01.14
松井社長の霊にご挨拶をしてきた。
今日の午前中、松井ニット技研をお訪ねしてきた。葬儀は親族だけで、とのことだったので、12月28日の告別式には遠慮をし、ご家族が多少落ち着かれるのを待って線香だけでも、と思ったのである。
奥様は不在で、息子さんだけがおいでになった。この息子さんとは余り親しく会話をしたこともなく、本当に線香に火を着けて、用意しておいた御霊前を位牌の前に置いて来ただけだった。それでも、なすべきことをしたような気はする。
しばらくして奥様から電話をいただいた。
その話によると、亡くなったのは昨年のクリスマス、25日だった。2週間ほど前に体調を崩されて入院中の出来事だったとのことである。
悪かった腎臓が主因ではなく、何でも腸に菌が入った。抗生物質の投与を受けながら回復を待ったが叶わず、ついには点滴で栄養を補給するようになり、最後は血中に菌が入って敗血症だったという。
「ごめんなさいね、留守をしてまして」
とおっしゃったので、
「家族葬とのことだったので年末は失礼しましたが、お世話になった松井社長には是非お別れがしたくてお訪ねしました」
とご挨拶した。
「主人もね、大道さんと話すのが楽しかったようで、ありがとうございました。いつでも遊びに来て下さい」
と言っていただいた。そうか、松井社長は私との雑談を楽しんでくれていたか。
「はい、そのうち伺わせていただきます。松井さんのところで出していただく日本茶は本当に美味しいので、是非お茶を振る舞って下さい」
と申し上げた。
そう、松井ニット技研でいただく日本茶は本当に美味しい。とろりとして何とも言えないこくと甘みがある。
生前、
「松井さん、ここでいただくお茶は本当に美味しいのですが、特別な茶葉を使っていらっしゃるのですか?」
とおうかがいしたことがある。
「いえ、うちの茶葉は矢野園で買ってくる、グラム800円のヤツですよ」
とおっしゃったので、数日後、矢野園に出かけて
「松井さんが買ってるお茶を」
と200グラムほど買い求めて自宅で飲んだ。が、あの味がない。とろみも甘さもない。そこで
「同じ茶葉を買ったなずなんですが、あの味が出ません。やっぱり特別な茶葉じゃないんですか?」
とおうかがいしたところ、
「あとは入れ方です。私、抹茶だけではなく、お煎茶もやっていましてね。急須に茶葉を入れ、60℃〜70℃ぐらいの湯を注ぐでしょ。その時、急須の蓋の穴の向きがコツでしてね。こうすると、中で茶葉が回ってくれて美味しくなるんです」
と、コツを教えていただいた。ところが、急須の穴が注ぎ口に来るのか、その反対側に来るのか、記憶が曖昧である。曖昧な知識で我が家でもあれこれ試してみたが、やっぱりあの味は出てくれない。
私は不肖の弟子である。
そのうち、あのお茶が飲みたくておうかがいするかも知れない。
松井社長と言えば、
「私ね、自力で歯槽膿漏を治したんですよ」
という話を伺ったことがある。確か、私も齢を重ね、右上の奥歯が歯槽膿漏気味だ、と話したときだった。自力で歯の健康を取り戻せるのなら、こんなにいいことはない。
どうすればいいんですか、松井さん?
「歯を磨くたびにね、歯ブラシで歯茎をマッサージするんです。歯医者は『そんなことしても無駄ですよ』と笑ってましたが、続けていたら本当に治っちゃったんです。私、歯は健康ですよ」
そんないい話を聞いて実行しない手はない。だが、ナイロンブラシでマッサージされるのは歯茎も嫌だろうと思い、数日後、豚毛の歯ブラシを買ってきて歯茎マッサージを始めた。1本目はすり減って、いま2本目を使っている。
効果があるのかないのかは、まだよく分からない。一時は物をかむと鋭い痛みが走っていたのが、最近は平気でかめるように(注意しながら、ではあるが)なったので、効果はゼロではないはずだ。時々出血するのが、
「まだよく分からない」
の理由である。
それはそれとして、こんな経緯で始めた歯茎マッサージだから、歯ブラシで歯茎をこすっていると、やっぱり松井社長を思い出してしまう。
死後の世界など信じない私であるが、しかし、歯を磨くたびに松井社長のご冥福を祈る私でもある。
そういえば、前回の日誌に一部間違いがあった。
9日の日誌で、
「明日は成人式」
と書いたが、正確には
「明後日は成人式」
であった。年末から仕事がない日が続き、日にちの感覚が狂っていたらしい。
もし、私の記述で混乱された方がおいでになったら、お詫び申し上げるものである。