02.02
こいつは春から縁起がいいや! と、この春破産したい私は思った。
今日は朝からいい話が飛び込んできた。中学受験中だった横浜の璃子が、見事に第一志望校の門を押し開けた。
試験前日の1月31日夕、FaceTimeで久々に璃子の顔を見た。翌日の入学試験に向けて励ましてやろうと思ったのだが、さて、こんな時にどんな励ましの言葉があるのか? そう思ったとき、璃子はすでにiPhoneの向こうにおり、こちらを見ていた。泣き顔である。明日に試験を控え、緊張が解けないのだろう。
「璃子、明日は落ち着いてな」
「あれだけ頑張ったんだから大丈夫だよ。自信を持っていけ」
「明日受験する子はみんな、今日は璃子と同じ不安を抱えているんだ。大丈夫、みんな同じなんだから」
「これまでやって来たことを出せば必ず通るぞ!」
こう並べてみると、私には全く文才がない。もう少し12歳の少女の気持ちを落ち着ける言葉があるだろう? とは思うのだが、思いつかないのである。
そんな不安、緊張に負けず、璃子は落ち着いて試験問題に臨んだようである。
合格を知らせてくれた璃子の母、私の次女は、璃子の滑り止め受験会場から電話をくれた。鳴き声だった。そりゃあそうだ。璃子と同じか、あるいは璃子以上に中学受験と取り組んできたのである。これで長男の瑛汰も、長女の璃子も第一志望に合格した。うれし涙が出るのを止めるのは難しかろう。
午後になって、璃子からFaceTmeが来た。帰宅途中の車の中からである。
「こんにちは、ボス!」
と私に呼びかける顔には笑顔しかなかった。2日前の涙などどこかに忘れたようである。
「璃子、おめでとう! やったな。本当に良かった。うちに帰ったら受験参考書を全部捨てちゃいな!」
それ以上の祝いの言葉を思いつかないもの、私の文才のせいである。本当なら、こんな時こそバッチリと決まる名台詞を思いつかねばならないのだが……。我ながら情けない。
「璃子、そういえばクリスマスプレゼントもまだだったな。それに合格のお祝いも加わるから、何でもいいぞ。何がいい?」
「うーん、本かな」
やっぱり璃子は、本が大好きな少女である。さて、何冊ぐらいの本を求めてくるのだろう? 璃子、これは合格祝いであり、遅れたクリスマスプレゼントでもあるから、いっぱい欲張ってもいいんだよ!
この年明けを考えてみれる。ひょっとしたら100万円を超える修理費がかかるのではないかと思われた愛車、BMW 320dが5万円ほどの費用で正常に戻った。第一志望の入試を翌日に控え、極度の緊張に涙を漏らしていた璃子が、蓋を開ければはじけるような笑顔を手にした。闇が明に転じる。今年は、そんな年なのかも知れない。
とすれば、だ。私の前立腺がんも、蓋を開ければがんもどき、ということになるのではないか?
そんな思いさえ抱かせてくれる璃子の合格だった。ありがとう、璃子!
さて、我がファミリーで残るのは、四日市の啓樹の大学受験である。啓樹も第一志望の門を突破すれば、我がファミリーには春からいい話が連続する。私は幸せの絶頂に遊ぶことができる、
気を抜くな、啓樹!
といいながら、今日、我が家の妻女殿とこんな会話をした。
「おい、今年はすごいな。入学祝いが、四日市の嵩悟に、これで璃子、啓樹がうまく行けば啓樹、それに息子のところのあかり。入学祝いが4つも要るぞ。いったいいくら必要なんだ? 我が家は破産だな」
そんな破産だったら、誰しも羨ましがるに違いない。この春、破産したいと願う私であった。