2024
02.02

私と朝日新聞 3度目の東京経済部の15 私は財界担当になりました

らかす日誌

私は財界担当になった。取材対象は、経済団体連合会(経団連)、日本経営者団体連盟(日経連)、経済同友会、日本商工会議所である。これを経済4団体といったが、経団連と日経連は2002年に統合した。いまは経済3団体、というのかな?

まず、4つの団体の性格を見ておこう。

【経団連】
国の経済政策に関して、経済界の立場からものを申そう、という団体である。わかりやすくいえば、企業の利益が大きくなるように政府に圧力をかけようという圧力団体、ということになる。日本の代表的企業から会長、副会長らが出る。それを支える事務方として多くの職員がおり、彼らは霞ヶ関の政府職員が官僚と呼ばれるのに対し、民僚と呼ばれる。
企業が豊かになれば、いずれは従業員の暮らしをもよくなる、というのが長年の神話である。この神話が生きている間はなるほど、企業の利益が大きくなることが私たちの暮らしの役に立つこともあったのかもしれない。しかし、近年は企業がどれほど利益を上げても賃金に反映されることが少なく、日本の平均賃金は韓国に抜かれてしまった。とすれば、経団連は民の立場から国全体の経済政策に物申すというより、単なる企業エゴで国の政策を左右してきたともいえるのではないか。

【日経連】
労働問題を大企業経営者の立場から議論、提言する目的で1948年に設立されたそうだが、正直、私にはよく分からない団体だった。設立の時期は日本中で労働争議が燃えさかっていたころである。過激さを増す労働運動に経営者としてどう対処するか、という知恵を寄せ合うために出来たのかもしれない。しかし、私が担当になった頃は経営という立場から人事管理、労務管理、人材育成などを考える団体であったように思う。「週40時間移行の手引き」などという本も出版している。
後に経団連と合併したのは、経団連の役割・機能と区別するのが難しくなったからだろう。また、経営のスリム化が求められる時代でもあったので、当時は経済団体もスリム化しなければならないという問題意識もあった。

【経済同友会】
ウィキペディアによると、

「企業経営者が個人の資格で参加し、国内外の経済社会の諸問題について一企業や特定業界の利害にとらわれない立場から自由に議論し、見解を社会に提言することを特色としていた」

とある。私は、経団連が日本を代表する重厚長大産業の経営者の集まりであるにのに対し、企業規模の大小や業種に捕らわれず、物申したい思いを持つ、どちらかといえば若手の経営者が集まった団体だと受け取っていた。またウィキペディアには

「政府と協調路線を取ることが多い経団連に比べて、物言う姿勢を重視している」

という説明もあるが、さて、経済同友会が政府に対して野党的な立場を貫いたかというと、いささか疑問もある。

【日本商工会議所】
全国に約500ある商工会議所を会員とする中央機関、である。商工会議所は

「事業を営む方のために『金融・税務・経営・労務』などの相談・指導や、『共済・年金・保険制度』の取扱い、『健康診断・レクリエーション』」などの福利厚生事業」

を行なっているという。早い話が中小企業の集まりである。ただ、現在群馬県桐生市に住む私が知る桐生商工会議所が、地元中小企業の役に立っているかどうかには疑問がある。
その商工会議所が集まってつくっている「日本商工会議所」は、だから全国の中小企業の立場を代表して政策提言などを行う経済団体ということになる。

以上が私の担当であった。各団体の役員はそれぞれの企業で社長、会長などを務めておられる方ばかりである。つまり、高齢者揃いである。財界担当の仕事は、これらのお年寄りたちとお付き合いすることである。

では、どんな姿勢でお付き合いするのか。本棚をひっくりかえしていたら、私の姿勢がよく分かる拙文が出て来た。日経連の機関誌「経営者」に求められて書いたものである。以下、それを引用する。

「最近、『NATO』という言葉を思い出す。No Action Talk Only 。話すだけで、行動しないやつ。中学のころ、女性にもてないやつは、こんな言葉を投げかけられた。
なるほど、行動か。お話しして、手を握り、肩を抱いて……。うぶな創造は、熱く全身に広がった。『よし、俺も男だ』、私の決意が実行に移るまで、それから10年近くかかった。
今、財界では内外価格差の解消、規制緩和が流行語だ。円高、景気、雇用、日本経済の国際化。あらゆる課題を解決するキーワードとして登場する。『自社連立政権は、規制緩和という時代の流れを逆行させる』といえば、見識派として通る。
加えて、財界からは賃金の凍結、引き下げ論までが出る。日本の賃金は国際的に高すぎて、日本製品の国際競争力をそぐ。だから、賃金を下げよう。規制を緩和し内外格差をなくして国内物価が下がれば、賃金を下げても生活水準は下がらない。日本経済が生き延びるにはこれしかない。物価が20%下がれば、賃金が10%、15%下がっても生活水準は上がるから、『どうやって賃金を下げるのか』という疑問は抱きつつも、理解はできる話だ。
では、誰が実行するのか。声高に主張する財界人が経営する大企業が、自社の製品価格を下げたという話は、寡聞にして聞いたことがない。消費者が厳しくなったので価格を下げた大企業はあっても、自主的に『内外価格差』解消を始めた大企業にはお目にかかったことがない。
円高が進んで、逆輸入日本車の価格は下がったか。輸入車の価格破壊は、英ローバーが火をつけ、米フォードが続いた。大企業が経営している輸入雑貨店では、外国製の歯ブラシが、今でも250円以上する。米国人は、2ドル50セントも出して歯ブラシを買うはずはない。
戦闘正面にいるのは、テレビで有名な城南電機、サンケイ新聞にも店舗を出したデザイナーズ・コルチオーネ、全国で2000店を超えた酒のディスカウンターなど、中堅・中小企業ばかり。大企業の姿はちっとも見えない。
規制緩和も同じだ。『これが日本経済の生命線』と叫ぶ大企業経営者は多いのに、理不尽な政府当局とけんかした大企業は、知らない。規制の網の目を縫って安売りをする中小企業に圧力を加える大企業はあるが。
口は出すが何もせず、中小企業の努力に乗って、賃下げというメリットだけ取ろう。それが、これまで日本型経済システムの利益を飛び抜けて受けてきた大企業の戦略に見える。
NATO。かっこいい話をしているだけでは現状は変わらない。私は、実行までに10年近い時間がかかった。さて、財界の主流を形成する大企業の方々には、どれくらいの時間が必要なのだろう」

書き写しながら、我ながら下手な原稿だと思った。その点はご容赦願いたい。だが、私の姿勢だけは読み取って頂けたのではないか。功成り名を遂げて財界活動をされているお年寄りたちに、思いつく限りの異論をぶつける。その結果を記事にする。それが財界担当記者の役割ではないか、と私は考えたのであった。