2024
05.01

私と朝日新聞 桐生支局の2 境野町に1戸建ての家を借りました

らかす日誌

桐生にかかわる話は直接「いま」につながるため多岐にわたる。まず住まいのことから済ませておこう。

前回書いた通り、最初に入ったのは老朽化が進んだ朝日新聞の官舎だった。道に面した貸し駐車証の裏手で、車1台がやっと通る細い路地を入らねばならなかった。

「これは、油断をすると車を傷つけかねない」

と懸念した私は、会社に.話をしてその貸し駐車場を借りた。当時の車は深い緑のBMW 3201 touringである。

官舎が、古いだけでなく傷みが目立ったのには理由があった。3年間空き家だったのである。後に触れるが、前任の支局長が当時の市長に関する怪文書をばらまき、朝日新聞が謝罪の一環として支局を閉じていたのである。その間、太田支局長が桐生管内の取材もしていた。
桐生に来る前、東京でそのような話を小耳に挟んだことはあった。だが詳しい話は誰も告げてくれず、桐生に来て始めて、傷みが激しい官舎に、そのの事件の一端を見たのであった。

「変なところに来てしまったな」

というのが第一印象になるのは仕方がない。

和風建築である。畳の部屋が多かった。困ったのはオーディオセットの設置だ。何しろ、私のスピーカーボックスは片側200リットルのもある。これをどこに置いたらいいものか。結局、畳敷きの応接間に置くしかなかった。

左右のスピーカーボックスの間にはテレビを置きたい。当時のテレビはSONYのトリニトロン、32インチである。ブラウン管式だから1人では持ち上がらないほど重い。横浜では自作の120リットルスピーカーと自作の棚をつなげてダイニングの角に納め、その上に置いていた。さて、ここでは何の上に置いたらよかろう? あれこれ見たが、適当まテレビ台が見つからない。であれば、どうせ長く使うものではないと見切ってIKEAでちゃぶ台を買い、その上に置いた。ところがこのちゃぶ台、安かっただけに天板は木くずを固めた合板でできていた。この合板は弱い。数週間もすると、テレビの重みに耐えかねてU字型に曲がってしまった。以来私は、

「IKEAの家具は実用に耐えない。ニトリの家具の方が良い」

という確信を持つに至った。

そんなこんなで、とりあえず暮らしが落ち着いた頃のことである。桐生支局に会社の耐震診断が入った。なんでも、会社は全国の総局、支局の耐震診断を進めたが、ちょうどその時、桐生支局は閉鎖されていて診断ができなかった。私が赴任して支局が再開したから、すぐに診断をしたい、というのは朝日新聞社員の生命・財産を守る上でまっとうな考えである。
私は

「いつでもどうぞ」

と受け入れた。

間もなく、数人の診断士(というのだろうか?)がやって来て、あれこれ調べていた。
私は横浜に自宅を建てる際、関東大震災の再来に備えて重量鉄骨、軽量発泡コンクリートの組合せを選んだ。地震に対する家屋の耐久性には関心がある。調査を終えたらしい診断士に

「で、この官舎、どうなの?」

と聞いてみた。

「だめですね、この家は。詳しい報告は後で送りますが、この家、大きな地震が来たらひとたまりもありません。第一、2階の床を支える柱が1本ありません。四角な床を3本の柱で支えている。ひどい作りですよ」

朝日新聞は桐生支局を作る時、コストをケチったのか?
対処するには

①耐震補強工事をする
②建て替える
③引っ越す

の3つしかない。それからしばらくすると、会社から

「引っ越して下さい」

という連絡が来た。会社は建て替えの費用も耐震補強工事の費用も出す気はないらしい。しかし、引っ越すと行っても、どこへ?

「こちらで探して連絡します」

というので、しばらく待った。ところが、来ないのである、連絡が。

「どうしたの?」

と問い合わせると、

「いやあ、なかなか見つからなくて」

という。恐らく、東京からインターネットで空き家を探しているのだろう。インターネットは万能であると思い込む世代にありがちなことである。家を探すのなら、その地に住む私をどうして使わない?

「じゃあ、俺も探してみるわ」

条件は、4LDK以上の家である。事務室、妻女殿と私それぞれの寝室、加えて子どもたちが泊まりに来ることができる部屋がいる。リビングとダイニングは別でなければならない。
会社には、桐生にいるのは2年間だといわれている。だとすればマンションでもいい。そう思って不動産屋を回った。ところが、桐生には4LDKというマンションがほとんどない。広くても3LDKである。

であれば、住まいとして3LDK、事務室として2DKを借りるという手もある。だが、2つを分断するのは何かと不便ではある。

夏の高校野球県予選は宮本町の官舎にいて取材したから、適当な家が見つかったのはすでに秋になっていたと思う。やや町はずれに近い境野町に広い1軒屋があるという。下見に行った。なるほど、広い。1階は6畳の和室に10畳はありそうな事務室、それに14,5畳のリビング、ダイニングも8畳はありそうである。そして2階は8畳の部屋と12畳ほどの部屋。全部で150㎡はあった。そして1階には床暖房が入っている。駐車場は3台分。家賃は月12万円。なーに、会社が払うのである。私が気にするいわれはない。
ひと目で気に入ったのだが、良く見ると、リビングの壁に拳で撃ち抜いたほどの穴がある。

「この穴、何? 自然にできた穴ではないよね」

という問いは

「ご入居いただくまでに修理しておきますから」

という返事でごまかされた。
後に聞いたところでは、この屋の持ち主は夫婦仲が悪く、挙げ句離婚したそうである。とすれば、あの壁の穴は激しい夫婦喧嘩の置き土産か。

とりあえず。桐生での住まいが定まった。私が境野町のでっかい家に引っ越したのは確か9月だった。。