2022
12.13

我が家にマットレスがやって来た。

らかす日誌

本日午後、我が家にマットレスがやって来た。妻女殿用である。

もう半年ほどになろうか、妻女殿が

「ベッドのマットレスが欲しい」

とおっしゃった。妻女殿は畳ベッドにマットレスを乗せてお休みになっている。そのマットレスが折りたたみ式であるももだから、折りたたむための切れ目のところで段差ができ、寝にくいのだとか。

「新しいのを買ったら良かろう」

と言い渡しておいたのだが、見るとニトリのカタログをご覧になっている。思わず

「おいおい、それは」

と声が出た。新しくマットレスを買うのなら、恐らく最後のマットレスになる。それを格安のニトリ製マットレスでいいのか? 世界最高級のマットレス、とまではいわないが、それなりの安眠をもたらしてくれるものであった方がいいのではないか?

「家具店に足を運んで、身体を横たえてみて、寝心地のいいものを選んだら良かろう」

というのが私からのアドバイスであった。
そのアドバイスが効いたのかどうか、その後妻女殿はマットレスを全く口にされなくなった。口にしないということは、たいして欲しくはないのだな、と解釈せざるを得ない。本当に欲しくなったら

「家具店に連れて行け」

という命令が飛ぶはずである。だから私は放っておいた。

私の頭から、妻女殿のマットレス、という言葉が消えかかった12月、ある会社の取材中のことである。

「ベッドにはA級品、B級品ってのがあってね。表面にちょっとした汚れがあると、もうB級になってメーカーはたたき売る。性能には何の違いも無いし、いわれてみなきゃ分からないほどの汚れだよ。だから、頼まれると、そんなベッドを買ってやるんだ」

社長の口からそんな言葉が出た。ベッド用マットレスの外側、つまりスプリングなどでできたマットレスの躯体をくるむ布の部分を作る会社である。単なる1枚布でななく、布の間にウレタン、綿をはさんだ構造のマットで、上・中・下がずれないように縫い合わせるキルティングと呼ばれる加工を施してマットを作っている。工場には数々の、独自に開発したマシンがずらりと並んで壮観だ。
だから、ベッドメーカーは取引相手である。

ふむ、そういえば妻女殿は最近、マットレスの話をされない。あれはどうなったのか?
と考えつつ、社長にお伺いを立てた。

「実は、うちの母ちゃんがバッド用マットレスを欲しがっていたんですが、私にも買って頂くことはできますか?」

いいよ、と社長は軽く答えてくれた。であれば、後は妻女殿が私の提案を受け入れられるかどうかである。何事につけ、私の提案は直ちに却下されることが多い妻女殿である。その意向を確かめねばマットレスは注文できない。

「うちに戻って、欲しいかどうか確かめてきますので、時間を下さい」

とお願いした。社長は

「マットレスといってもピンキリでね。5万円でも買えれば10万円するものもある。もっと豪華に15万円、20万円というヤツもあるけど、中身はほとんど変わらない。5万円で十分なんですよ」

帰宅して

「実はこんな話があるんだが」

と切り出すと、妻女殿は

「欲しい」

と断言された。これで話はまとまったと思っていたら、もうお一言あった。

「お金、あるの?」

なるほど、妻女殿は私の財布の中身を全く信用されておらぬ。ま、現状では仕方ないが……。

というわけで、本日、そのマットレスが届いたのである。その会社の若い社員が運んでくれた。それだけでなく、2階にある妻女殿の寝室まで運び上げる手伝いまでして頂いた。セミダブル用のマットレスである。それなりに重く、しかも持ち手がない。独りではとても出来ない作業であっただけに、助かった。彼には、福島から取り寄せたとりわけ美味しいリンゴを持っていってもらった。

で、セッティングが終わって。妻女殿の二言。

「足が着かないわ」

新しいマットレスは厚みが20㎝ほどもある。これまでの薄いマットレスに置き換わって、確かに寝る平面と床面の距離がだいぶ離れた。

「これで腰痛がなくなるかしら」

ふむ、それは寝てみないと分からぬ。社長は

「寝ごごちいいはずですよ」

と自信たっぷりだったから、ひょっとしたら腰痛にもいいかもしれない。

久々に重いものを運んだ私であった。