2020
03.16

森法務大臣って、きっと興奮しやすい人なんだと思う。

らかす日誌

ちと旧聞に属するが、森法務大臣の国会答弁が面白い。問題になっている

「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から市民が避難していない中で最初に逃げたわけです。その時に身柄拘束をしている十数人の方を理由無く釈放して逃げたわけです。そういう災害の時も大変な混乱が生じると思います」

というやつだ。
最初に知ったとき、この人が何を言っているのか理解できなかった。

私の情報収集力の問題かも知れないが、3.11の際、いわき市で検察官が職場をおっぽり出して逃げたなんて話は、この方の発言で初めて知った。私が知らなかったということは、他にも知らなかった方がたくさんいらっしゃるはずで、ひょっとしたら知っている人の方が少ないかも知れない。これは前置きである。

曲がりなりにも森雅子さんは法務大臣である。ということは、全国の検察官は彼女の指揮下にある。つまり、あの時逃げ出した検察官も、いまでは彼女の部下である。
国会の場で、知る人が少ないかも知れない部下の落ち度をあえて口にするトップっているか?

とここまで書いて、

「そういえば、『秘書が、秘書が』って国会で連呼する大臣、議員もいたなあ」

と思い出したが、この際無視する。上に立つ者、みだりに部下の悪口を言うものではない。守ってくれない上司を誰が尊敬する? この人のために働こう、と誰が思う?
部下を面と向かって叱るのはいい(これも、最近はパワハラ、なんていう訳の分からないレッテルを貼られているが)。しかし、面と向かわずに、世間に向けて悪口を言ってはいけない。悪口の中身が例え事実であったにしても、である。

そう、だから普通はこんなことは言わないのだ。

では、なぜ彼女はこんなことを、国会の場で口走っちゃったんだろう? 彼女は普通ではない状況にあったのか? いったい、どんな質問を受けたからこんなことが口をついて出ちゃったのか?

何でも、その時国会では検察官の定年延長問題が議論されていた。東京高検検事長の定年を延長する、と突然安倍政権が言い出し、

「彼は政府べったり。汚職事件や公選法違反事件などが相次ぐ自民党が、検察の追及を阻むための定年延長じゃない?」

と追及されて、様々な迷答弁を繰り返しているヤツである。森雅子さんは検察人事の責任者として、迷答弁を繰り返した1人である。

で、この日のモンスター級の迷答弁を引き出したのは

「どのような社会情勢の変化があって日本中の検察官の勤務延長が必要になったのか」

というものだった。多分、かつての

「国家公務員の定年延長規定は検察官には適用外」

という政府答弁との矛盾を突かれ、

「あれは1981年の政府答弁。その後社会情勢が変わった」

とでも答えていたから、こんな質問が出てきたのだろう。
これに対する答弁が

「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から市民が避難していない中で最初に逃げたわけです。その時に身柄拘束をしている十数人の方を理由無く釈放して逃げたわけです。そういう災害の時も大変な混乱が生じると思います」

これ、話が通じます? 質問に答えていますか?

そもそも、3.11のような自然災害、それに続く社会的混乱は「社会情勢の変化」なのか?
いや、100歩譲って社会情勢の変化だとしても、だ。いわき市にいて3.11に遭遇した検察官が我先に逃げ出したことが事実だとしても、それと東京高検検事長の定年を延長することが、どこでどう結びつく?
私にはさっぱり分からないのである。森雅子さん、論理学などは勉強されたことがないのだろうか?

この答弁を一言で表現すれば支離滅裂。なんでこんなになっちゃったんだろう? と面白半分に考えていて、

「そうか、この人、極度の興奮状態にいて我を忘れたのに違いない」

と気がついた。
東京高検検事長の定年延長問題で答弁に立つのはこの人である。ひょっとしたら彼女自身、

「無理筋の人事?」

と薄々思っているのかも知れない。しかし彼女は安倍政権の一員であり、この人事の責任者でもある。無理筋でも押し通すしかない。様々な論争術を駆使して逃げ回って疲れ果て、

「もうイヤ!」

と頭に血が上り、突然冷静さをなくし、忘我の状態に陥ってしまったのではないか。そして、普段から頭にあった検察官への不信を口にしてしまった。彼女は福島県いわき市の出身。自民党が野党だったときは、この問題で当時の民主党政権を追及していたから、検察への不信感はその当時から彼女にこびりついていると思われる。それが、頭が混乱したときに飛び出した。
そうでも考えないと、この答弁は理解できないのである。

それにしても、かつて怒り心頭に発した検察官を自分が指揮命令することになるとは、神ならぬ身の森雅子さんはどう受け止めていらっしゃるのか。大臣にまで上り詰めて位階人臣を極めたとはいえ、人生とは皮肉なものではある。

それにしても、である。この問題に対する野党の追及の仕方は

「誤った事実に基づく答弁だ」

というのだから

「?」

である。そうか、そんなにはっきりしたことか? 地元選出の国会議員が、あれから9年もたって、まだ根に持っていることだぞ。地元では広く信じられているに違いないし、森雅子さん自身、国会議員としての立場からしても、かなりの根拠を持っていらっしゃるから発言されたのではないか?

まあ、身柄拘束していた被疑者を解放したというのはあり得ることだろう。あの大震災のさなか、被疑者を拘束しながら安全を確保する方策はなく、やむなく、安全の確保をそれぞれの被疑者に任せざるを得なかったのは理解できることである。
しかし、いわき市にいた検察官が真っ先に逃げ出したとしたら、それは問題になり得る。

当時、検察庁は

「いわき市での業務遂行が不可能になったため、本庁の指示で職員を郡山市に移動させた」

という趣旨の説明をしていたようだ。だが、それでも森雅子さんの脳裏には、

「検察官が真っ先に逃げ出した」

というイメージがこびりついている。であれば、検察庁が嘘の説明をし、森雅子さんが抱き続ける事実の方が真実であることもあるのではないか?

今の野党は、かつて政権を持った民主党の流れを汲む連中が多い。事件は民主党政権下で起きた。そして、国会で森雅子議員の追及を受けた。森雅子法務大臣を追及する野党に

「自分たちがあの時説明したことに文句を言うのか!」

という党派のエゴ自己保身はないか?

今日の参議院で、この問題も議論されるという。野党は何を追及するのか。森法務大臣はどんな答弁をするのだろう?

このところ恒例となった中国における新型コロナウイルスによる死者数のグラフ。今日は朝から日誌を書いているので、まだ3月16んびちのデータが入っていない。ご容赦を願う。