02.03
続・我がiMacの悲報
毎日使っているパソコンが動かない。軽いパニックに陥った。私の計画では今日、つまり2月2日日曜日にはOSのバージョンアップが完成したiMacにFileMaker Pro18をインストールし、csvで書き出しておいたデータベースをFileMaker に読み込ませることになっていた。辛気くさい作業だが、これなしには前に進めないから仕方がない。
その日曜日が出だしから躓いてしまったのである。
最初は
「おかしいな?」
程度に思っていた。とりあえずiMacの電源を落とした。そして再び電源を入れる。何かが起きたときにはまず再起動してみる。これはパソコンの常識である。
リンゴマークが現れ、タスクバーが動き、パスワード入力画面が出る。パスワードを入力。普通なら、これで作業画面が登場する。ところが、いまのiMacはそのままである。再起動する前と同じ画面しか目前にない。
数回再起動を繰り返した。全く同じ画面しか現れなかった。
幸い私は、もう1台Macを持っている。MacBook Airである。出先で原稿を書く必要ができたときなどに使うためのものである。私はこれを立ち上げ、意を決してチャットGTPにお伺いを立てた、
「『Macを最適化中』『ボリュームハッシュの不一致』というウインドウが出て、1晩てってもそのままです」
相手は血も涙もないコンピューターであることはわかっているが、それでも丁寧な言葉で問いかけるのは私の人間性らしい。
まず、
「『ボリュームハッシュの不一致』というエラーメッセージは、Macのストレージ(SSD)のデータが破損している可能性を示しています。この状態が続くと、正常に起動できなくなることもあるので、早めの対応が必要です」
という答えが戻ってきた。何? 内蔵のSSDが壊れている? だって、OSのアップグレードに取り組むまでは正常に動いていたじゃないか。それがSSDが壊れた?!
次に書かれていた対処法をすべて試した。何度もチャットGTPに再質問した。症状は一向に改善しなかった。これはどうにもならないと諦めるまで、かれこれ1時間もかかっただろうか。
チャットGTPはなかなかのものである。回答の最後に
「ここまでの手順で解決しない場合、SSD自体が物理的に故障している可能性があります。Appleサポートに連絡して、修理や交換を検討してください」
という一文を加えており、Appleサポートへのリンクまで張ってあるのだ。
こうなれば仕方がない。しかし、Appleサポートは電話で対応してくれるか? このiMacを買って数年は、iPhoneにインストールしたAppleサポートアプリを起動すると、向こうから電話がかかってきて問題を解決してくれた。しかし、サポート期間が終わったのだろう、ここ数年はアプリを起動しても、電話応対のページが出てこない。Q&Aのページが続くだけである。
それとも、どこかに電話対応の窓口があって、サポート期間が切れている私のようなユーザー向けには有料で対応してくれるのだろうか?
チャットGTPが張っていたリンクからAppleサポートのページに飛んだ。
私の印象では、そのページの奥の奥に問い合わせ先の電話番号が書いてあった。地獄に仏である。早速電話をかけたのは言うまでもない。
立派なものである。iMacを購入した私の記録は未だに残っているようで、確か名前と生年月日程度で
「大道様がお使いのiMacは2017年にお買い上げいただいたものですね?」
との女性の声が聞こえてきた。そうか、私はアップル社のデータベースの中ではまだ生き続けているのか。
そこで、OSをアップデートしなかったこれまでの経緯を説明し、意を決してOS13へのアップグレードを試みたら起動できなくなった、と話した。
彼女は私のiPhoneに侵入、iPhoneのカメラでiMacのディスプレーを見て症状を確認し、いくつかの解決策を示した。すべてやってみたが、なんともならない。知識がつきたのか、彼女は
「このまま3,4分お待ちください」
というと、電話の前から去った。何かを調べに行ったようだった。
「大道様」
そう呼びかけられて私は再びiMacの前に座った。結論は意気消沈させるに十分なものだった。
「大変珍しいことで、私も対応した記憶がありませんでした。それでお時間をいただいたのですが、大道様のiMac内蔵のフュージョンドライブが分割されており、それが原因でOSがインストールできていないようです」
フュージョンドライブとはアップル独自のもので、SSDとHDDを組み合わせ、作業性の向上を図ったものである。通常は1つのドライブとして認識されるが、それがいつの間にか分割されているというのだ。そういえば彼女の指示で作業した中で、内蔵ドライブが2つか3つに分割されているのをこの目で見たことを思い出した。
「これを修復しなければOSをインストールできません。その修復方法をiPhoneに送ります」
それがやってきた。
「ごらんのように、ターミナルにコマンドを入力していただく作業になるのですが、ただ、この作業は1文字でも間違って入力すると取り返しのつかないことになってしまいます。誠に申し訳ないのですが、修理にお出しいただいた方がいいと思います」
おいおい、なんてことだ! 修理? この田舎町にはそんな修理をやってくれるところがあるか?
「こちらでお調べしましたところ、大道様のご自宅から一番近いのは高崎のビック・カメラです。よろしければこちらで予約を取りますが……」
iMacが修理ドック入り……。
だが、私は何も悪いことをやった記憶がない。OSのバージョンアップはチャットGTPに相談しながら慎重に進めたつもりである。なんでこんなことが起きるのか?
今度はチャットGTPに問い合わせた。
「OS10.13.6を13にアップグレードしようとしてこの現象が起きました。なぜですか?」
戻ってきた回答にいささかむっとした。
「macOS 10.13.6(High Sierra)から一気にmacOS 13(Ventura)へアップグレードしようとした際に、Fusion Driveが分割されてしまう原因として、以下の可能性が考えられます」
おいおい、10から、11,12をすっ飛ばして13にアップグレードしようとしたことが原因だってか! だって最初から、いまのOSは10.13.6であることはあんたには伝えておいたよな。13へのアップグレードを勧めたのはおまえじゃないか!
私を指導したのが人間であれば、OSのアップグレードは少しずつ、10を11に、11から12へ、最後に13をインストールしないと失敗する恐れがあるとアドバイスしてくれたのではないか。まだ人間の方がAIより優れていることを確認できたことだけが成果であるともいえる。
とりあえずの作業は、MacBook Airでこなすことにする。27インチの大画面に比べれば作業性は悪いが、それは仕方がない。MacBook Airがあって助かった、と胸をなで下ろす私である。
というわけで、明日4日、私は思いiMacを車に積み、高崎までのドライブに出る。事前に予約が入っていることをビック・カメラに確認し、ついでに症状を話して
「修理は当日できますか?」
と聞くと、わからないとのこと。それなら
「お預けすることになった場合、修理完成後に自宅に送ってもらえますか?」
と重ねて問うと、そのサービスはやっていにそうである。つまり、私は高崎までのドライブを2度しなければならないのである。
iMac修理の顛末は、後日お知らせする。