12.28
「西洋の敗北」を読んでみました
フランスの歴史人口学者(とは、不思議な肩書きです)、エマニュエル・トッド氏の「西洋の敗北」を読んで唖然とさせられた。私が漠然と
「これが世界」
と思っているものを手ひどくひっくり返されたからだ。
この本は、ロシアとウクライナの間で戦われている戦争から始まる。エマニュエル・トッド氏は、この戦争に10の驚きを見出したと書き始める。
①ヨーロッパで戦争が起きたこと。
②敵対する2国がアメリカとロシアだったこと。これまで10年以上、アメリカの主な敵国は中国だったのに。
③ウクライナが軍事的に抵抗を続けていること。ウクライナは破綻国家だった。人口流出と出生率の低下で1100万人の人口を失った。オリガルヒに支配され、汚職のレベルは常軌を逸し、安価な「代理母出産の地」になっていた。つまり、どうしようもない国だった。それがこの戦争で、時刻の生存理由と存在の正当性を見出した。
④ロシアの経済面での芸効力。全面的な経済制裁を受けながら、いまだに破綻していない。侮ってはならないロシアがある。
⑤ヨーロッパの主体的な意思の崩壊。アメリカに引きずられてウクライナの戦争に加担する。イラク戦争の際は、ドイツとフランスは反対の立場をとったのに。
⑥イギリスが口やかましい反ロシア派とした現れ、好戦主義的立場をとった。
⑦この好戦主義は長く平和主義を取ってきたスカンジナビア半島にも伝播した。
⑧最大の驚きはアメリカの軍需産業に欠陥あがることが明らかになったことだ。超大国アメリカは、保護国であるウクライナに砲弾をはじめとした軍需物資を各自に供給することが出来なくなっている。ウクライナが物資不足で戦争に負けるという問題が生まれている。
⑨西洋の思想的孤独と、自らの孤独に対する無知。いま、アメリカをはじめとした西洋に背を向ける国が増えている。
⑩西洋の敗北。西洋はロシアに攻撃されているのではなく、自己破壊の道を進んでいる。
こうした書き出しから、エマニュエル・トッド氏は様々な西洋の病理現象を剔抉する。中でもやり玉に挙がるのはアメリカだ。
アメリカの高度先進医療は有名である。ところがそのアメリカで、平均寿命が年々下がり続けている。2021年は前年より0.6歳下がって76.4歳になった。
乳幼児死亡率も高い。2022年で見ると、1000人あたり5.40人。日本は1.70人、韓国は2.40人、ロシアは3.80人である。乳幼児死亡率は社会のあり方をそのまま写し出す。アメリカでいま何が起きているのか?!
トランプのような人物を大統領にしてしまう社会は病んでいるとしかいいようがない。そのアメリカの病とは何なのか?
エマニュエル・トッド氏はそれを解きほぐす。
無論私に、エマニュエル・トッド氏の言説を評価する力量がないことは自覚してる。今の私は、単に、彼の勢いに呑まれているだけかも知れない。
だが、
「なるほどな」
と思った部分は数多い。
例えば、プロテスタントの国で近代産業が芽生えたのは何故か、という問題である。
この問題は、かつてマックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で説いた問題である。私もこの本は読んだが、あまり記憶にない。
エマニュエル・トッド氏の論は明瞭である。
プロテスタンティズムは、一人ひとりが神と向き合うことを求めた。神と向かい合うためには聖書を読まねばならない。そのため、聖書は各国語に翻訳され、プロテスタントが主流になった国々では「聖書」を読むために識字率が上がった。カソリックが支配した時代は僧侶が字を読めれば済む世界で、庶民は文盲だった。
プロテスタント諸国では識字率が50%を超え、これが近代産業を育てたとエマニュエル・トッド氏は読み解くのである。
頷ける。
消費税込み2860円。年末年始の休みにひもとくには格好の本であると私は思う。西洋は如何にして敗北したのか。その中で日本はどう生きていけばいいのか。
休暇の間に読み、考えていただければ幸いである。