2015
09.25

2015年9月25日 故郷

らかす日誌

素っ頓狂なことを考えるものである。
500万円以上のふるさと納税をした人にはスバル車をプレゼントすると発表して、スバルから

「それは困る」

と待ったをかけられて計画を撤回した群馬県太田市が、今度は

都市住民優遇ふるさと納税制度

を始めるのだそうだ。
今朝の東京新聞によると

「離島などを含む東京都内や政令指定都市、中核市の住民は、1万円以上を寄付すれば地元の農産物や地酒のセットなどを送る。6万円以上で市内のメーカー製の ポータブル冷蔵庫、7万円以上で発電機が加わる。大都市以外の住民には2万円以上で牛肉やコーヒー、地ビールのセットなどを送る」

実例のあげ方が不用意で、分かり難い説明だ。大都市以外の住民が1万円以上のふるさと納税をしたら、何がもらえるのか。6万円以上ならどうなのか。つまり、実例を挙げるのなら、同じ金額で大都市住民とそうではない住民がもらえるものを並べなければ、違いがはっきりしない。
頭がはっきりしない記者が書いた記事であると推察される。

ま、それはそれとして、別の箇所に、市の担当者が

「税収の低いところから納税してもらうのは申し訳ない」

と語っているとあるから、要は次のような計算であるとうかがえる。
東京都内、政令指定都市、中核市は自治体財政が比較的健全だから、本来は都やその市に落ちるはずの税収の一部が太田市に回っても、たいして困るまい。そうではない自治体は市税収入が少なく、少しでも税収が抜け落ちては財政が困窮する。
であるからして、大都市住民からのふるさと納税を増やして、そうではないところからのふるさと納税はできるだけゼロに近づけることにする。

最近のふるさと納税を見ると、自治体は返礼品を競って豪華にし、納税者、納税額をできるだけ増やそうとしている。自治体にとってみれば、10万円納税してもらって9万円のものを返礼品として贈っても差し引き1万円の税収増である。しかも、地元の物産を送れば、地場産業の売上げ増にもつながる。
これを利用しない手はない。

大都市住民からのふるさと納税には、高額品を贈るようにする。そうではない地域からのふるさと納税にはそこそこの品を贈る。こうすれば、欲に目がくらんだ大都市住民は太田市にふるさと納税をするであろう。それ以外の地域の住民は、馬鹿馬鹿しくなってふるさと納税をやめるに違いない。
かくして、太田市の税収は増える。地元企業の売上げは増える。大都市の自治体収入は多少減るが、元々金持ちだから困りはしない。税収が減って困る弱小自治体の収入には何の影響もない。
これぞ、みんながハッピーになる新制度である。どうだ、参ったか!

いや、参ったりはしないのである。参る代わりに、こう叫ぶのである。

太田市の市長さん、職員の皆さんよ、あんたら、気は確かか?

まず、一つだけ確認しておこう。
これは、太田市が創り出す、新たな差別である。大都市に住んでいる人は、ふるさと納税という善行をすれば高額な返礼品がもらえる。だが、たまたま大都市に住んでいなければ、同じ額をふるさと納税してもしょぼい物にしかありつけない。

「私もいつかは03に」

東京で働いていると、同僚や知人からそんな言葉を耳にする。

「部長神奈川、課長埼玉、係長千葉」

という表現を聞いたこともある。何のことか分からぬ私に、彼は説明してくれた。

「ま、地方から出てきて、東京にはまず住めない。で、近くに住まざるを得ないのだが、これが反時計回りになるんだな。収入が多い人は神奈川県に、それより少し下がる人は埼玉県に、そこまでも至らない人は千葉県に住まざるを得ないということだよ。君はどこに住めそう?」

もともと地方都市で生まれ、地方都市で働く人々を除けば、仕事の関係で大都市近郊に住まざるをない人々が1時間、1時間半の通勤時間を覚悟して、大都市ではないところに住むのである。そして、収入で差別され、バカにされる。

太田市は、さらにそのような相対的弱者を差別するのか?

それに、だ。
そもそも、ふるさと納税とは、地方から都会に出た人々が、衰退が続く生まれ故郷を少しでも支援したいという気持ちで行うものであろう。太田市は、そのような「故郷への思い」に階級をつけた。大都市住民は我等が仲間の一級市民である。ちっちゃな街にしか住めない連中はどうでもいいよ。太田市が故郷? 忘れな! 忘れてよ! こっちはあんたのこと忘れてるから、さ。

自治体が営利企業なら、実に秀逸な戦略ということもできる。還元率の有利さに目を惹かれた都会の馬鹿者どもが大挙して太田市にふるさと納税をすれば自治体はウハウハの税収増だ。それだけではなく、地元産の商品の新しい販売ルートもできるから、その地場企業からの税収が増えるに違いない。
実に見事な経営手腕である。民間企業なら増収増益が続く健全企業になりうる。

だが、自治体は企業になってはいけない。利益を最終目的とする企業ではできないところを埋めて、市場経済がもたらす影の部分にまなざしを注いで住民の暮らしの満足度を上げるのが役目である。売上げ増を狙わず、無駄遣いを廃して財政の均衡を図るのが自治体なのだ。その自治体が、儲け一辺倒の企業の真似をしてどうなる?
 
大企業と住民が大都市に集まり、結果として税収も大都市に集まるいまの税制に問題は多い。金持ち自治体はますます金持ちになり、不要不急、いや、大いなるはた迷惑であるオリンピックを誘致したりする。だが、そこに人も金も吸い取られる地方都市は、だから衰退の度がますます深まる。
それを避けるために地方交付税制度があるが、国が1000兆円の借金を抱えるに至ったいま、交付税もカット、カットで、制度は死に体だ。地方都市は、がんじがらめになってなかなか抜け出せない。

だからといって、太田市のようなvが横行してよいのか?
週刊誌や月刊誌は、故郷の税での返礼品のコンテストをして、

「ここにふるさと納税したら得だよ!」

と煽る。それに乗って、自称善男善女が縁もゆかりもない自治体にふるさと納税して

「儲かった!」

と悦に入る。
どっかが狂ってる。
そうは思いませんか?

そもそも太田市が、500万円以上の故郷納税者には、スバル車をプレゼントするとぶち上げたのは

「六本木ヒルズに済む連中から税金を取りたい」

という狙いだったと、知人に聞いた。発案者は清水という市長らしい。
このオッサン、アホである。
六本木ヒルズに済むような連中が、スバル車を欲しがるか? フェラーリやアストンマーチン、ベンツやBMWならともかく、スバル車を?
ほんの数年前にはつぶれかけたスバルは、トヨタ自動車のてこ入れで息を吹き返し、いまや優良企業である。太田市に勢いがあるのは、そのためだ。
だが、自動車の世界はグローバル10、つまり生き残ることができるのは、世界の上位10社だけ、といわれて久しい。そんな世界でスバルの勢いがいつまで続くか。太田市の勢いがいつまで続くか。

太田市は桐生市の隣町。
私は、嫌な隣人がいる桐生市に住む。