いいただいているんだから、最高のコンディションでお使いいただきたいのが我々の気持ちですから」
と、本当に無料で交換してくれた。私は、このようなサービスを心から評価するものである。
だから、電話の対応に出たお勝ちメンコネーチャンの対応が神経に触ったのである。
修理窓口に電話をした。
「実は、相談窓口でこのような不愉快な思いをしまして」
と告げると、
「それは申し訳ありませんでした」
とまず謝罪してくれた。購入した日が判らず、保証にも記入がないと伝えると、
「判りました。こちらから、保証期間内ということで対応するよう、強くいっておきます。で、修理は明日お伺いするということでいかがですか?」
胸のすくような対応である。テレビの電源が入らなくて困ってるユーザーに対する対応としては100点満点をあげる。こういう対応をされると、やってきたサービスマンに料金を請求されても、気分よく支払える。
人の気持ちとはそのようなものである。まあ、多分無料でやってくれると思うが……。
妻女殿はまだ咳が続く。
今日は朝から雪、午後には雨に変わった。
「今日は湿度が高いから」
と、せっかく私が買ってきた吸入器をお使いになる様子がない。で、咳が続く。
You can lead a horse to water, but you can’t make it drink.
高校のときに学んだ格言を噛みしめる私である。