2024
01.12

私と朝日新聞 2度目の東京経済部の67 城南電機は安い!

らかす日誌

「ビジネス戦記」は、いわゆる聞き書きで作り上げる。私たち記者が取材先から話をうかがい、取材先に成り代わってその話を原稿に起こす。もちろん、どんな話から始めるか、話の流れをどう構成するか、など記者が関わる部分は少なくない。しかし、立て前は取材先が話したことを記者がそのまま文字にしただけ、である。だから、誤字、脱字を除けば、文章に対する責任は取材先にある。
そのため、書き上がった原稿は必ず取材先に読んで貰い、それで間違っていないか、筆が滑ったところはないか、書き忘れていることはないかを確認していただく。それがルールである。

話は少し逸れるが、朝日新聞にも、そして当時のウイークエンド経済編集部にも、何か勘違いをしている記者はいた。他社に特ダネを抜かれ、その会社に

「朝日新聞を馬鹿にするのか」

と怒鳴り込んだ記者などはその代表である。そして、当時のウイークエンド経済部にもそれに似た勘違い記者がいた、Moといった。

Moはどこかの会社の社長か会長の「ビジネス戦記」を書いていた。どうやら、描き上がった原稿をその取材先に見せたらしい。ここまでは普通の過程である。
その会社の広報部員からMoに電話が来た。Moの受け答えを聞いていると、どうやら、原稿の一部を書き直し欲しい、ということらしい。最初は穏やかな会話だった。ところが、突然Moの罵声が耳に入った。

「あんた、何言ってんだ? 俺はあんたの会社の社長(会長だったか)から、この原稿でいいという了解をもらっているんだ。たかが広報部員がつべこべ言う話じゃないだろ? うるさい!」

Moは大きな音をたてて受話器をたたきつけた。私は

「困った記者がいるものだ」

と嘆息した。
Moは取材した当人からは了解を得ていたのかもしれない。しかし、広報部員が電話をしてきたということは、その取材先が

「念の為、君たちも読んでおいてくれ」

と広報に原稿を回してきたのだろう。その広報部員は、この原稿は社長(会長)が語った事実として新聞に載る、という目で詳細に読んだ。そして、

「事実関係はこの通りだとしても、この表現の仕方は、社長(会長)、ひいては会社の不利益になるかもしれない」

という記述を見つけたのに違いない。だから広報部員はMoに記事の一部書き直しを依頼してきた。横で電話を聞いている限り、そんなことではないか、と私は受け取った。
その際に、電話を掛けてきた広報部員を怒鳴りつけるとは、どんな神経をしているのか? 朝日新聞記者とは、他所の会社の広報部員を怒鳴りつけても通じるほど偉いのか?

Moは大学を出て住友銀行に就職しながら、なぜか退社して朝日新聞を受験して記者になった男である。なんで現役で就職した住友銀行をやめてまで朝日の記者になったのだろう? ひょっとしたら、平行員であるMoが目も合わせることが出来ない会長、頭取、専務らと親しげに話す新聞記者を見て、

「ひょっとしたら、銀行員より新聞記者の方が偉そうな顔を出来るのではないか?」

と勘違いした男ではないのか? そうとでも解釈しなければ、取材先の広報部員を、電話で怒鳴りつけるという行動が理解できない。
残念なことに、そんな男も朝日の記者だったのである。

蛇足かも知れないが、一つつけ加えておく。
Moと私はかつて、岐阜支局で机を並べた。確か、彼の初任地だった。私の岐阜時代、公立高校入試問題漏洩事件が起きたことはすでに書いた。朝日新聞が抜かれ続け、私が尊敬するMaデスクから

「大道君、僕は事件報道なんてどうでもいいと思っているのだが、この抜かれ方は尋常じゃない。済まないが、この事件取材を手伝ってやってくれないか」

といわれ、主犯とされた塾経営者のインタビューにこぎ着けたこともすでに書いた。
その、尋常ではないほど抜かれ続けた県警担当が、Moだった。彼が経済部に来ると聞いた時、

「あいつが経済部。冗談か?」

と私は我が耳を疑ったのだった。

話を宮路社長に戻そう。
私は仕上がった原稿をFAXで城南電機に送った。しばらくすると、数カ所に直しを入れた原稿が送り返されてきた。それを見て、正直驚いた。ほとんど漢字がないのである。書き込みはほぼひらがな。それも小学1年生が書いたのかと思われる、拙い、読みにくいひらがなだったからだ。

「あ、宮路社長という人は、ほとんど正規の学校教育を受けていないのではないか?」

いや、これは別に宮路社長を卑下するために書くのではない。小学校、中学校、高校と進み、大学を出てサラリーマンになる。私が辿ったそんな人生と全く違う人生を歩いてきた人に、私は初めてお目にかかった気がしたのだ。しかもこの人、どう見ても商売の天才である。関係者が当たり前と思ってやっている流通機構の破れを目ざとく見つけ、家電製品の安売り帝国を築いた。それも、一時は3000万円の現金を常時落ち歩き、襲われ、バッタ屋商売で怪我をしないようにロールス・ロイスを乗り回す。恐らく、私のような普通の人生を歩いてきた通常人には絶対に出来ないことを成し遂げた開拓者として、私は拙いひらがなの書き込みを書いた人を思ったのである。

宮路社長が築き上げた安売り帝国の偉大さを表す資料が見つかった。ウイークエンド経済の「カタログ」に掲載した、家電品(こたつ)の実売価格を比較した表である。

メーカー 三洋電機 シャープ 東芝 日立製作所 松下電器産業 三菱電機
機種 KG-WL105 HY-A15 KY-260DFC KFM-6270WD ピュアステージ・アージョ EK-E1050
サイズ 105×75 150×90 120可決0 119.8×78.8 120×80 105×75
最大電力 500W 590W 600W 600W 500W 600W
電気代 3.7円 6.7円 5円 5.2円 5.04円 5.04円
特徴 足が折りたため、収納が楽 総天然木、横長ヒーター、テーブル台固定金具 UV(紫外線)塗装、まき絵の紋様 和風つき板仕上げ、いる・いないセンサー付き 曲線と直線を組み合わせたデザイン、消臭機能 同社の再量販機種。木目調の高級感
メーカー希望小売価格 51,000 117,000 125,000 110,000 130,000 34,000
そごう電機

(札幌)

46,000 105,000 119,800 99,000 115,000 29,800
城南電機

(東京都)

35,000 81,800 98,000 78,000 94,800 23,800
栄電社

(名古屋市)

44,800 99,800 120,000 98,000 120,000 29,800
上新電機

(大阪市)

44,800 99,800 120,000 99,800 120,000 29,800
ベスト電器
(福岡市)
44,800 111,150 128,250 99,000 120,000 29,800

いかがだろうか。城南電機の際だった安さが一目瞭然である。こんな小売価格を実現した宮路社長が、あんな文字しか書けない。宮路社長は教育で育てることは絶対に出来ない異能の人だったのである。