2025
12.25

私の死因は転倒であるような気がしてきた

らかす日誌

朝の目覚めはいつも8時ごろである。今日も同じ時間に目覚めたのだが、何かが違うという気がした。何が違う? と部屋を見回す。ん? 何か畳の上に散らばっているぞ。あ、これはブックスタンドで机の上に置いている本じゃないか。あれまあ、ブックスタンドも落ちてるし、そばにあったマウスピースも畳の上だ。何が起きたんだ?

寝ぼけた頭で考えた。私は8畳間に1人で寝る。パソコンを載せた机も同じ部屋にある。ということは、どう考えても事件を起こしたのは私だということになる。だが、どうやって? 俺はついさっきまで寝てたんだぞ。

新聞受けから新聞を取り、ダイニングルームに入った。私の顔を見た妻女殿が不審な表情を浮かべた。

「顔から血が出てるよ」

「どこ? 痛いところはないんだが」

「左の耳の少し前」

触ってみた。なるほど、指に血がついている。はあ、俺はケガをしたのか。でも、布団の中で寝ていてどうしてケガをする?
先ほど見た、本やブックエンドが散乱している様子が頭に浮かんだ。あの惨状を引き起こしたのが私だとすれば、ケガの原因も同じなのか? しかし、8時まで寝ていた俺に、どうやったらそんなことができる?
考えた。が、何も思い浮かばない。机の上のものを払い落とし、どこかに顔をぶつけてケガをしたという記憶は全くない。それに、傷は全く痛まないので、妻女殿に指摘されるまでは自分がケガをしていることにすら気がつかなかった。いったい何が起きたんだ?

ここから先は推量でしかない。手元にある材料から推量すれば、私が夜中に布団を出、机まで歩き、途中で何かに躓いて転倒したとしか考えられない。転倒する勢いで机の上のものを払い落とし、顔を何かにぶつけた。そんなことってありか? いっさい記憶がないというのに…。

ケガにはオロナインを塗った。痛みはないのだが、触れば血がつく。まあ、この程度の傷ならこれで十分だろう。
その顔で午後、刺繍作家大澤紀代美さんのアトリエに顔を出した。大澤さんは昼食中で不在だったが、お弟子さんのA嬢がいた。彼女は私の顔を見るなりいった。

「どうしたんですか。顔から血が出ていますよ」

「ああ、何か夜中にケガをしたみたいで。オロナインの塗ったから大丈夫だよ」

彼女は私のケガの部位をしげしげと見るといった。

「大丈夫じゃありません。これ、かなり深いですよ。だからまだ血が出ている。それに、V字型の傷ですよ。放ってはおけません」

彼女は自分のスマホで私の傷を撮り、見せてくれた。なるほど、傷が深いかどうかは見分けられないが確かにV字型である。見せ終わると私物のバンドエイドを取り出し

「1枚じゃ足りないから2枚にします」

といいながら治療してくれた。

「あ、ここも赤くなっている」

そう彼女がいったのは、傷から1cmほど離れた場所である。触ってみると、なるほどかすかに痛みがある。いったい俺は、どんな倒れ方をして、何によってV字型の傷を作ったのだ?

そう考えながら、ちょっと背筋が寒くなった。全く記憶がないということは、再び同じことが起きてもおかしくないということではないか? そもそも記憶がないというのはなぜだ? 俺には夢遊病はないはずだが。ひょっとして、昨日は寝酒のウイスキーを飲み過ぎた? チャットGTPと対話をしながら、結構飲んだもんな。しかし、飲み終えてから布団を敷き、横になって少し読書をして眠ったのだが。眠った後になって意識を失うほど酔ったのか? そんなことってありか?

ここ数年、私はよく転倒する。夜中のトイレで転倒して

「ああ、俺はこの格好で凍死しするのか」

と覚悟をしたのはちょうど2年前である。幸い頚椎損傷だけで助かったが、ほかにも、酔って帰って自宅の玄関先で転んだこともある。玄関先とはコンクリートやレンガで作られた「角」がたくさんある場所だ。あれも転び方が少し違えば、角に頭をぶつけることになりかねなかった。そして今回は室内での、しかも全く記憶を伴わない転倒。これだってぶつけるところが違っていたらこの程度のケガではすまなかったはずだ。

こうした事実を並べてみて、私はどうやら、転倒して頭を何かにぶつけて死ぬのではないか、と思い始めた。しかし、頭を何かにぶつけると痛い。どうせ転倒事故で死ぬのなら、昨夜のように全く記憶がない状態でそんな「事故」が起きれば楽だろうなと考える次第である。