2024
02.24

私と朝日新聞 3度目の東京経済部の37 クッ、クッ、クッ

らかす日誌

【10月12日】
昨日の続き。
このホテルは、ゴクミ(国民的美少女=後藤久美子)とアレジも泊まったそうだ。だから何だということもないが。

(解説)
あの国民的美少女は、いま、どこで、何をしてるんでしょうねえ、最近、ちっともお目にかかりません。

町で浮浪者を見かける。体制転換の犠牲者か。

(解説)
体制転換なんてなかった日本でも、最近は浮浪者が増えました。いや、日本にも体制転換はあった、世界でもっとも成功した社会主義から、米国的資本主義への転換である、という視点も成り立つかなあ?

昨夜オペラを見たあと行ったレストラン、ベルカントは、元オペラハウス元従業員用食堂だったからオペラハウスの隣にある。それを体制転換後に米国の資本が買い取り、5つ星の最高級レストランにした。オペラハウスの手でレストランの経営をすれば、オペラハウスの経営の足しになるのに、とM氏。

(解説)
このレストラン、なんと従業員はすべて音楽家のタマゴ。お隣のオペラハウスの舞台に上る日を夢見つつ、生活費を稼ぎ出さんとウエイターなどをやっておるのであります。実に見上げた心がけであります。
音楽家のタマゴでありますから、もちろん楽器は弾ける。店の中にグランドピアノが置いてあり、私が訪れたときは若いお兄さんが弾いておりました。
で、ピアノの上には大きなワイングラス。中にはお札やコインがたくさん入っておりました。
「素敵な音楽を聴かせてくれてありがとう」
と思った客は、この中にチップを入れて店を出るんですね。みんなで芸術家を育てる。素晴らしいシステムではありませんか。私もわずかばかりですが、協力させていただきました。
ただ、このグランドピアノ、古くなりすぎたためか、コストをケチっているためか、チューニングが少し狂っており、正確な音は出ていませんでした。残念!

オペラハウスの経営は大変らしい。年間の公演日数は約160日。以前の3分の2に減ったそうだ。なぜなら、公演をすれば出演者にギャラを払わねばならず、赤字が膨らむからとのこと。丸ごとパーティ用に貸したり、公演用に貸したりしているが、それでも経営は大変らしい。芸術活動は、やはり時の権力の庇護がなければできないということか。
そういえば、私は後に朝日ホールの総支配人になって運営黒字を目指すのだが、その話は後ほど。

昨夜の席は前から3列目の中央だった。最高の席だそうで、3000フォリント。日本円では2000円で国内最高の音楽芸術が鑑賞できる。しかし、ここの平均給与は7万フォリント。日本の平均月収を40万円とすると、3000フォリントは2万円弱に当たる。やはり地元の人には、かなりの負担なのだろう。

(解説)
それにしても、日本のコンサートの価格はちょっと異常ではないかい?
ロンドンに行ったとき、ミュージカルを見に行きました。“Me and My Girl”というヤツです。次に来るのはいつのことかと思ったので、
“Best place.”
と注文したところ、何と17ポンド、当時のレートで換算すると4000円程度でありました。同じ劇場で1番安かったのは、学割の席で3ポンド。
加えて。
劇場の収容人数は、ざっと500人程度。ということは、17ポンドで買った私の“best place”と、3ポンドで誰かが買った学割の席とは、椅子の並びにして15列ほどしか離れていない。
17−3 = 14ポンドって、いったい何?
ロンドンを発つため空港に向かうタクシーで、運転手に
「昨日ミュージカルを見た」
と話したところ、
「おお、それなら俺も見た。女房を連れて、2回見に行った」
だと。
いいですか、皆さん。タクシーの運転手さんが、妻女同伴で、同じミュージカルを、2回も見に行くのが大英帝国でありますぞ。
当時はまだ、英国は「老大国」などと呼ばれておりましたが、私は彼我の格差に、英国社会の奥行きの深さに、驚いたものであります。

場内はほぼ満員だった。隣のおばさんは、舞台を見ながら

「クッ、クッ、クッ」

と笑う。2列後ろのやはりおばさんは、舞台にあわせて小さな声で歌う。クラシック音楽の生活への溶け込み方が違う。

(解説)
日本で同じことをやってご覧なさい。刺すような視線が周囲から必ず飛んで参ります。気付かない振りをすると、まっすぐのばした人差し指を唇に直角にあてた顔が、ニューっと私の前に出てきたりします。
アホッ! そんな聴き方をして、音楽って楽しいのかねえ?

何となく朝食を抜く。午前10時、ホテルでM氏と待ち合わせてブダペスト郊外のショッピングセンターへ。卸専門のスーパー(ドイツ資本)と、普通のスーパー(フランス資本)を見る。物資は豊富で客も多い。ハンガリーでも、食料品以外はほとんど手には入らない時期があったというから、これも市場経済化の恵みだろう。

しかし、店内を見て回るも、買いたいもの、買えるものはない。調理器具程度か。
CDも売っているが、ローリングストーンズはあるのに、ビートルズがない。昨日昼食を取ったイタリアレストランでは、ビートルズの曲がかかっていたのに。ただし、演奏は、コピーバンドだったが。

テレビは高い。14インチが4万5000フォリントもする。スキー靴は日本と同じような価格。テニスラケットは日本より高いかもしれない。

爪が伸びたので、爪切りを買いたくて探すも見つからず。爪用のヤスリはあるのだが。こちらの人は、みんなヤスリで爪を削るのか。

2つのスーパーは3㎞ほど離れているのだが、すぐそばに、もうひとつスーパーの建設が始まっている。ちょっとしたブームだ。競争は激しくなって収益は落ちるに違いない。物価は下がるだろうが。

(解説)
そして、次に来るのは? 日本では、経営不振に陥った大手スーパーの再建策が政治問題になったりしています。

ブダペストの高級住宅地を車で視察した。確かに広い敷地に大きな家が建っているのだが、何とも色が野暮ったい。黄色というより、黄土色に近い壁に、白で縁取りされた窓。ブドウ色に近い赤の瓦。オレンジ色に近いベージュなど、

「どうしてこんな色しか思いつかないのか」

といいたくなるほど、野暮ったい色が多い。
そういえば、昨日訪ねた建築現場でも、

「この色、素敵でしょう」

と聞かれて困った。オレンジというか、黄土色というか、まことに不細工な色で、聞かれるまで、これは下地で、上にモルタルか何かをかぶせ、きれいな色を塗るに違いないと思っていたからだ。

(解説)
数年前、我が家の外壁を塗り替えた。ペンキのサンプルを見て、モスグリーンのような色を選んだはずだったのに、できあがりを見るとライトグリーン、日本語でいうと黄緑色。何とも落ち着きのない外見になってしまった。
他国のことをいっている場合ではない。

昼食は、高級住宅地にある安いレストラン。3人で5000フォリント少々。

食後、北に30㎞走り、バーツ市の開発業者に会う。5時にホテルに戻り休憩。これからひと眠りしたい。6時50分には再び迎えが来て、F技術研究所の人と夕食。終わるのは深夜になりそうだ。
ホテルに帰還したのは10時半だった。
今日訪れたレストランは、ハンガリーでNo.1というヴァドロージャ(左の写真。ただし、私の席は屋内だった)。再び、フォアグラ。そのまま焼いたものと冷たいものを半分ずつもらう。

これが食べ納めかもしれない。メインは鹿の肉。ワインは赤で、これは質がいい。久しぶりに美味いワインを飲んだ。

「買って帰らないか」

といわれて気持ちが動くが、これからの旅路を考えて辞退。このワインの店での値段が6000フォリント、4000円。買い得だと思うが。

(解説)
ブダペストは、ブダ地区とペスト地区に分かれます(ほかにオーブダという地区があるというが、ここでは無視)。ドナウ川を挟んでおり、丘陵地のブダは高級住宅地。ヴァドロージャはその一角にある。
外見は、全くの民家。前を通りかかっても、ここがレストランであるとは気付きにくい。
料金は、ワインも入れて3人で1万8000円ほどだった。決して安くない。まして、現地の所得水準を考慮に入れるととてつもなく高い。かつては共産党幹部御用達のレストランだったのではないか。
ワインの銘柄は憶えていないが、あるワイナリーと直接契約して入荷しているそうだ。もう一度呑みたい!

F技術研究所の人の話を聞く。国立研究機関の絶縁材料部門を買い取って発足したこの会社は、いわばハンガリーの頭脳を買った。新しい形の投資だ。人口比率で最も数多いノーベル賞学者を出しているこの国の頭脳は、これから企業にとって魅力的だろう。日本人の技術者に比べ、同じことを徹底的にやる、研究者の横のつながりが広い、のが特徴だという。

(解説)
ほんとに、天才と呼びたくなる人たちがたくさん出ているんだよなあ。有名なところでは、ジョン・フォン・ノイマン、ビタミンCを発見したアルバート・セント-ジョルジィなど。関心が湧いてきた人には、20世紀に活躍した20人の伝記、「異星人伝説:20世紀を創ったハンガリー人 」(マルクス・ジョルジュ著 ; 盛田常夫編訳)がおすすめ。

明日は、ブダペストで午前9時から午後2時頃まで人に会い、夕方6時の便でプラハへ。また暗い町に戻る。夜はN社のY氏と食事。チェコ経済の概要を聞く。翌14日は、午前10時から、地元の会社をフォルクスワーゲンが買収して作った会社の幹部に会って、旧社会主義会社を変身させる経営のノウハウを聞く。

あと5日間の滞在です。無理な日程をくんだのかもしれないが、疲れはそろそろピーク。東京が懐かしくならないこともありません。

(解説)
ホームシック、というほどではないはずだが…… 。

明日夜からのプラハ。光と陰を見てみようとは思いますが、果たして私の感性で受けとめることができるかどうか。ビジュアルな世界には弱いから……。
そういえば、昨日から急速に気温が下がり、明日はもっと寒くなるとか。そんな時期に、これから北に向かい、15日の夜にはさらに北に向かいます。
疲れてくると、文章にも切れがなくなりますな。

(解説)
元気なときの文章には切れがあるって?
これを自信過剰という。

そうそう、そういうわけで、明日の夜から再び通信困難なところに行きます。ひょっとしたら、次にインターネットにつなげるのはウイーンで、それまで書きためたメールが、どっと一緒に届くかもしれません。悪しからず。
おやすみ。