2012
02.02

2012年2月2日 そりゃそうだ

らかす日誌

東日本大震災で地盤が液状化した浦安市の住民が、土地を埋め立て造成した三井不動産を訴えた。そりゃあそうだろ、という裁判がこれから始まる。

あの地震が起きて、浦安市が大きな被害を受けたと知ったとき、

「俺ならどうする?」

と考えた。私、1982年に4ヶ月、浦安市に住んだことがある。だから、人事とは思えなかった。
もっとも、私が住んだのは公団の賃貸マンションだから、今回の原告のように、浦安市に住宅を持っていたわけではない。欲しいとは思ったが、一戸建て住宅が6000万円もすると聞いて、住宅取得計画は放棄した。

近くのお店の人は、

「一戸建て住宅の人たちはバーゲン品しか買ってくれない」

と、ある意味、蔑んでいたが、まあ、6000万円のローンを抱えれば、暮らしを切り詰めるしかない。仕方ないことである。
もっとも、浦安の子供たちには、

「戸建ての子、マンションの子、賃貸の子」

という、誠に明瞭な差別構造があった。我が子供たちは、その最下層である「賃貸の子」であった。それなりに嫌な思いをしたのかも知れないが、まあ、それは今日のテーマではない。

そう、暮らしをぎりぎりまで切り詰めたお金で買った一戸建て住宅である。ローンの支払いのため、好きな酒を断念した人もあろう。本当は日本酒が好きなのだが、焼酎で我慢をする人もいたはずだ。先輩、後輩、同僚との酒の席もできるだけ避け、仕事が終われば一目散に帰宅する味気ない生活を続けた人もあったに違いない。
そんな思いをして手に入れた住宅が地震で揺さぶられ、地盤が液状化して家が傾いた。怒り心頭に発するのはうなずける。

「で、私がその被害者だったらどうする?」

昨年の3月には、そんなことを考えていた。

「埋め立て造成した三井不動産に法的責任は問えるのか?」

そこまで考えて、あとは放棄した。私は法律の専門家ではない。それから先の答えを出す知識を持ち合わせていないのである。法的には、瑕疵担保責任は問えるはずであるとは、その昔、法学部に通っただけあって分かる。でも、造成直後ならいざ知らず、これだけ時間がたって賠償を求めることができるのか?
いや、どうしても解明しなければならない問題なら、専門書を買ってひもとけば知識を得ることはできる。だが、私は被害者ではない。地盤液状化の被害は、所詮他人事である。そこまで努力する必要はさらさらない。

ということで、放っておいた。

その三井不動産に務める旧友が、桐生に私を訪ねてくれたのは、先の日曜日だった。

いつもの「こんどう」で鰻を御馳走しながら、未解明の疑問をぶつけてみた。

「あれ、三井不動産に責任はないの?」

以下は、彼が話してくれたことである。

浦安の埋め立て地の分譲は、三井不動産内部でも賛否両論があった。何しろ、埋め立て地である。地盤はそれほど強固ではない。それを客に売っていいのかどうか。
絶対に安全であるとは言い切れない土地を住宅地にしてはならないという慎重派。いや、とにかく首都圏の住宅地としては一等地である。売り出せば羽が生えたように売れるのは目に見えている。この商機を逃す馬鹿がいるのものか。そもそも、得るために造成したのではないかという積極派。それぞれの思いをぶつけ合ったすえ、最初に分譲マンションを造った。やがて、戸建て住宅の販売も始まった。

「なるほど。でも、売り出された土地を高い価格で買って被害にあった人たちは裁判は起こさないの?」

 「いや、そんな動きがあるとは聞いてる」

では、不動産会社が責任を取らざるを得ないとしたら、どのようなことができるのか。
まず、家を持ち上げる。その上で、地盤を固める。通常は地面にパイルを打ち込み、土の密度を上げることで固い地盤にする。その上で、固まった地盤に家を降ろす。これで一件落着である。
費用は、1戸あたり数百万円
戸建て住宅は2000戸ほどを分譲したという。1戸700万円の費用がかかるとして、すべてに責任を持つとなると、必要なお金は140億円。経営が揺るぎかねない金額である。

「でね、社内にも、浦安の一戸建てを買った連中がいるのよ。5、60人はいると思うな。連中、困っててね」

なるほど、それはそうであろう。社員としては会社の負担はできるだけ避けたい。だが、浦安で被害にあった住民としては、会社から修復費用を引き出したい。でも、それは社内では、口が裂けても言えない。

「でね、なるほど、と思ったのは、埋め立て造成を担当した部署の連中は、1人として浦安に住宅を買ってないんだよなあ」

この彼も、浦安の一戸建てを買おうとした。その時、別の部署にいた上司から

「それなら、俺が売っているこっちを買ってくれ」

と頼まれて、やむなく浦安を断念した。

「あのとき、投書計画通りに浦安に家を買ってたら、今ごろ俺も困ってたよなあ」

 

浦安を造成した三井不動産に法的責任を問うことができるのか。
そのうち裁判が始まる。

 

昨夜、前橋から若い連中が4人やってきた。

「仕事の打ち合わせを桐生でやりたい。行っていいですか?」

別に断る理由もないので受け入れた。食って飲んで語って、連中が帰ったのは日付変更線近かった。おかげで、今日は朝から二日酔いであった。

昼過ぎ、うち1人からメールが来た。

「楽しかった。この仕事の打ち上げも桐生でやりたい」

ま、桐生ファンが増えることはいいことである。
その仕事が済むのは、多分3月半ば過ぎ。

その翌日も、俺は二日酔いで青い顔をしてるのだろう。