09.27
2016年9月27日 パイプ煙草
パイプ煙草を再開したことは、確か一度書いた。と思ってgoogleで「らかす パイプ」と入れたら、今年6月9日の日誌が出てきた。まだ私の記憶力はたいして衰えてはいないようだ。
いや、記憶力はたしいて老化していないことを自慢するのが今日の目的ではない。パイプ煙草ライフのその後の進展具合を報告しようというのだ。
6月、パイプ煙草再開は1900円で新に買ったミニパイプを使った。かつて使っていたダンヒルのパイプがどこかに行って見あたらなかったためである。
所詮は1900円、といってはいけないのだろうが、しばらく使っているうちに不満が貯まりだした。
まず、煙が流れてくる煙道が詰まりやすい。ために、こまめに掃除をしなければならぬ。
吸っているうちに、
ジュルジュル
という音が出やすいのも色気がない。こんなこと、ダンヒルでは起きなかった。唾液が煙道を逆流してどこかにたまり、煙を吸い込むたびに音を立てる。これをジュースというらしい。
パイプをくわえて格好良く決めようという時に、こんな音が出たのではつや消しである。
というわけで、パイプを1本買い足した。2600円。
うーん、確かに煙道が詰まることは少なくなったが、これはこれで問題がある。どういう訳か、煙草の味が変わってしまう。吸っているにの、ちっとも口中にいい味が来てくれないのだ。煙草がまずい。
何だか吸い口が分厚いのもいただけない。もう少し薄いほうがくわえ心地がよい。
ために、Amazonでまたパイプを買った。
柘製作所(tsuge) パイプ イースター・ナイン・スポーツ #40999
3456円。本当は
柘製作所(tsuge) パイプ イースターナイン・68 #40998
6026円、に心を引かれたのだが、たまたま在庫がなかったので安い方にした。
その安い方だが、なかなか具合がよかった。パイプの中に交換式のフィルターが入っており、流れてくるタバコの煙が何だかマイルドになって味もいい。
「いい買い物をした」
と数日は満足した。
ところが、ほんの数日で
「なんだ、こりゃ」
に変わる。
パイプは、タバコの葉を詰めて燃やす木製部分と、それにはめ込むプラスチックの吸い口でできている。この2つは差し込めばピッタリはまるように作られている。そうしなければ、吸っているうちに木の部分が外れて火のついた葉がそこいら中に散らばってしまう。汚いだけでなく、危ない。
その、危ない、が起きた。
引っ越し前の家だった。事務室で葉っぱを詰め、さて吸おうとパイプを口にして外に出ようと玄関まで歩いていたら、葉っぱが詰まった木部とれて落ちた。
「ん? しっかり差し込まなかったのか?」
幸いまだ火はつけていなかった。落ちた木部を、今度はしっかり吸い口にはめ込み、再び口にくわえてドアを開けた。
カッツーン
また、落ちた。
「どうなってるんだ?」
今度ははめ込んで回してみた。グルグル回る。回るだけでなく、いつでも外れてやるといわんばかりに、ブカブカの止まり具合だ。これなら3度目に落ちるのは目に見えている。とりあえず木製部分を手で持ちながら一服し、さてどうしたものかと考えた。が、
本来きつくはまり込んでくれなければならない部分が甘い。加工の際、サイズがほんの少し狂ったのに違いない。吸い口の連結部で中に入るところに何かを巻き付ければきつくはまるだろうが、何を巻く? いや、適当なものがあったとしても、パイプを掃除するたびに何かを巻き付けねばならない。面倒である。
というわけで、返品・交換をした。 柘製作所からは丁寧な謝罪のメールと、新しいパイプが届いた。
不具合の内容は伝えてあるのだ。
「今度は大丈夫」
と誰だって思う。私も誰だっての一員であった。
ところが。この新しいパイプも数日中に木製部分が勝手に外れるようになった。何ということだ。
このパイプ、よく見ると
made in Italy
と書いてある。ほう、イタリア製か。であれば、加工が甘いのは仕方ないか。とすれば、何度交換しても結果は同じになるのかな。
諦めにも似た気持ちになった。捨てようか、だましながら使い続けようか、迷った。迷った末に、柘製作所に、起きたことを詳細に記したメールを出した。 クレームをつけたつもりはない。ただ、そちらがお売りになっている商品には、このような欠陥がありまっせ、と知らせるだけのつもりであった。
ところが、である。丁寧な返事が来たのだ。
「今回は、当社で接続部分を充分調べた上で、通常の使用では外れないと確信できるものを送るので、是非使っていただきたい」
数日後、それが届いた。いま使っているパイプである。
感心した。たかが3456円のパイプである。1本当たりの利益がどれほどかは分からないが、この料金で私に3本のパイプを送り、その送料も負担したのでは、利益など出るはずがない。確実に赤字である。一見の客にもこれだけの対応をする。
使えないパイプを売ったのはいただけないとしても、その後の対応は私を唸らせるに充分であった。この会社、信用できる!
以来、この3456円のパイプは私の大事な1本である。最初に買おうと思った6026円のパイプも買おうかな? と考え始めている私がいる。
そうそう、あのダンヒルである。出てきたのだ、引っ越し作業で。事務机の裏側に潜り込んでいた。
「ああ、よかった!」
と一安心したが、現れたダンヒルのパイプは変わり果てた姿になっていた。
プラスチックでできた吸い口は、もとは艶のある黒だった。それが、どういう訳か全体に緑っぽく変色していたのである。机の裏側に滑り落ちていたのだから、太陽光にさらされたわけでもない。いったい何が起きたのか?
それはそれとして、せっかく先輩からもぎ取った高級品も、ここまで色変わりされると惨めである。
「これ、何とかならんかなあ」
市内の煙草専門店に相談した。色変わりしたとなると、口に加えるのも何だかなあ、となる。
だが、
「はあ」
という返事しか戻ってこなかった。どうしても、というのなら、パイプメーカーに修理を頼むのだそうだ。料金は限りなく1万円に近い。場合によっては数万円かかることも。
「そんなあ。そんなに金を出せるかよ。もう年金生活者なんだぜ」
と正しい反応を示した私は、自力更生の道を探った。自分の力でダンヒルのパイプを甦らせる。使える金が限られていれば、自分でできることは自分でやるしかないではないか。家具店に本棚を探しに行かず、自分で作ることを考えるのと同じ合理的な精神である、といいわけをしておく。
とはいえ、どうしたものか。目の細かいサンドペーパーで磨くことは考えたが、いくら目が細かいとはいえ、サンドペーパーはサンドペーパーだ。傷が残ることはないか?
ずっと迷って、試しにgoogleで検索してみた。狙いにピッタリのページに行き着くまでに、さて、どれぐらいに時間を費やしただろうか。それでも、あったのだ、参考になるページが。
まず、2000番のペーパーで磨く。仕上げにポリッシュで磨く。解答を探し求めていた私が、直ちにそれらを発注したのは言うまでもない。
プラスチックをペーパーで磨けば細かな削りカスが出る。だから、屋内では作業はできない。駐車場に出て、まずサンドペーパーで磨いた。
吸い口は、太いところで直径が約1㎝、長さが7.5㎝の筒である。これを左手で押さえ、右手に持ったペーパーで磨く。なるほど、2000番ともなると、目で見た限り削り傷はできない。それでも、少しずつプラスチックは削れていき、緑がかっていた吸い口が徐々に黒い色に戻って昔の姿を取り戻していく。なかなかに気分のいい作業である。
「あ、あれ?」
左手の指がつった。隣り合って吸い口を抑えつけている人差し指と中指がすっかり仲良くなり、
「何があろうと我等は一緒!」
とでも言いたげに、離そうとしても離れない。困るんだよなあ、好き勝手に野合してくれちゃ。やむなく右手で2本の指を引き離す。
別に痛みはないのだが、ついつい
「若い頃には、こんなことはなかったがなあ」
と考えてしまうのは67歳のせいか。
吸い口は磨けば磨くほど黒くなる。ばかりか、口にくわえた際に歯でつけたに違いない噛み傷も少しずつ浅くなる。チマチマした磨き作業の成果が出始めた。
「これ、修理に出したら機械でやるんだろうなあ。だとしたら、せいぜい5、6分の作業じゃないか。それで1万円近くふんだくる? それって暴利じゃない?」
磨き作業をしながらそんなことを考える私はケチなのであろう。
1時間ほどの作業でほぼ満足のいく仕上がりになった。部屋に戻ってポリッシャーで仕上げたら、すっかりツルツルになり、
「予は満足じゃ」
の世界である。
という次第で、パイプ煙草はすっかり我が暮らしに馴染んでいる。
朝食後に一服、昼食後に一服、夕刻に一服。すべて駐車場に出て本を読みながらの私の時間である。ご自分も煙草をたしなまれながら、パイプタバコの煙には
「臭い! 出てって!!」
と容赦のない妻殿と同居している以上、そこしか私のフリー・スペースはない。
パイプ煙草の効果は覿面(てきめん)である。何しろ、1日の紙巻き煙草の消費量が4、5本に減った。20本入りの煙草が4日もつ。15、6本吸っていた数ヶ月前と比べれば、肺に送り込むタバコの煙は3分の1に減った。パイプ煙草はふかすだけで肺には入れないから、初期肺気腫の我が肺の負担は激減したはずだ。
という実績を踏まえ、「らかす」読者で、高齢の愛煙家の方々にはパイプ煙草をお勧めしたい。残りの方が少なくなった人生に、これまでとは違ったゆとりと楽しみが生まれ、ひょっとしたら人生のり時間も増えますぞ!