05.29
私と朝日新聞 桐生支局の30 記者クラブの話、の2 記者クラブ費の有効活用
記者クラブに所属すると、毎月クラブ費を支払う。もちろん会社に請求するお金で、記者個人の財布が傷むわけではない。記者クラブでの消耗品、お茶やコーヒーなどの購入、それに記者クラブに置く新聞の購読料金に使う。私が桐生市に来た時、クラブ費は確か月額1000円だった。
「もう、冷蔵庫がダメになりそうなんです」
と記者クラブの受付をしていている女性に相談さ入れたのは赴任直後だった。
恐らく、多くの記者クラブではこんな場合、記者クラブを設置した側——省庁、自治体、業界団体など——が新しい冷蔵庫に買い換えて記者クラブに置く。その慣例を踏襲すれば、桐生市に
「記者クラブの冷蔵庫を新しくしてくれ」
と頼むことになる。しかし、それでいいのか? 記者クラブの冷蔵庫を税金で賄っていいのか?
桐生市の財政は逼迫している。記者クラブの冷蔵庫を買い換えるゆとりなどなさそうである。いや、あったとしても市に買わせるのは筋違いではないか? そこで私は、記者クラブ費で賄うことを考えた。
「記者クラブ費、いまいくらぐらい残ってる?」
受付の女性に聞いてみた。彼女は財政管理も任されているのである。
彼女は預金通帳を取り出した。記憶によると、20万円ほどの積み立てがあった。
「毎月の出費はいくらぐらい?」
と聞いて、クラブ費で冷蔵庫が買えるかどうか計算した。何とかなりそうである。
「よし、クラブ費で冷蔵庫を買おう」
確か、クラブ総会を開いて全社の賛否を聞いたのではなかった。了解を取り付けると、私は受付の女性をともない、家電量販店に向かった。
「あなたがいいと思う冷蔵庫を選んでよ」
記者クラブの運営は、原則として所属する報道各社の負担で行うというルールを確立しようと思ったのである。
それでも、部屋代、電気代、冷暖房費などは桐生市の負担だが、残念ながら各社月1000円のクラブ費では、そこまでの支払い能力はないから、それ以上は何ともできなかった。
その冷蔵庫は記者だけでなく、広報課の職員も利用していたようだが、私たちには
「市職員に記者クラブの冷蔵庫は使わせない!」
などという狭量さとは無縁だった。そもそも、冷蔵庫はクラブ費で買ったが、冷蔵庫を動かす電気代は市の支出である。冷蔵庫にゆとりがあるのなら、市職員が使って何が悪い?
新聞記者には異動が付きものである。桐生市で2年、3年働いていると人事異動の対象となり、西へ東へと移っていく。そして、間もなく交代要員がやって来る。
「大道さん、明日は〇〇さんの送別会ですから、お昼の時間を空けて置いて下さい」
と声をかけてきたのは市の広報課の職員だった。ああ、そうか、彼は異動するのか。しかし、送別会が昼間? 昼食をともにして送り出すだけ? それって味気ないんじゃない?
昼間の送別会は、市役所の隣にある文化会館内のレストランが会場だった。市長も出席し、ひとことあいさつする。異動する記者が別れのあいさつをする。あとは昼飯を食べて
「新しい任地でもがんばりなよ」
と送り出すだけである。私があちこちで経験してきた送別会は100%夜の宴会だった。酒を飲み、恥をかき、慣れ親しんだ任地を離れる。そちらの方がずっと想い出に残るはずだ。桐生市役所の記者クラブはどうして昼マンボ送別会なんだ?
数回繰り返すと、私は我慢ができなくなった。
「ねえ、送別会は夜にしないか?」
これもクラブ総会で話し合ったはずだ。次回の送別会からは夜の宴会となったのはいうまでもない。そして費用は個人負担の会費制である。記者クラブに積み立ててあるクラブ費にゆとりがある場合は、クラブ費から幾ばくか出して個人負担分を軽くした。市長、副市長も会費制でこの送別会に参加した。
ということは、昼間の送別会は味気ないと思っていたのは私だけではなかったのだろう。
そういえば、送別会では2つの記者クラブが融合した。双方のクラブ員が参加して別れ行くライバルを送り出したのだった。