2024
08.17

私は印税暮らしができるか?

らかす日誌

桐生を紡ぐ」の出版を知った知人が言った。

「いいね、大道さん。これからは印税暮らしだね」

印税暮らし? そんなもの、どこにある?
私が知る限り、印税は定価の10%である。つまり、「桐生を紡ぐ」の場合、1冊につき150円。100部売れて1万5000円、1000部に達したとしても15万円である。まあ、1万部の大台に乗せれば150万円だからちょっとしたものだが、そんなに売れるはずはない。
そして現実は、「桐生を紡ぐ」の初版は200部。本の流通ルートに乗って全国の書店に置いていただけるような本ではないから、とりあえずは適当な数だろう。その200部から、我が家族を始め進呈する必要がある先もあり、200部が全部なくなったところで、実売は170〜1810冊だろう。これで印税暮らしができるか? できない。

それに、である。200部が売り切れても、出版事業としては大赤字のはずだ。本の印刷、製本料、表紙カバーの印刷代がいくらかかったのかは知らないが、それに加えて、編集作業、表紙のデザインをしてくれた方々への支払いがある。200部程度の販売では黒字化するはずはない。となれば、私に印税が払えるか?

「というわけだから、ごめん!」

といわれ、私は

「俺の本が出た!」

という満足感だけしか受け取れないことになりはしないか?

それが現実である。私だって新税暮らしはしてみたいのだが。。

岡部氏は、この「桐生を紡ぐ」をシリーズ化して続刊を出したいという。その原稿は、私がWebで公開しているものである。だがら、原稿はある。しかし、一体どんな経営計画があるのだろう? 私はただ働きを続けるのか? それに、積み上がるに違いない赤字を、彼はどう処理しようと思っているのだろう。それとも、採算ラインに乗せるだけ売る計画でもあるのか? いや、初版200部というのは、そんな計画なんてないからではないか?

そんなとんでもない出版事業だから、岡部氏はできるだけコストを切り下げようと試みた。本自体と表紙カバーを別々に発注したのである。一緒に発注すれば、カバーが掛かった状態で本が届くが、その分割高になるのだという。だから、こちらの手元に届いたのは本が200冊と表紙カバーが1000枚(200部がなくなったら2刷りを出すから、表紙カバーは余分に注文したのだというのだが……)である。上の写真のように、本とカバーがバラバラなのだ。
当然のことながら表紙カバーを1冊ずつかぶせねばならない。その作業を外注する金はない。勢い、私が引き受けざるを得ない、なにしろ、これは私の本なのである。

表紙カバーには折り目はない。背表紙の片側に折り目を入れ、この折り目を基準に1冊づつ合わせながら他の3つの折り目を決めて折る。少しでもずれると美しくないので、1枚1枚注意しながら折る。こうして本に巻きつけて一丁上がり! 数日かけて、やっと100冊ほど仕上げた。なにせ手作業である。時折、ほんの少しずれてしまう。そんな時は

「ごめんね。でも手作りの味があるでしょ? 中身が面白いので許して。」

まだ見ぬ有料読者に謝りながら作業を続ける私なのである。

これが印税暮らしをする作家がすることか?

印税暮らしをする最低ラインは1万部。とすると、あと9900冊分、表紙カバーを折らねばならない。えっ、そんな、腰を痛めそうだな……。

印税暮らしの見通しが全く立たない私である。