2016
03.04

2016年3月4日 新聞の怪

らかす日誌

ご承知のように、我が家には桐生で手に入る一般紙(ただし産経新聞を除く)と日本経済新聞が入る。会社のお仕着せで、それを読むというか、正確に言えば眺めることから私の1日が始まる。

新聞というのはどれも同じように見えるが、比べて読むとそれなりに違っているもので、だから朝日ファンや読売ファンがいるのだろう。とくにローカル面は

「へえ」

というほど違う日が多い。これは多くの新聞をながめてみなければわからぬことである。

地方には大きなニュースが少ない。だから、みんなが書かなきゃいけないニュースがある日はそれほど多くない。勢い、記者さん方個々人の好みや関心、人脈などがニュースに現れるのだろう。何を好み、何に関心を持ち、どのような人脈を築くのか。それが日々の紙面に反映するとなれば、特に若い記者にとっては、地方はのちの発展を睨んだ修業の場ともいえる。

そのようなことを前提として、私が今朝怪訝に思ったことをご紹介する。
朝日、読売、毎日、東京、そして上毛新聞(これは社会面であったが、地方紙とはそのようなものである)が、まるで談合でもしたかのように、高崎市で起きた小学生の交通事故をトップに据えていたのである。

3日朝、集団登校中の子供たちに、73歳の男が運転する乗用車が突っ込み、1年生の児童が死んだ。アクセルとブレーキを踏み間違えたのが事故の原因だという。

もうすぐ2年生になる子供が事故死する。確かに悲惨な話である。親御さんや友だち、先生たち、おじいちゃん、おばあちゃんは泣けばいいのか、怒ればいいのか。とにかく、可愛い盛りの子供を突然に失ったことに呆然とされているに違いない。悲しみがどっと押し寄せるのは数日後ではなかろうか。
私は幸い、子供を亡くしたことがない。だから、親御さんのお気持ちの芯までわかるとは思えない。足りない想像力で

「これが私の子供が被害者だったら」

と思い描くことしかできない。それでも、深く同情する。

だが、である。これ、新聞が横並びになって地方面トップで報じるようなニュースなのか?
1紙ならわかる。2紙でも理解できないことはない。しかし、これほどまで呼吸を合わせて大々的に取り上げるということは、それこそ談合があったか、それとも誰かの意向が強く働いたか、と疑いたくなる。この際の「誰か」は警察関係者をさす。

そもそも交通事故とは、新聞やテレビでその悲惨さをどれほど報じても、減るものではない。

「いや、ハンドルを持つ人たちの安全意識を高める効果はあるはずだ」

と反論なさる方もあろう。
だが、考えてもみてほしい。誰が好んで事故を起こす? ハンドルを持つときは、誰しも無事故で帰宅することを信じて疑わないのだ。
それでも、事故は起きる。人間とはミスを犯す生きものであるからだ。失敗しない人などいない。

だから、新聞やテレビで、事故が起きたときの状況を詳しく説明したり、関係者や目撃者の話を集めて事故の悲惨さを盛り上げてみても、実は社会に及ぼす効果は限りなくゼロに近い、と私は思う。
何らかの効果があるとすれば、報じた連中の

「何だかいいニュースを出しちゃった」

「一所懸命に書いた記事だぞ」

という自己満足しかない。と私は思う。

さらに、ちょいと困ったのは、朝日新聞である。
果敢に事故原因の分析にまで踏み込んだ朝日は、

「年寄りだから事故を起こした」

と結論づけてしまった。
それも、唖然とするほど杜撰な論理構成である。これがまかり通る世の中を、私はエイジハラスメントの時代と呼びたい。
ここにその一節を書き写す。

「(何故か男性運転手の事故に話を絞ったうえで)年代別では、多くの年で最も多くの事故を起こしたのは20代。2014年は60代が554件、70代が694件、80代が463件なのに対し、20代は820件と最も多かった、担当者(財団法人交通事故総合分析センター)によると、20代が多いのは、まだ運転に慣れていない若い人が多いためと見ている。『ただ、若者は運転操作の誤りをすぐに修正できるので大事故につながる例が少ないのでは』」

まず、稚拙な日本語の問題。

「多くの年で最も多くの」=繰り返しがうるさい

とか、

「20代が多いのは(中略)若い人が多いため」=そもそも20代は全員が若いのでは?

などという表現は、言葉で飯を食う人種である以上、恥じるべきである。

それより、問題は杜撰な論理構成である。データでは、事故数では20代が最も多い。それでは、年寄りをやっつけることはできないとでも考えたか。

「若者は運転操作の誤りをすぐに修正できるので大事故につながる例が少ないのでは」

とう一文を付け加えた。
おいおい、そもそも、重大事故は年寄りが起こす比率が高いのかね? それなしに、突然こんな書き方をされたら、筆者は、理屈抜きで年寄りを差別しているとしか受け取れないのだがね。
しかも、結論に直結するところが、「では」では、すんなり受け止める人は皆無ではないか?

ここに至るまでの論理もへなちょこだ。
年代別の事故件数を出して、突然20代が一番多いと書く。だが、それぞれの年代で運転免許を持っている人の数、つまり母集団をはっきりさせないと、20代が一番事故を起こすとはいえない。
20代の免許所有者は100万人で、1年間に820件の事故があり、60代は50万人しかいなくて554件事故を起こしていたら、60代の方が遥かに危険であることは、小学生も高学年になればすんなりと理解するはずである。60代の免許所有者が100万人いれば1108件の事故を起こす計算になるからだ。
朝日の記者は統計数字の読み方も知らないか? 

確かに一般論としては、高齢になれば運転技術が衰える。しかし、衰えた技術をカバーする経験知も積むはずだ。それでも高齢者が危ないというなら、重大事故(どこから先が重大事故かよくわからないが)をすべて集めて原因者の年代別に分けるのが、最初の手続きであるはずだ。
財団法人交通事故総合分析センター、って、きっとお巡りさんの天下りのために国がつくった法人だよな。ご大層な名前をつけている割には、分析がまったくできていないと思うのは私だけか? それとも、取材した記者の力量では、この程度の話しか聞けなかったのか?


車といえば、横浜の次女である。免許の更新を忘れ、気がついたのは、何と期限を1週間も過ぎていたのだそうだ。

「それでどうなる?」

と聞いたら、

「改めて免許を取るしかないの」

ということで、自動車学校に通い始めたそうだ。もっとも、初心者として通うのではなく、仮免許までは進んだ、ということで通うのだそうである。
あとは実技試験を受けて筆記試験も受けて、と、もういちど免許を取り直す。

いまや次女も、瑛汰と璃子に

「勉強しなさい」

といわざるを得ない立場だ。
その立場で試験に落ちたりしたら、特に筆記試験に落ちたりしたら恥ずかしいぞ!
心せよ!!