2022
06.25

桐生では酒が飲みにくくなりました。

らかす日誌

昨夜は取材で知り合った2人と酒を飲んだ。このごろ、遅くまで酒を飲んだ翌日の私は使いものにならない。今日は朝からボーッとして、体内からアルコールが排出されるのをひたすら待つだけである。私の73歳とはそのような年齢であるらしい。若い頃から酷使に耐え続けてくれた肝臓君がとうとう疲れを覚える年頃になったということであろう。これからも肝臓君には奮闘努力を期待するが、さて、何処まで持ちこたえてくれれるか。

というのが

「酒が飲みにくく」

なった原因では、実はない。肝臓君の疲れなら、癒やす手段はある。最悪、医者にかかり、飲酒に対してドクターストップをかけてもらえばよい。飲みにくくなった原因は他にある。

帰りの足がない。

それが原因である。

昨夜は午後7時頃始まった1次会が10時には幕を下ろし、いつもならそれで帰宅するのだが、昨夜は相手が悪かった。2人ともにまだ50代である。1次会だけでは満足できないらしい。

「大道さん、もう1件行くよ」

私が取りまとめた飲み会である以上、これは断れない。

「俺、2次会には原則行かないことにしてるんだが……」

と口の中でブツブツつぶやきつつ、私は彼らと歩調を合わせ、桐生のかつての繁華街、仲町に足を運んだ。仲町には今、かつてあっただろう喧噪が消え去り、何とも寂しい限りの繁華街であるのだが、それでもなんとか営業を続けている店はある。2人のうちの1人の行きつけなのだろう、私たちは1軒のスナックのドアをくぐった。

私より年上と思われるおじさんがカウンター席でカラオケを唸っていた。我々はテーブル席に陣取り、やがてこちらもカラオケ合戦と相成った。
ふと時計を見ると、日付変更線が目前である。

「そろそろ引き上げようよ」

と声を出したのは、確か私である。2人は歩いて帰るという。では、必要なタクシーは1台だ。

「タクシーを1台呼んで」

スナックのママさんに頼んだ。電話をかけていた彼女はすぐに我々の席にやって来て、

「今なら4時間かかるんだって」

4時間! 午前4時までこの店で飲み、歌えというのか! それとも、私を帰したくないママさんの陰謀か?
いずれもまっぴらである。しかし、午前4時にならないとこの店にタクシーが来ないということは、午前3時半までは他の客がタクシーを使っているということである。いくら花金の夜とはいえ、そんな時間まで飲み狂う客が桐生には複数いるということか?

しかし、困った。タクシーが使えないとなれば、歩いて帰らねばならない。iPhoneを取り出して外気温を見ると、この時間でも27℃である。20℃ぐらいなら歩けないこともない。現に、今月14日、別の飲み会が午後10時半頃終わり、タクシーで帰宅しようとしたら

「45分ぐらいかかります」

といわれ、とっさに歩き始めた。平地のうちはいいが、我が家は小高い丘の上にある。この坂は飲んでいなくても心臓破りだが、飲んでいるとさらに勾配が急になったように思える。それでも、確か20℃を切る気温に助けられ、途中2回休憩をはさむことでなんとか自宅にたどり着いた。

だが、27℃はいけな。こんな熱気の中、あの心臓破りの坂に挑めば熱中症で倒れてしまいかねない。いや、心臓麻痺か。

3人で鳩首協議し、運転代行なら30分ぐらいで来てくれるというので、1人が1次会の場所まで乗ってきたマイカーで私を送ってくれることになった。帰宅は午前1時過ぎ。歯も磨かずにバタンキューである。

にしてもだ。飲みに出れば、帰宅の足はタクシーになる。そのタクシーが使えなければ、飲みに出ることを控えなければならない。
恐らく、夜の街を徘徊する私のような不心得者が減ったため、タクシー会社は夜の台数を減らさなければ採算が取れなくなっているのだろう。目先の経営判断は理解できる。
しかし、このようなことが続けば、桐生の夜はますます人出が減る。タクシー需要も減る。やがていまは何とか火を灯し続けている飲み屋も提灯に火を入れなくなり、暖簾を下ろし、桐生の夜は真っ暗になる。タクシーの客もいなくなる。
という悪循環に陥るのではないか?
桐生の衰退がますます加速するのではないか?

夜の街に人を呼び戻すためには、帰宅の足を確保しなければならない。タクシー会社の経営努力だけでは実現できないとすれば、こんなところにも行政が手をつけなければならない時代になったということか?

桐生では酒が飲みにくくなった。体にはいいかもしれないが、何とも寂しいことである。