11.08
2013年11月8日 官僚たちの夏
今日は四日市の啓樹から電話が来た。
「ボス」
おお、啓樹か、どうした?
「あのしゃ、僕しゃ、オーディションに受かった!」
年に1回の学習発表会。ま、我々の時代の学芸会みたいなものだろう。そこで、クラスのコーラスを披露する。そのピアノ伴奏を誰がするか、を決めるオーディションが本日あった。
昨年、啓樹が2年生の時は、無審査で啓樹がピアノを弾いた。そりゃあそうである。啓樹の母は、国立音大のピアノ科卒である。自宅には、啓樹からすればひいおじいちゃんが買ってくれたセミグランドのピアノがあり、幼いころから鍵盤に親しんできた。
「親が教えるのは良くない」
と、外のピアノ教室に通い、毎年発表会でそれなりの腕前を披露する。
加えて、
「啓樹、お前何が一番好きなんだ?」
と聞くと、
「うーん」
と考えたあと、
「やっぱ、ピアノかな」
と答える。絶対音感も身につけている。啓樹の前では、私はやたらなことではギターが弾けない。
そんな啓樹が、ピアノでクラスメートに負けるはずがないではないか。
だが、それなのに何故、担任はオーディションなどという回りくどい選考方法を採ったのか。
「毎年啓樹じゃ、やっぱりまずいと思ったんじゃない? だから、多少うまくても、今年は選ばれないかも知れない」
とは、啓樹の母が懸念していたことだ。
恐らく、父兄の一部から
「啓樹君はえこひいきされてる」
などという中傷があったのではないか。なにせ、嫉妬というマイナスのエネルーギーで構成されるのが、いまの社会なのである。
その壁も突破して、啓樹は見事、鍵盤の前に座る名誉に輝いた。
「そりゃあ良かったな、啓樹。お祝いしよう。瑛汰はさ、夏休みに書いた読書感想文が横浜市で選ばれたんだって。だから、お祝いにないかを買ってやるっていったら、歴史の漫画がいいというんだ。啓樹も歴史の漫画、お祝いに買って送ろうか?」
「うーん、僕しゃ、歴史の漫画持ってる」
ん? 私が買ってやった記憶はないぞ?!
「ドラえもんのやつ」
ふむ、それなら私が買うはずがない。
「じゃあ、啓樹、何が欲しいか、考えておけ。啓樹は、お祝いのプレゼントに、12月の誕生日プレゼント、それにクリスマス。いっぱいあるなあ」
子供が喜んでいるときは、一緒になって精一杯歓び、はしゃぐ。
子供の成長を支えるテクニックである。
先日、CSのTBSで、
官僚たちの夏
をやった。城山三郎の名作のドラマ化である。2009年の制作で、今回は再放送だ。
見たことがなかったので、録画して鑑賞した。全10話、1話47分強だから、8時間の長丁場だ。
止めどなく涙が溢れ出るドラマだった。
実在した通産官僚がモデルである。
主人公の風越は、最後は通産次官にまで上り詰めた佐橋滋がモデルだ。
時は、戦後の混乱がやっと収まりかけた昭和30年代。アメリカに戦争で敗れ、三等国に落ちぶれた日本を再建する。経済で、アメリカを見返してやる。そうした、過剰ともいえる愛国心に溢れた男達の物語だ。
日本の国産車構想から話は始まる。戦争に負けた日本が、戦勝国アメリカに追いつき、肩を並べ、追い越すためには自動車産業を国内で育成しなければならない。部材メーカー、部品メーカーの広い裾野が必要な自動車産業は、世界のトップを目指す日本経済になくてはならないものだ。
風越たちは、この構想を実現させるべく全力を挙げる。が、省内にも
「いまさらアメリカには追いつけない。無駄だ」
という空気がある。
風越たちが望みを託した元戦闘機メーカーも、
「とてもじゃないが、そんな理想論にはつきあえない」
と腰を引く。
資金がない。材料もない。研究開発は、長い間アメリカに止められてきた。それなのに、どうやって車を作れってか?
だが、やらなきゃだめなのだ。やらなきゃ、日本はいつまでも三等国のままなんだ。
風越たちは、渋るメーカーを説得し、省内の慎重派を蹴散らし、政治家に手を回し……。
敗戦国日本の再起に命をかけた男達の物語だ。政治家に裏切られ、銀行にそっぽを向かれ、大蔵省からは取り合ってもらえず、四面楚歌になっても、
「どぎゃんかせんといかんばい」
と風越軍団は驀進し続ける。
ああ、こんな生き方をした先人たちがいた。それだけでも見る価値はある。こんなヤツらがいたから、いまの日本がある。恐らく、あの頃は官僚だけでなく、心ある日本人は、多かれ少なかれ、同じような生き方をしたのに違いない。
加えて、見事な戦後日本経済史でもある。戦後の廃墟の中から、日本はどのように立ち上がって今日を築いたのか。これから先を考えるためにも、しっかりと確かめておきたい足元がある。
まあ、時々
「風越さん、そりゃあ、あんたの言うことの方がおかしいだろう」
というシーンが出て来るのは、このドラマを見る私から見れば、描かれていることはすべて過去、結果が出ていることばかりだからか。
見逃した方も多かろう。
これ、レンタルビデオになってないのかな?
何らかの機会を見つけて、一度ご覧になることをお薦めする。
ちなみに、モデルになった佐橋滋は、通産次官まで上り詰めながら、天下りを拒否した。
佐橋氏の爪のアカが残っていたら、いまの官僚どもに煎じて飲ませてやりたい。
そういえば、私が尊敬する元通産官僚は、次官に次ぐ通産審議官で終わったが、彼も天下りしなかった。大学生時代に司法試験をクリアしており、役所を辞めるとすぐに司法研修所に入所、2年の研修を経て、弁護士になった。そう、彼の爪のアカを集めて、霞ヶ関で売ってみるか。