2025
07.29

大丈夫か? 自民党

らかす日誌

私は自民党支持者ではない。学生時代は民衆の敵とさえ思った。加齢に伴って激しい嫌悪感は薄れたが、いまでも、自民党を支持するのは私とは違う人たちだと思っている。

それでも、なのだ。昨今の自民党を見ていると

「あんたら、大丈夫?」

と声を掛けたくなる。参議院選挙で大敗した後の「石破降ろし」である。
報道によると、旧安倍派を中心に石破首相の退陣を求める声が高まり、両院議員総会(だっけ?)を開いて、選挙に負けた石破首相の責任を追及、石破首相は一歩も引かず、真っ向から立ち向かっているのだそうだ。

私に心配はいくつかある。

その1:あんたら、そんなことやってる時かね? 外目には自民党の分裂にしか見えないぞ。

その2:石破首相を辞めさせてどうする? 他にたいした人材がいないのが今の自民党ではないか?

その3:そもそも選挙って、首相の顔で勝ったり負けたりするものなのか? 違うんじゃない?

いや私は、石破首相が続投しようと誰かに代わろうとどうでもいいと思っている。ではなぜ、自民党の内紛劇を心配するのか。彼らには真の敗因が分かっていないのではないか? 社会の変化に気がついていいないのではないか? と懸念するからだ。衆参両院で与党過半数を割っているとはいえ、自民党が第1党であることは間違いない。とすれば彼らはこの先も政権を担うのであろう。その方々が世の中の変わりように気がついていないとすれば、あちこちに弊害が出るのではないかと恐れるのだ。

私が見るところ。今回の自民党大敗は、石破首相の責任ではない。この時期に誰が党首であろうと、自民党は負けたはずだ。なぜか。
いま日本では中間層が空洞化しているように見える。戦後の日本はある時期、ほぼ全員が中間層といってもいい時代だったと思う。社長と新入社員の給与が目をむくほどには離れておらず、何となく経済的な平等を多くの人が感じ取っていた。
私がトヨタ自動車を担当したころ、トヨタ自動車工業の会長の年収は4000万円ほどと聞いた。当時のトヨタ自動車工業の大卒進入社員の給与がいくらだったは知らないが、仮に月収20万円としよう。ボーナスもあるから年収300万円ほどだろう。とすれば、会長との所得格差は13倍ほどしかない。そのころ、メルセデス・ベンツの会長の年収も4000万円ほどだと何かで読んだ。

それが、すべてをアメリカに学び直せという風潮の中、企業の役員報酬は上がり続けた。年収1億円ならまだ優しいほうだ。3億円、5億円、10億円という数字を聞くと、

「そんなにお金がもらえるのは、どんな仕事をしているからなの? 社員の100倍も汗を流しているの?」

と聞きたくなってしまうが、それは本題ではない。
そのような流れの中に、安い労働力を使うという筋があった。正社員を出来るだけ減らし、業務委託、派遣社員、アルバイトなど、労働力を「安く」使うための制度が次々に出来た。こうして中間層が空洞化した。いや、やせ細った。

中間層とは日々の暮らしに安定と、ある程度の満足を感じるものだ。だから変化を嫌い、保守の地盤になる。自民党を支えてきたのはそのような中間層だった。
その中間層が目減りした。暮らしが安定しない、結婚も出来ない人が多数いる。そのような人たちは安定を嫌う。今が変わらなければ先の見通しが持てないのだ。そんな人たちが、現状維持、ほんの少しずつの改良、という路線を採ってきた自民党から離れるのは当たり前ではないか? 自民党を支持していても自分の暮らしが変わる見通しが持てなければ、他の何かを探すのではないか?

そこに登場したのが参政党である。彼らの言動を見聞きしていると、私は危険なものを感じる。「日本人ファースト」という政策が、あのとんでもないトランプに似ているのを別にしても、参政党の支持構造がトランプの支持構造に酷似しているからである。アメリカでは中間層を滑り落ちたプアホワイトだといわれる。日本では中間層に入れず、暮らしが安定しない、結婚も出来ない人々、それにその同調者なのではないだろうか。そんな人々に、参政党は口当たりのいい政策(出来るかどうかは分からない公約を並べながら

「外国人参政権は一切認めず、帰化1世にも被選挙権を付与しない」

という毒も仕込む。不法移民がアメリカ社会を毒していると、メキシコ国境に壁を作るといったトランプとどれほど違っているのか?

自民党は内紛を繰り返している時ではない。敗因を精密に分析する時である。そして政策を練り直す。そうでなければ、トランプに似た人物が政治の表舞台で喝采を浴びることになるぞ!

ナチスも、現状に不満を持ち人々の思いに火をつけて政権の座についた。「アメリカ・ファースト」が「都民ファースト」に伝染し、今度は「日本人ファースト」に成長した流れは、何となくナチスの政権掌握を思わせる。

自分だけがよければ良い。そんな世の中はご免である。各所であつれきが生まれるはずである。

だから、政治をまっとうな姿に戻すには、国民の暮らしを安定させなければならない。民の竃から日々炊煙が上がる世にしなければならない。

さて、自民党は内紛を繰り返して自滅するのだろうか? それは構わないが、そのあとに出来る政権が怖いと思う私である。