08.31
8月はいろんな事がありました。今日も……
異音に気が付いたのは午前11時半頃である。
私はデスクに向かい、積分に取り組んでいた。
トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、
異音は、私の耳にはそう聞こえた。左側から聞こえてくる。
デスク周りには音が出る者が沢山ある。パソコンにはにHDDが入っているから、不具合が起きれば異音を出すだろう。デスクの下には外付けのHDDが2台ある。私の左にはキヤノン製のプリンター。これだって、不具合で音を発しないとも限らない。ほかには……
あわてて左右を見回した。音は左から来る。最初に見たのはプリンターである。だが、電源はオフのままだし、その状態で音が出るとは考えにくい。では、何が?
左手に何かが飛びついた感じがした。ヒヤッとする。何だこれは?
そう思ったとき、音が変わった。
ボタボタボタボタ……。
水である。何故ここに水が? 左を見ると、デスクの左に置いてあるノートや本が濡れている。あろうころとか、しぶきが積分のテキストである参考書にまで飛びかかっている。あ、いかん。これはエアコンからの水だ!
左上を見上げると、エアコンの中央部からかなりの勢いで水がこぼれていた。あわててティッシュを取り、濡れたノートや本を拭く。1枚ではとても足りない。2枚、3枚……。いや、まずエアコンからの水を止めるのが先ではないか!
水がしたたり落ちているエアコンの中央部分にタオルを押し当てた。エアコンのスイッチを切る。それでも水が溢れてくる。タオル1枚じゃ足りないぞ!
応急措置が終わって、この家を管理する不動産会社に電話を入れた。ここは借家である。エアコンも家主のものだ。エアコンを正常な状態に保つ責任は家主にある。
「去年の夏に入れ換えてもらったエアコンから水が落ちた。すぐに施工業者をよこして欲しい」
電話に出たのは担当の女性である。
「はあ、エアコンから水。室内機ですか、それとも室外機から?」
室外機で水漏れが発生するのかどうか、私は知らない。普通は、エアコンで室内の気温を下げるから、空中の水分飽和量が下がり、空中から追い出された水分が液体となって室内機にある受け皿に溜まる。溜まった水は外に流れ出る仕組みになっているが、何らかの原因でオーバーフローして室内側に落ちてくるのがエアコンからの水漏れである。
しかし、彼女が言うのだから、室外機からの水漏れもあるのかもしれない。
「いや、室内機からだよ。このままじゃエアコンが使えにので、すぐに業者をよこして」
「はあ、室外機ですか?」
彼女、ひょっとして耳が遠いのか? まだ20代だと思ったが。
「室内機! 内側! 部屋の中に水が落ちてるの!」
「はい、室内機ですね。解りました。では私がとりあえず現状を見せていただいて、それから対応しますので」
この人、緊急事態ということが分からないらしい。コロナにはどんな対応をしているのだろう? それとも、修理の依頼があればまず現場を点検、それから対応するという業務マニュアルでもあるのだろうか?
「君が見たってしょうがないだろ! まず修理だよ。君は来なくていいから業者をよこして!」
若い女性を、ひょっとしたら怒鳴りつけてしまったかも知れない。まあ、教育的指導としてお許しいただこう。彼女からは嫌われてしまったかも知れないが。
このエアコン、先にも書いたが入れ換えてわずか1年である。5年も6年も使っているのなら、排水ホースにごみが溜まって水が排出されなくなり、室内側にオーバーフローすることも理解出来る。でも、たった1年だぞ。使用期間は去年の夏と今年の2シーズンだけだぞ。まだごみなんて溜まらないだろ?
であれば、原因は? ひょっとして、室内機の取り付け角度がおかしかった?
修理屋さんがやって来たのは午後1時過ぎだった。1年前、このエアコンを取り付けてくれた人である。
「水が出たんですって?」
「そうなんだよ。ひょっとして、室内機の取り付け角度が狂ってた?」
「いや、それはないと思いますよ。狂ってたら、去年のうちに洪水が起きてるはずですから」
なるほど。それはそうだ。では、水が漏れたのか?
彼はまず外側から攻めた。屋外にある排水パイプの接続を外すと、片側を口に当てて息を吹き込んだ。
「ああ、やっぱりだ。ほら、どろっとしたごみが出たでしょ」
なるほど、放水パイプの先から薄い茶色の固まりがいくつか吐き出された。とすると、やっぱり排水ホースの詰まりが原因か?
「でも、たった1年でホースが詰まるかね?」
「いやあ、時々あるんですよ。原因はよく分かりませんが」
そういうものか。
次に屋内に入った彼は、室内機に水を注いだ。室内機につながった部分の排水ホースの導通を確かめるためらしい。彼が注いだ水が勢いよく流れ出せば、この部分もOKということになる。
私は屋外で待機した。流れ落ちる水を見ようという魂胆である。
が、なかなか水が出て来ない。ポタリ、ポタリという出方は、まるで年寄りの小便である。
屋外に戻ってきた彼に
「出ないよ」
と伝えた。ついでに、
「こっち側から、ホースに息を吹き込んだら?」
と提案した。脚立に上った彼が息を吹き込むと、おお、みごとに水がドバドバと出て来たではないか!
みごとな成果を目にしながら、
「いやあ、使い始めてわずか1年でも、排水ホースが詰まることがあるんだね」
と話しかけると、
「どうしてそうなるのか解りませんけど、ありますね。あ、そうだ。排水ホースに蜂が巣を作って水が流れなくなった、ってのもありましたから」
ほう、あんな狭いところにすを作る蜂って、何を考えてる? 広い天地を飛び回る能力を持っているのに、マッチ箱みたいなところに巣を作って、都会に住む人間の真似をすることはないと思うが。
人それぞれ、違った、蜂それぞれ、ということか。
だとすれば、である。
本日の教訓:毎年エアコンを使う前に、排水ホースに息を吹き込んでごみを取り除こう! ただし、蜂に注意すること。
という騒ぎがあったのが本日である。
外出自粛の8月も、西宮、伊勢、四日市を回ったし、横浜で璃子と算数の勉強もした。数学は数Ⅱの微分を終え、桝谷さんの原稿はとうとう最終回を迎えた。外では群馬県も緊急事態宣言で飲み屋が一斉に休業に入ったし、あれこれありましたなあ、8月。
皆様の8月はいかがでした?
そして、明日から9月。