2025
01.17

「CINE MAKURA」のKindle版が20日から買えますぞ!

らかす日誌

お待たせ申し上げました。「CINE MAKURA Kindle版」がは20日からダウンロードできます! 代金は800円也!!

と私が騒ぐほどに待っていてくださった方がいらっしゃるのかどうか。そこにいまひとつ確信が持てないのが辛いが、とにかくこれで書籍版とKindle版がそろった。1冊でも、あるいは1ファイルでも多く売れることを願う。できれば書籍の方をお買い上げいただいてあなたの書棚に並べていただきたいが、不思議なことに我が手に入る印税はKindle版の方がはるかに多い。そりゃあ本にすれば紙代、インク代、印刷費用、送料とコストがかかるのは理解できるが、何となく釈然としない。紙の本の出版社の利益率はどれくらいなのだろう?

それはそれとして、一昨日の15日、西伊豆の松崎町まで行ってきた。「伊豆の長八美術館」が目的地である。
伊豆の長八、といってもご存じない方がいらっしゃるかも知れない(私は知らなかった)ので、少し解説しておく。
この方、入江長八さんといい、江戸から明治にかけて生きた左官職人である。今の松崎町の貧しい農家の長男に産まれ、暮らしのために12歳で生来の器用さを活かそうと左官の道に入った。
彼は本当は絵描きになりたかったらしい。だが、絵で暮らしを立てるのは至難の道である。絵描きになりたいという思いを押さえつけながら左官職人を続けたが、19歳になるととうとう我慢ができなくなった、江戸に出て狩野派の画家・喜多武清に弟子入りしたのである。

やがて左官の腕が生きた。長八さんは漆喰で絵を描き始めたのだ。鏝(こて)を縦横に使い、漆喰でレリーフを仕上げる。その上に彩色するのである。左官職人としての腕と、狩野派の画家としての技術を結びつけ、漆喰鏝絵、西洋でいうフレスコ画を産み出したのである。
相当に腕が良かったらしい。26歳になると、日本橋茅場町にあった薬師堂が再建された際に指名を受け、御拝柱(ごはいばしら)の左右に「昇り龍」「下り龍」をみごとに描いて名声を得たと伝わる。その後は数多くの仕事をこなしたが、その多くは東京の寺院などにあったため、関東大震災でほとんど失われたのが惜しまれれる。
その伊豆の長八さんの生まれ故郷に「伊豆の長八美術館」ができたのは1984年のことである。今に受け継がれた50点の作品が展示されている。

で、私は何故、知りもしなかった「伊豆の長八美術館」を訪れることになったのか?
話は昨年暮れにさかのぼる。昨年の秋は、桐生市の左官職人、野村裕司さんを取材をした。「きりゅう自慢」に書くためである。その過程で、野村さんが、桐生市の刺繍作家、大澤紀代美さんに憧れに似た思いを抱いていることを知った。なんでも30年ほど前、先輩の左官職人が「現代の名工」に選ばれ、その表彰式に同行した。同じ年に大澤さんも「現代の名工」に選ばれており、表彰式の会場で姿を見かけたのだそうだ。

「そうか、桐生にはこんなに立派な人がいるんだと思いましてね。それから『一度お話をしてみたい』と思い続けているのですが、いまだに実現していなくて」

そう語る野村さんに、

「じゃあ、大澤さんと一度呑みませんか? 大澤さんは呑めないけど、付き合ってくれますよ」

私は大澤さんとは親しい。その場で大澤さんに電話をし、飲み会を設定した。その席で伊豆の長八の話が飛び出し、年明けに行こう、ということになったのである。

桐生から西伊豆の松崎町まで300㎞強。車は私のBMW X2を使った。運転、高速道路料金、燃料費は私の負担。大澤さんは昼食代をもつ。桐生に戻ってからの飲み会は野村さんが支払う、という割り振りをした。それが一昨日実現したのだ。

いやはや、みごとな作品群だった。人物画も風景画も、すべて平面ではない。目をこらすと山や樹木や人が浮き上がっている立体画なのである。そこに

「狩野派の技法とはこのようなものか」

と思わせる彩色が施してある。見事というほかない。
ただ、私は絵画については音痴であることを自覚している。若い頃、朝日新聞三重版の埋め草に絵画の展示会を何度も取材したが、どうしても絵の良し悪しが分からない。学芸員に正直に相談すると、

「いい絵をたくさん見ることです。そうすると、いつの間にか良くない絵が見分けられるようになります」

といわれたが、いまだにピカソを見てもゴッホを見ても、何故その絵が高い評価を受けるのか全く理解できない。お金があれば手元に置いてみたいと思った絵は、抽象画のカンディンスキーの作品だけである。
そんな私が褒めても、長八さんの真価が伝わるはずはない。関心を持たれた方は、ぜひご自分の目で見てみることをお勧めする。

それにしても、往復600㎞強。それを後期高齢者の私がひとりで運転した。私の身体は、まだしばらくは使えるらしい。

最後に、しつこいようだが、もう一度お願いしておく。

CINE MAKURA Kindle版」をよろしく!