2009
08.31

2009年8月31日 自民党大敗

らかす日誌

各新聞の世論調査が的中した。昨日の衆議院選挙で自民党が大敗した。政権は民主党が担うことになった。

何度も書いたが、この選挙、民主党が大勝した選挙ではない。自民党が大敗した選挙である。有権者の一部が、もう自民党には任せておけないと思った。それが突風となり、自民党を奈落の底に落とし込んだ。そんな選挙であった。

でも、自民党は何故大敗したのだろう? 日本の政治史では歴史的な日になるに違いない結果を見て、そんなことを考えた。考えていたら、きわめて単純な結論に行き当たった。

「何だ、うちの会社と一緒じゃないか」

さて、我が社は事業会社である。事業会社にとって最も大切なことは、客の要求に応えることだ。自分の会社の製品に金を払ってくれる客は、いま何を求めているのか? あるいは、何を作り出せば客が喜んで金を払ってくれるか? 日々、それを追い求めていなくては経営は安定しない。

客の求めるものを見いだし、作り出した会社が成功し、成長する。資本主義はきわめて単純な原理で動いている一面がある。生産が追いつかないほどの人気商品となったプリウスを世に送り出したトヨタ自動車は、当分の間覇者で居続けるはずである。

だが、えてして成功した人間、組織は思い上がる。自分たちが、多くの場合先人たちが、作り出した商品が市場から大きな評価を受け続けると、その商品が最高のものだと思いこむ。それはほとんど信仰に近い。
世の中の嗜好が燃費のいい小型車に移り変わっているにもかかわらず、大型車に固執し続けて破綻したアメリカの自動車メーカーは、その最たるものだ。背景には、大型車が評価され続けた国内市場で競い合ってきた彼らに採算が取れる小型車を作り出す技術がなかったことや、利幅の大きい大型車抜きには株主が求める利益を上げられなかった事情もあるが、本質は変わらない。

さて、我が世の春を謳歌する組織は、天上天下唯我独尊を謳歌する。俺たちの製品を評価しない消費者はものの理屈がわからないクズである。相手にするに足りない。俺たちのの製品政略、経営戦略がクズどもに惑わされてなるものか。考える、感じ取ることを欠いた強気な議論が社内を横行する。

「しかし、世の中は変わっている。それに応じた製品を作り出さねば」

などと社内で発言しようものなら、組織からはじき飛ばされる。はじき出されなくとも、評価は最低レベルに下がる。出世など夢のまた夢である。いや、それだけは避けたい。とすると、口をつぐむのが最上策か……。

かくして、上が唱える

「我が社の製品は最高! 売れないのは売り方に問題がある」

という勝手な思いこみを、

「誠にその通り」

と讃える茶坊主どもが上に昇る。消費者が求めるものを

「我が社ではできない」

と突っぱねる。 突っぱねて空いた時間でろくでもない理屈をこね上げ、人事に血道を上げて仕事をした気になり、ごまをすって出世の階段を上る。それで日々が過ぎる。経営にさしてる変化もないじゃないか。これでいいんだ。

市場は意地悪だ。一朝にして彼らの製品が売れなくなれば、さすがの彼らも目を覚ますに違いない。だが、売れ行きは徐々にしか落ちない。市場には、逆の意味でものの理屈がわからない輩—時代が変わっても、他社製品がどれだけ良くなっても、ある企業が作り出す製品を高く評価する消費者—が、長い間生き残る。
売れ行きが多少落ちたな、という間は、社長の首をすげ替えて新味を出したり、景品付きのキャンペーンを展開したりで何とかしのげる。しのげる間は、

“We are the champions!”

と茶坊主どもも胸を張っていられる。官僚、いや民僚が跋扈し、人事と組織改革が盛んに行われる。

だがある日、突然売れ行きが急落する。官僚、いや民僚が跋扈する会社は、かくして危急存亡の時を迎える。ろくでもない議論と、人事、それに市場無視を続けた輩に、有効な対策が出せるわけがない。

とうのは、私が、私の奉職する会社に抱いている危惧である。

似ているのだ、いまの自民党に。
自民党は1955年の結党以来、第1党の座を守り続けてきた。政界における勝ち組である。勝ち組で居続けられたのは、大衆の支持を受け続けることができたからだ。企業にたとえれば、消費者が求めるものを作り続ける確かさが自民党にはあった。
だが、このところの凋落ぶりは酷い。首相=社長が次々と地位を投げ出す。党是=社是に反して離党した議員の復党を認める。閣僚のスキャンダルが相次ぐ。総選挙が近づくと、不人気の首相では選挙ができないと内紛が起きる。宮崎県のタレント知事を担ぎ出そうとしたのも記憶に新しい。

この間、自民党にとってのお客様、有権者は世の中が刻一刻と悪くなっていることを実感し続けた。多くの怒りを買った後期高齢者問題、お前ら、ちゃんとした仕事はできないのかよ、の年金問題、派遣労働者問題をはじめとした若年層の失業問題、教育問題、ボーナス、給与がガタ減りした景気。

お客様は困り果てていた。だが、そんなことはどこ吹く風の自民党。仲間内で、自分たちの利益のために動き回っているだけで、ちっともこっちはみてくれない。有権者の多くはそう見切ったのではないか。

「あんたらは、いったいどこに目をつけてるんだ? 永田町が世の中だと思ったら大間違いだ!」

結局、自民党は市場に背を向け、内側の論理だけで動き回っていたのではなかったか。有権者は自分の暮らし向きと照らし合わせ、

「ふざけるな!」

と怒った。怒りにはカタストロフィーが必要である。自民党を叩きつぶそうじゃないか。そう思って見回すと、受け皿は民主党しかなかった。民主党のマニフェストがいいか悪いか、実現できるかできないか、はどうでもいい。小選挙区制のもとで自民党を負けさせるには民主党しかなかったから、民主党に投票した。
こうして、自民党はボロ負けした。

というのが、私の総選挙総括である。

それほど間違っているとは思わないが、いかがであろう?

ご意見、ご異論のある方はお寄せください。歓迎します。