07.25
2014年7月25日 酷暑
というのが最も相応しい日だった。
本日は我が妻女殿の定期健診の日。ということは、私が専属運転手に成り下がる日である。
朝、もう8時前に家を出て前橋に向かった。うん、そのころはまだ良かったのだ。車の中もそれほど熱されておらず、エアコンをかけていれば、外の暑さはそれほど感じずに済んだ。
いつものように前橋日赤で妻女殿に下車願い、私はけやきウォークに向かった。時刻は午前9時前。ここは午前10時オープンのショッピングモールである。まだ中には入れない。車を日陰に止め、エンジンも止めて、モールのドアが開くまで本を読んだ。車の窓は全開である。
暑かった。それでも本が読めたのだから、それほどの暑さではなかったとも言える。
午前10時。やっとエアコンの効いた屋内に入れる。流石に快適である。これもいつものように、書店を歩き回って文庫本を4冊買い求めた。それが終わると喫茶店でコーヒーを飲みながら再び読書。11時を過ぎたころ車に戻る。来たときは日陰に止めたのに、もう我が愛車は夏の厳しい日差しを浴びて焼けあがっていた。それでも、この時点での外気温は、車の温度計を信用する限り32.5℃。酷暑というほどではない。私はエアコンを目一杯効かせながら前橋日赤に向かった。
上下2段式の駐車場は、夏場は下を選ぶのが常識である。直射日光を避けることができる。
病院に入り、妻女殿の受診が済むのを待つ。それが終わると、私は妻女殿に出された処方箋を手に薬局に向かう。この間、妻女殿は診療費を支払い、それを終えて薬局に姿を現す。すると私は駐車場に向かい、妻女殿から
「終わった」
という電話が入るのを待つ。いつの間にか出来上がった行動規範である。
異変は、このあたりから起きた。
駐車場に戻り、車の運転席に座る。窓を全開して本を開く。エンジンをかけないのは、駐車車両の常識である。だからエアコンは使えない。すると、頭から、額から、うなじから汗がしたたり落ち始めた。腰に下げたタオルを引きだし、汗をぬぐう。が、ぬぐってもぬぐっても、汗は次から次へと噴き出す。5分もすると、タオル全体がしっとりと濡れた。
やがて妻女殿から電話が来た。駐車場を出て薬局の前に車を移動する。エンジンをかけるわけだから、当然エアコンも作動する。その心地よさときたらどうだ! これ以上何がいる? と叫び出したいほどの快感である。
冷気を楽しみながら薬局の前に行くと、妻女殿はまだ外に出ていない。どうやら、
「もう薬が出てくるはず」
という見通しが狂ったらしい。だとすれば、薬局前の炎天下の路上でお待ち申し上げるのが専属運転手の役割である。私は車を止めた。
車を止めれば、エンジンを切るのが地球環境に思いをいたす者の義務であることは、私は充分承知している。そして、私も地球環境を思い遣る一人であると信じている。いや、地球環境への思い遣りの実態は、燃料費をできるだけ節約したいという貧乏根性でしかないのかも知れないが。
だが、である。真夏の太陽にジリジリと焼かれる路上に車を止め、エアコンを切れるか? つい先ほどまでいた駐車場には、少なくとも日差しはなかった。それでも、あれほどの汗が体内から噴き出した。ここでは、それに直射日光まで加わる。この過酷な条件の下で、私は地球環境を心配することができるか?
結論は皆様のご想像におまかせする。
ま、早い話が、この時だけは、私は「熱中症」を避けることしか頭になかった。そう、私はすでに、己の体だけでは体温調整ができない年代に入っているかも知れないではないか……。
終えて、少し離れた寿司屋で昼食をとった。食べている間中、おしぼりが手放せなかった。寿司を持った手を拭くのではない。流れ落ちる汗をぬぐうのである。
「この寿司屋は細部がいかん。そもそも、寿司を食った客にコーヒーを出すとは、何を考えておる? しかも、だ。いつも、まだ寿司が2、3個残っているときにコーヒーを運んでくる。だから、コーヒーの強い香りを鼻孔に感じながら寿司を食う羽目に陥る。繊細な寿司の味と香りが台無しではないか」
そのような憤りを吐き出しながら桐生に向かって車を走らせ始めてしばらくすると、頭が何となくボーッとしてきた。外気温を見ると、37.5℃!
ということは、私の頭は熱で犯され始めているのか? であれば、気を緩めれば事故につながりかねない。気を引き締めて安全運転を心がけたのはいうまでもない。
戻って仕事。車を出てわずか100mほど歩いて人を訪ねると、
「これ、このタオル、絞れるよな」
というほど汗が出た。こんな日に仕事などするものではない。
明日以降、最高気温33℃以上の日は自主的怠業の日にしようと心を固めた次第である。
といいながら、明日も仕事が入っちゃったんだよな。雨でも降って気温を下げてくれないものかねえ……。
天気予報を見るかぎり、自主的怠業の原理原則は、明後日からの適用になりそうな雲行きである。
すまじきものは宮仕え……。