01.05
2014年1月5日 どっちが綺麗?
といっても、私の愛を全身に注がれている貴女と、そんじょそこらのおばさんを比べているわけではない。
貴女は、確かに綺麗である。その美しさは、私が何度も保証した。
「見てごらん。これから10分間ここに立って、貴女より美しいのではないかと貴女が思った女性が通りかかったから、私に教えなさい。私が判断してあげる」
東京のど真ん中で実験したその10分間、貴女より美しい女性は通り過ぎなかったではないか。貴女は自信を持てばよい。
が、である。本日比べるのは、貴女と、そんじょそこらの女性ではない。
私の右手と左手である。
実は、昨年末からある実験に取り組んでいる。きっかけは、絹の町、桐生に住みついたことだ。
絹糸を扱う工場で働く女性の皮膚は綺麗だといわれる。絹糸に含まれる成分に美肌効果があるためであるというのが定説だ。
その定説に依拠して、繭の毛羽から抽出したエッセンスを使った化粧品、石けんを作る会社が桐生にある。染色業の「アート」である。私はここの社長、伊藤久夫氏と親しい。
「大道さん、これ、めっちゃいいんだわ」
といわれ、話に納得して娘たちに、長男の嫁に、ひょっとしたら愛する人に、その化粧品、石けんを贈ってきた。確かに、評判はいい。
「これあげるから。あんたも使ってみたら」
と伊藤社長にクリーム(市価5250円)を一瓶いただいたのは1年以上前のことだ。以来、ほとんど毎日、鼻の脇に塗り込んできた。ここ、手入れしないとパサパサになって、皮膚が剥がれ落ちる。
それには効果があった、ように思う。というのは、とにかく、これしか使わないのだから、効果のほどがはっきりしないのだ。
「だったら、はっきりさせようじゃないか」
なんでそんなことを考えたのか、今となっては判然としない。恐らく、定例行事となった、鼻の脇にクリームを塗り込む朝のひとときに、もてあますほどの暇を抱えていたのではなかろうか。暇は想像力の源泉である。
ま、きっかけはともあれ、それから毎朝、左手の甲には薬局で買い求める保湿クリームを、右手にはこのシルク配合クリームを塗り始めた。
始めたのは、多分12月の20日すぎ。塗るのは両手とも1日1回である。
3日ほどして、何となく右手の肌が艶やかになった気がした。
5日ほどして、伊藤社長の会社を訪ねた。社員の幸ちゃんに
「ちょっと、俺の右手と左手を見て」
というと、
「えっ、何でですか」
といぶかしげにいう。いいから見ろよ、と強制すると
「はあ、右手の方が黒いですね」
あのなあ、それは見方が浅いって。そうとしか見えないか?
苛立ち始めた私は、幸ちゃんに、我が両手を触らせた。まだ20代の幸ちゃんに手を触っていただいて心地よかったことは否定しない。だが、その日の私の目的は、そこにはなかった。
「右手の方がすべすべし肌が綺麗だとは思わないか?」
いわれた幸ちゃん、
「えっ」
といいながら、本気で私の両手をさすった。うん、あれは愛撫ではない、残念ながら。
「ほんとだ。右手の方が肌がなめらかですね」
わずか5日でこの結果である。
気をよくした私は、その数日後に訪れた理髪店でも、いつも私の髪を切り刻むアラ40の元ミス桐生に、やっぱり両手を触らせた。
「ほんとだ!」
そうか、やっぱりシルクは肌にいいのか。
男も60を過ぎると肌の衰えが気にならぬこともない。目立つのは、足の膝から下。腕の肘から先。
若いころはなかった細かいシワが、所有者である私の許可もなしにはびこる。まるで、日照り続きでひび割れた地面のようである。
それだけなら、長いズボンをはき、長袖のシャツを着用すれば人目から隠すことは出来る。困るのは、かゆみである。乾燥した肌は、かゆみをもたらす。
対策は1つだけ。肌にみずみずしさを取り戻すことだ。「アート」のシルク入りクリーム、これまでに使ったどの保湿剤に比べても、効果は上である。
では、常用するか。
待って欲しい。何しろ、一瓶5250円である。それが、娘や息子の嫁、ひょっとしたら我が愛する人の美しい顔の肌を守るのなら、苦にならぬ価格である。が、だ。私が使う? 伸びがいいとはいえ、こんなに高価なものを、足に、腕にすりこむ?
私は財布と相談しながら躊躇し、
「まっ、年齢っていうのは誰しも平等にやってくるものだから、抗うのもいかがなものか」
と己に言い聞かせてしまうだろう。その上で、薬局で買ってくる保湿クリームを塗り込むのに違いない。
だが、だ。
このアートのクリームが、薬局の保湿クリームの2倍ほどの価格、つまり1500円前後だったらどうするか?
私は買う。
顔の肌につける高級クリームとは別に、手足用のシルク入り保湿クリームを、ずっと安価に売り出してもらえないものか?
よし、明日は「アート」に新年の挨拶に行くか。そのついでに、私の願いを伝えてみよう。
いいクリームのターゲットは、女性の顔の肌だけではない。高齢者の、乾燥してひび割れた手足もターゲットである。
「ね、伊藤さん、その分野に出ていったら市場が広がるんじゃない?」
さて、聞き届けていただけるかどうか。
連休とは儚いもので、始まったころは
「まだ7日も残っている!」
と思うのだが、残り2日となると
「もう仕事が目前じゃないか」
と意気消沈する。
それは、ワークデイとホリデイで、生活がほとんど変わらない私でも同じである。
明日から仕事。
「あ~あ」
という気分を皆様と共有しつつ、明日を迎える私である。