03.14
2006年3月14日 更年期
「更年期、なんだって!」
昨夜、送別会で意識朦朧となって帰宅した私に、妻が大きな声で告げた。
「更年期? だれが?」
「あなたに決まってるじゃない」
昨日の朝、妻が持病の治療のため、病院に点滴を受けに行った。病院まで車で送りながら、ふと思いついて頼み事をした。
「最近、膝から下が何となく冷たい感じがするんだ。時間があったら、何が原因か聞いておいてくれるかな?」
その解答が、その日のうちに帰ってきた。我が妻としては、極めて珍しいクイック・レスポンスである。他の頼まれごともこの速度でこなしてくれていたら、我が暮らしはずっと快適なものになる。
「俺が、更年期?」
「そう、男の人にもあるんだってよ、更年期」
「更年期……。それで膝からしたが冷える……。で、何か薬はあるのか?」
「あるんだって。飲む薬もあるし、睾丸に塗る薬も、ちゃんとあるそうよ」
「睾丸、に、塗る?」
「男性ホルモンが減ってるんだってよ」
「……」
私もそのような年齢に達してしまったのか。残り時間の方が少なくなったのか。
酔いも手伝って朦朧としながら、でも人生の無常をヒシヒシと感じて物思いにのめり込みそうになる私に、妻の声が容赦なく追い打ちをかけた。
「で、どうする?」
「ん? どうするって、何を?」
「診察受けに行く?」
「診察?」
「診察を受けなくちゃ、薬なんか出してもらえないでしょ。でも、根掘り葉掘り聞かれるわよ。夜の生活はどうなってるかとか」
「……」
勝ち誇るように言いつのる妻を前に、私は黙るしかなかった。
夜の生活って、我が家庭内での夜の生活か、それとも家の外での夜の生活か? などという質問は、口が裂けてもできなかった。
外だったらなあ、と墓穴を掘るようなことを言うはずもなかった。
でも、男性ホルモンの減少、夜の生活……。
いったい、昨夜の妻は何を言いたかったのか?