2015
11.21

2015年11月21日 ペイント

らかす日誌

BMWとは、本当に飽きが来ない車である。
我が愛車は、来年5月でまる10年。走行距離計はすでに9万9500km近くをさしており、年内に10万kmの大台に乗るのは確実だ。同じ車に10年乗るのも、10万㎞以上乗るのも初めてで、

「まあ、よく付き合ってくれた」

と思う。
だが、まだ

「そろそろ替え時だ」

という気にはならない。
エンジンは快調で、少しばかり荒っぽい乗り方をしても意のままに加速、減速をし、曲がってくれる。とにかく、いつ何時でも車に乗るのが苦ではない。楽しい。

先日、前橋にいる会社の後輩が

「僕もBMWを買おうと思うんですが」

といってきたときも

「それはいい。とにかく運転するのが楽しい車だ。ベンツはいい車だがもっさりした感じがつきまとう。安心ではなく、快適さを求めるのなら、私が知る中ではベストの選択だと思う」

と答えておいた。
彼は2011年製の325iの中古に決めたそうで、確か今日、車を引き取りに行ったはずである。ストレート6の3000cc。私の車よりレベルが上で、遥かに俊足である。車が好きなら、恐らく死ぬまでBMWに乗り続けるはずである。

ではあるが、やはり10年、10万㎞というのは、機械である車にとっては

「ああ、しんど!」

といいたくなる年月であるのは間違いない。
先日、ふとした機会に後部座席の足元にあるエアコンの吹き出し口周辺のプラスチック部品を見て、

「あれ、何で濡れてるんだろう?」

と首をひねったことがある。冷えすぎて水滴がくっついたか?
それでは拭き取ってやろうとボロ布を持って後部座席に乗り込んだ。拭き取ろうとして気がついた。これ、水ではない。プラスチックが変質して表面の色が変わっているのである。

「おお、とうとう老朽車になってしまったか!」

10年たった車だ。老朽化したプラスチック部品は見た目が悪いが、いまさら金をかけて取り替えるのも考え物である。いまの予定では、あと3年は少なくとも乗る。あとは、車の様子をうかがいながら買い換え時を探る。買い換えがそう遠くない未来に見えているのに、見た目が悪いからといって金をかけるのはもったいないではないか。

だから、今日は自分で作業をした。
1ヶ月ほど前から気になっていたボンネットの傷である。洗車をしていて気がついたのだが、石が飛んできて塗装を剥がしたと思われる傷が2カ所にある。しかも、かなり深い傷で、鉄板にまで到達して錆が出ている。

「ありゃー、これは放っておけんわ」 

プラスチックのパーツなら、塗装膜がすべて剥がれ落ちた傷でも本体が錆びることはない。だから、見た目を気にしなければ放っておけばよい。 
だが、ボンネットは鉄である(多分)。空気と水にさらされ続ければ酸化し、錆となる。錆が広がれば鉄板はボロボロになり、やがて穴があく。それは困る。 

かつては、運転車の責任ではない事故での車の傷は、車の保険で直すことができた。等級も変わらないから、使わない手はない。いまの車で2度ほど使った。 
申請をすると、調査員が来る。傷の様子を見て、運転手、つまり私に責任がある傷か、それとも責任のない傷かを見分ける。ドア部分についた傷も、前後に真っ直ぐのびた傷なら私が何かをこすったと疑われるが、グニュグニュと曲がったラインなら、どこかのイタズラ坊主がおもしろ半分にやってのけたのだろうと判断できる。 

今回は、跳ね石によるボンネットの傷で、私の運転に起因するものでないことは明らかだ。だが、私は保険の申請をしなかった。
数年前から制度が変わったのだと通告されていたからだ。私に責任がない傷でも、保険で修理をすると等級が1つ下がる。つまり、支払う保険金が上がる。その状態が最高等級になるまで続くから、総支払額はかなり増える。となると、自分で直すか、自腹で修理代を払うか、保険で直すか、自分で判断しなければならない。 

今回は自力で直すことにした。
保険適用は最初から断念した。では修理工場に出す? が、傷は小さい。それでも修理工場に出せば、 

「これ、ボンネット全体の塗り直しだね」 

となる。かなり金がかかる。 

「まあ、もう10年の車だし、多少見た目が悪くなったって、許容範囲でしょう」 

と決めた。 


作業は昼食後に始めた。 
まず錆落としである。こんな小さな傷(直径が0.5㎜、0.2㎜ぐらい)の錆をどうやって落とそうか? 錆を落とすには強い力でサンドペーパーを押しつけて磨いた方がいいと思うが、こんなに先が細い棒にサンドペーパーが巻き付けられるわけがない。 
仕方がないから、サンドペーパーを四つ折りにした。その尖った部分で錆を落とそうというのである。 

一つの角で磨くのだが、使っているサンドペーパーの部分はほんのちょっぴりだから、すぐに磨けなくなる。そうなると、折り曲げる部分を変えて新しい角を作った。何度もサンドペーパーを折り曲げて続けると、塗装が完全に落ちて鉄板が見えてきた。錆も落ち、鉄板がキラキラ光って見える。だが、目を懲らすと、鉄板と塗装の下地が接触する部分は赤い錆の色だ。塗装の下地の下にまで錆が入り込んでいるらしい。 
仕方なく、その下地を少しずつサンドペーパーで磨いて錆と一緒に取り去る。見える部分全体がピカピカにならねばならないのだ。 
2つの傷を磨き終えると、傷の大きさは二回りほど大きくなった。

次は塗装である。 
実は、いまの車を買ったとき、ディーラーに補修用のペイントをもらってあった。これがあるから自力で修理しようと思い立ったのでもあるが、さて、10年たった補修用ペイントは使い物になるか? 開けてみると、まだ液体状だ。何とかなるだろう。

新たに買い求めた習字用の細筆にペイントをつけ、慎重に傷に塗り込む。しばらくすると渇くが、何だかへこんでいる。それは嫌だから、乾いた上からまたペイントを塗る。こうして5、6回塗り重ねて修理を終えた。 
 
見た目? いやあ、それはよくない。私がペイントした部分は表面が凸凹である。平らにする手段がない。塗り重ねたあとで1500番ぐらいのペーパーで磨いて平らにすると書いた本もあったが、それ、塗装に新しい傷をつけるだけではないか? 明日ディーラーに聞いてみるか。 

加えて、色が違う。私の車は濃い緑である。補修ペイントももちろん、多分最初は同じ色であったはずだが、一方は10年間雨風にさらされ、他方は10年間、ケースの中で、多分徐々に化学変化している。これは、どう考えても同じ色が出せるはずがない。 

まあ、それは諦めよう。なにしろ10年、10万㎞の車なのだ。その程度は大目に見てやらねば可愛そうではないか? 

まあ、これで錆が進行する危険だけは排除できた。それをもって満足するしかない、と自らを慰めている今日の私である。