02.11
2016年2月11日 やるね!
「いまからスキーに行くんだ!」
iPhoneのFacetimeで、つまり携帯テレビ電話で、啓樹から連絡があったのは今朝の9時半頃だった。
「何処に行くの?」
「御在所」
見ると、啓樹はすでに車中の人である。
御在所岳とは、啓樹、嵩悟の一家が住まう四日市の背屏風となる鈴鹿山脈の一角である。かつて三重県津市に居住した私の記憶を辿ると、四日市の市街から車で約30分。ロープウェイで山頂まで登ると、都会のすぐ近くにかような高山があったか、と驚く。
そのスキー場に家族全員で出かけるのだという。
「いっぱい滑ってこい!」
次に知らせをもたらしたのはFacebookであった。新しい投稿があったとメールで知らされ、何事ならんと見てみると、おお! 何と!!!
嵩悟がスキーを履いてゲレンデを滑り降りているではないか!
正月、ファミリーのほぼ全員で苗場スキー場に遊んだとき、5歳の嵩悟はスキーを履くのをいやがった。とうとうスキーを履かず、ソリやゲレンデ専用の自転車を使った雪遊びに終始した。
まあ、そりゃあそうである。生まれて初めて見渡すかぎり雪また雪の世界に来た。
「さあ、ここでスキーをするんだぞ」
といわれても、スキーとはいかなるものか、嵩悟の中で像を結ぶはずがない。ゲレンデを見ていると、何やら恐ろしい速さで滑り降りてくる奴らがいるではないか。
「何、あれ。あんなことして何が楽しいの? 転んだら怪我するジャン!」
一片の恐怖感をと尾内ながらそう思うのも無理はない。
それに、璃子がいた。
璃子とは、大胆そうでありながら、実は慎重派である。少しでも怖いと思うと、絶対に足を前に出さない。
いや、それだけなら嵩悟だけがスキーを履くシーンがあってもおかしくはなかったのだが、璃子は嵩悟の4ヶ月お姉ちゃんである。わずか4ヶ月の差なのだが、あの年頃の4ヶ月は絶対的な重みを持つ。
「璃子、スキーなんかしない。嵩悟もしないでしょ?」
という会話があったかどうか知らないが、璃子がスキーに目を向けないかぎり、その日の嵩悟には
「僕、スキーする!」
という自由はなかった。いや、これも、なかっただろうと私が想像するだけではあるが、嵩悟にとって璃子は大好きな従姉妹であり、一番年が近いライバルである。それと同時に、姉御肌の璃子は、なかなか乗り越えられない大きな壁なのだ。
その絶対権力者から解き放たれた四日市で、家族と一緒にスキー場に到着した嵩悟は、絶対権力者を乗り越えるためにもスキーを履いた。履いて滑ったら
「これ、面白いジャン!」
Facebookにアップされた動画を見ると、ほぼ直滑降である。曲がる自由も、止まる自由も、まだ嵩悟は手にしていない。体重が後ろにかかって板に乗り切れていないのも見て取れる。
だが、驚いた。嵩悟は今日初めてスキー板を身に纏ったのだ。それが1時間足らずの間にゲレンデを滑り降りる技量を身につけた? 冷たい空気が頬を勢いよく愛撫し、風が耳元で爽快な音を立てる快感に気がついた?
「まだ帰りたくない」
嵩悟はゲレンデで、何度もそう主張したのだそうだ。よほど楽しかったのである。
今日が2回目のスキー体験である啓樹は、それなりにゲレンデを楽しんでいたという。
午後、電話があった。
「ババ、スキーを教えてくれてありがとう」
そういえば、正月の苗場行きを企画したのは我が妻女殿である。その手配一切は長男に任されたが、実際に手配したのは次女であった。極めて複雑な経緯を辿りながら、子供たちはホテルの出口から始まるゲレンデを目一杯楽しんでくれたようだ。
楽しめなかったのは、最初の一滑りで体力の限界、気力の限界という、加齢に伴う事実に気づかされた私だけであったか。
「ボス、ここはゲレンデがなだらかだから、ボスでも滑れると思うよ。今度一緒に滑ろうよ」
来週、スキー教室でゲレンデに行くという啓樹がそう宣うた。うん、来シーズンは御在所で滑り、スキーの感を取り戻す試みをしてみるか?
という心楽しい話があったかと思うと、自宅でははなはだ不快なことが起きた。我が家の無線LANがダウンした。
何度か書いたが、我が家のオーディオ環境はすべてネットワークオーディオに切り替わった。音質、そして利便性の両面から圧倒的に正しい選択であったが、唯一の泣き所はネットワークである。プレーヤーはネットワークを介して音楽データを取りに行く。そして、プレーヤーを操作するのも、ネットワークにつながったパソコンやiPhone、iPadである。ネットワークがダウンしてはプレーヤーを操作出来ないし、そもそもプレーヤーは音楽データを取り込めない。
なのに、極めて稀なことだとは思うが、本日午後、我が家の無線LANが突如ダウンした。
朝から録画済みのディスクの整理に追われた。事務所で久しぶりにThe Beatlesを聞きながらの作業である。午前中で終わらず、昼食をとって午後に入った。作業をするのだから、バックグラウンドミュージックは欠かせない。
「さて、次は何を聞こう?」
とパソコンでネットワークプレーヤーにアクセスしようとするのだが、つながらない。
「ん?」
と首をひねってもつながらない。探ってみると、無線LANでつながった機器が、すべて認識されていない。
「おい、俺が昼飯を食ったのが気にくわないのか?」
と悪態をつきながら、パソコンを立ち上げ直し、ADSLのモデム(この借家、まだ光回線は入っておりませんので)を立ち上げ直し、無線LANルーターの電源を入れ直しても何ともならない。自力でできるのはここまでである。メーカーのサポートに助けてもらおうと思っても今日は休日だ。万事休すとは、このような事態をいうのであろう。
従って、いま我が家では音楽を聴けない。明日は平日だから問い合わせたいのだが、妻女殿の定期検診日で朝から前橋日赤に行かねばならず、桐生に戻れば仕事がある。問い合わせる時間があるかどうか。
悪くすれば、週明けまで音楽から切り離されたしまう私であった。ああ、困った、困った。困ったサンの風に吹きさらされながら、それでも少しハッピーな私である。