12.20
2016年12月20日 DAC完成!
長らくお待たせした。
あの、6月に手がけ始めた自作DACが、やっとの事で完成した。先週末のことである。
「だったら、なんでもっと早く日誌に書かない?!」
という方もおいでになろう。私も読者ならそう思う。だが、筆者としていわせていただければ、何となくタイミングが合わず、加えて先週金曜日から東京——横浜に出かけていたので書けなかったのである。了とされたい。
作りかけになっていたDACに最終的な手を加え始めたのは先週の水曜日、14日のことであった。そう、そこまでは前回の日誌でご報告した。
その日は時間が足りず、おまけに電源を入れてから45秒たたないと音が出ないという不思議な現象につきまとわれて時間切れとなった。最終仕上げにかかったのは翌15日であった。
前日の作業で音が出るまでにはなった。そこで、ではそのままアルミ板と木の板で作ったケースに入れてしまおう、ということになった。基板をケースに取り付けるには、入力系統、出力系統、電源部分など、ハンダ付けをしてあるところを一度取り外し、入力端子、出力端子、電源入力端子、ヒューズホルダーなどをケースにねじ止めし、電源基板、DAC基板もケースに取り付けた上で先ほど外したハンダを付け直さねばならない。まあ、面倒臭いが、それほど難しい作業ではない。
「Mさん、終わりました。音を出してみますか」
我が師Mさんは前日と同じく、小型のアンプ、スピーカー、そして音源としてCDプレーヤーを取り出してくれた。それらをつなぎ、電源を入れる。
なにしろこのDAC、45秒たたないと音が出ない。そこは既知のことである。だから、電源をいれてCDプレーヤーの再生ボタンを押しても音が出ないのは承知の上である。
「うーん、やっぱり出ませんねえ」
という私の声にはゆとりがあったはずである。
だが、である。音が出ない時間がおおむね45秒を越えると、さすがに気分はよくない。
「出ませんね」
という言葉からは力が失われていたはずだ。
そして、2分近くたっても音が出ないとなると、
「えーっ、昨日は出たのに、何でケースに入れたら音が出ない!」
と絶叫に近くなるはずだ。私は、多分絶叫していたのだと思う。そんな私を見て、Mさんは冷静にいった。
「出ませんねえ。いや、私、どうもこことここが疑わしいと前から思っていたのですが……」
Mさんが示したのはDACチップ2枚、そしてマイコンの前にあるロジックIC(何のことか分からない人も多数だと思いますが、筆者の私もよくわからないところで、これ以外の書き方ができません。お許しを願います)のハンダ付けだった。
DACチップとは、デジタルで運ばれてきた音楽信号を、アナログの音楽信号に変える基幹部品である。ここのハンダ付けが不良であれば、音楽信号は出ていかない。
「でも、昨日は音が出たじゃないですか。それでも疑わしいですか?」
「はい、ハンダ付けが不良でも、たまたま昨日は接触が保たれていて、今日動かしたんでそこが離れちゃった、というんじゃないですかねえ」
といわれても、 1回目の製作記で書いたように、このチップのハンダ付け部分はチップの裏側にある。目で見てハンダ不良を確認することはできない。
で、ロジックICとは、入ってきたデジタル音楽信号を左チャンネル、右チャンネルの信号に分けて次の段階に引き渡す仕事をしているらしい。だから、ここのハンダ付けがうまくいっていないのが、45秒間の遅れの原因ではないかというのだ。
なるほど。Mさんの診断は理解した。まあ、本当に当たっているかどうかは別だが、とりあえずそこを治療するしかない。
だが、なのだ。すでにDAC基板はケースに取り付け済みである。このままではハンダをやり直すなんて無理である。やむなく、出力や入力の配線を取り外し、DAC基板だけを取り出した。 ああ、面倒!
いわれた3つのチップのハンダ部分にフラックス液を塗る。そしておもむろにハンダごてをあて、ハンダを流す。流れすぎたハンダはハンダ吸い取り線で吸い取る。
「Mさん、点検を御願いします」
基板をケースに戻し、配線のハンダ付けをやり直す。さあ、改めての音出した。
おお、出た! 出たけど、ん? 右からしか出ていないぞ!
念のため、DACとアンプを繋ぐコードを左右入れ替えてみる。今度は左から音が出ない。まだどこかおかしいのだ。
再度DAC基板を取り外し、あの3点のハンダ付けをやり直す。
「Mさん、何だか基板の銅箔が剥げてきたみたいなんですけど、大丈夫ですかね?」
「ちょっと待ってください。うーん、この回路図だと、剥げちゃったところは生きていない、つまりどこにもつながっていないので、問題ないと思います」
「やり直しました。再点検を」
チャレンジ、再チャレンジ、再々チャレンジ……。
「チップは壊れてはいないだろうな。基板の配線は持つかな」
一時は絶望し、新に基板セットを買い直して最初から作ろうかと思い詰め、手元の完成間近に迫った基板を放り投げようとした。が、こんなもの、音が出てみれば何ということはない。一時の気の迷いであった、としか思えない。結末は、それほど呆気なかった。
「あれ、出ましたね。右も、左も、うん、出てる!」
とMさん。
「音質は大丈夫ですかね」
と恐る恐る聞くと、
「そうですね」
と違ったスピーカーを取り出してくれた。そして音楽を再生。
「私、自分の耳にはそれほど自信がありませんが、うん、大丈夫だと思いますよ。私が作ったヤツと違わないと思うなあ」
私は思わずMさんの手を握りしめてしまった。ヘテロでしかない私の行動だから、愛ゆえではない。感動の余りである。
かくして出来上がった、私の最初の自作DACは、正面は木製。山桜の板である。そこに小さなスイッチが2つ(電源スイッチと、入力の切り替えスイッチ)と、電源オンで光るLEDの小さなランプがある。他の面はすべてアルミで、後ろには出力端子と、2つの入力端子、電源端子、ヒューズホルダーが付いている。ほかには何もなく、極めてシンプルなつくりだ。
できた!
多分、2万円まではかかっていない。極めて安上がりな趣味ではないか!
次はどのDACチップを使って作ろうか? 早くも先を考え出す私であった。
出来上がったDACを、意気揚々と車に積み込んで自宅に凱旋したのはいうまでもない。ところが、まだ自宅のシステムには接続していない。金曜午後には東京での飲み会に出かけ、自宅に戻ったのが日曜日の夕方だったので、まだ接続する時間がとれないのである。
よって、試聴記は後日をお待ちいただきたい。
金曜日に東京に出かけたのは、名古屋時代に一緒に仕事をした後輩たちとの飲み会のためだった。うち一人が早期退職の道を選んで退社。ついでに、8月末で会社にお役御免を言い渡された私もいて、2人を肴にして飲もうという趣旨である。
驚きは、その場で起きた。
そろそろ宴も終末を迎える頃だった。その、早期退職をした女性が、突然帰り支度を始めた。
「あれ、気が早いな」
と見ていると、彼女は突然立ち上がり
「私は退職をして、大変忙しいのです。この場でもっと意味のある話ができるかと思って来たのですが、どうでもいい話ばかりで、これは私にとっては時間の無駄遣いです。私には無駄に使う時間はありませんので帰ります。次回からは私を呼ばないでください」
と挨拶すると、場をけって部屋を出て行ったではないか!
? ! ? ! ? ! ? ! ? ! ? !
いったい何が起きた? 飲み会が時間の無駄? 飲み会って元々、無駄な時間を楽しむために開くんじゃないのかい? ゆとりがなくなった人生なんて単なる砂漠だぜ。
いや、いいたいことはいくつもあった。でも、いおうとした時は、彼女の姿はすでになかった。
いったい、何が起きた?
何が起きたかは分からぬ。彼女に聞く気もないから、分からぬままだろう。女とは、という一般論にしてしまうのは女性総体への侮蔑であろうし、早期退職後の彼女の有様に解答を求めようとしても、何のデータもないのでげすの勘ぐりになりかねない。
その後、2人に誘われて新橋に舞台を移し、2次会と相成った。その場で彼女の話は一言も出てこなかった。それでよい。どこかで破裂するしかないものはどこかで破裂する。破裂しても、周りに何の痕跡も残さない破裂の仕方があるというだけのことである。
彼女にある種の哀れさを感じるのは私だけか?
その夜、横浜の次女宅に宿泊。翌土曜日は、璃子のクリスマスプレゼントの買い物であった。夜、長男夫妻が訪れて食事。3月に初めての子供に恵まれる長男の嫁のお腹は、ぷっくり膨らんでいた。
日曜日。瑛汰、璃子と「スター・ウォーズ」の最新作を見に行く予定だったが、添い寝した3人が目覚めたのは午前8時。それからでは第1回の上映に間に合うはずもなく断念し、この日は瑛汰のクリスマスプレゼントの買い物に模様替え。
瑛汰は7月の誕生日にプレゼントに迷い、これまで買っていなかった。誕生日とクリスマスの合わせ技で買った野球のトスマシーンとサッカーのキーパーグローブに瑛汰はご満悦の様子だった。
という次第で、日誌の執筆が先送りになったことをご説明して、今日の日誌を閉じることとする。