05.13
私と朝日新聞 桐生支局の14 放射線の人体への影響
第2章 人体への影響
放射線の影響について、「直線しきい値なし仮説」というものがある。放射線は浴びないのがベストで、浴びれば浴びた分だけ悪い影響が拡大する、という考え方である。0がベストで、1浴びれば悪影響が1出る。100浴びれば100出る。つまり、放射線とを浴びた量とそれによる悪影響は正比例する、という仮説(あくまで仮説)である。
1958年、国連科学委員会(UNSEAR)で「原子放射線の影響」が採択された。この説を押したのは遺伝学者、反対したのは医学者であった。その後、ICRP(国債放射線防護学会)もこの仮説を採用した。
1958年夏、テネシー州オークリッジの米国立研究所のウラン精製工場で5人が被曝する事故があった。被曝量は300ラド=3グレイ=3~60シーベルトである。
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ここは少し難しいかもしれない。ラドとは、人体が吸収した放射線の総量を表す古い形式の単位である。最近は、グレイという単位を使う。1グレイ=100ラドである。
グレイを、新聞などでおなじみのシーベルト、つまり人体への影響を量る単位に直すには、放射線荷重係数をかける。これは、放射線の種類によって人体への影響が違うからである。
種類 | 荷重係数 |
X線、ガンマ線などの光子 | 1 |
ベータ線、ミューオンなどの軽粒子 | 1 |
中性子10キロ電子ボルト以下 | 5 |
中性子10-100キロ電子ボルト | 10 |
中性子100-2000キロ電子ボルト | 20 |
中性子2000-20000キロ電子ボルト | 10 |
中性子20000キロ電子ボルト以上 | 5 |
反跳陽子以外の陽子でエネルギーが20000電子ボルト以上のもの | 5 |
アルファ線 | 20 |
核分裂片 | 20 |
重原子核 | 20 |
まあ、私にも個別の事は分からない。ここは、放射線の種類によって人体への影響度が違う、ということを理解するだけで先に進む。
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放射線を浴びた5人は直後から吐き気、嘔吐に見舞われ、2、3日続いた。
それから10日間は何事もなく、2週から10週の間は、放射線の影響で骨髄が減少する期間にあたる。
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なぜ骨髄が減少するかはあとで出て来る。ここは、そういう時期なのだと思って読んでいただきたい。
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このため5人は25日~30日にかけて出血を見た。また、感染症にかかったのは10~15日と、30~34日だった。
40日で全員退院した。
1963年、中国で被曝事故が起きた。子供がコバルト60という金属を持ち出したために起きた事故で、6人が被曝した。
6人については次の表を見ていただきたい。
患者 | E | F | A=女44歳 | B=男20歳 | C=女13歳 | D=男39歳 |
平均線量 (ラド) |
8000 | 4000 | 800 | 600 | 400 | 200 |
白血球最低 数/立方mm |
100 | 55 | 55 | 297 | 213 | 6000 |
白血球最低の時期 | 10日 | 10日 | 25日 | 17日 | 28日 | 白血球の減少なし |
出血 | 10日 | 8日 | 8日 | 15日 | 8日 | なし |
高熱 | 8日 | 8日 | 8日 | 20日 | 26日 | なし |
感染 | + | + | + | + | + | — |
急性症状 | 小腸障害? | 同左 | 骨髄障害(重) | 同左 | 骨髄障害(中) | 骨髄障害(軽) |
脱毛 | + | + | + | + | + | — |
骨髄移植 | + | + | + | + | — | — |
治療結果 | 死 (12日目) |
死 (11日目) |
無月経 | 永久不妊症 生活正常 |
1男1女 (正常) |
一時不妊 |
これが6人の急性障害である。
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これも被曝単位がラドになっているので分かり難いかもしれない。
ウィキペディによると、 コバルト60は、ベータ崩壊をしてニッケル60になる。このとき放出されるベータ線のエネルギーは0.318メガ電子ボルトである。そして、崩壊生成物のニッケル60がガンマ崩壊をして1.17メガ電子ボルトと1.33メガ電子ボルトの2本のガンマ線を放出する。
つまり、コバルト60ベータ線とガンマ線を出す。
これで計算すると、ベータ線もガンマ線も荷重係数は1だから
8000ラド=80グレイ=80シーベルト
4000ラド=40シーベルト
800ラド=8シーベルト
600ラド=6シーベルト
400ラド=4シーベルト
200ラド=2シーベルト
となる。
新聞で見るのはミリシーベルト、マイクロシーベルトである。ミリに直すには、これを1000倍する。80シーベ ルト=8万ミリシーベルト。ちょっと想像もつかない被曝線量である。
それでも、4人は助かっている。
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X線をマウスに照射する実験をした。X線の荷重係数は1である。
500ラド=5グレイ=5シーベルト以下では、マウスはまったく死ななかった。
800ラド=8シーベルトでは50%が死んだ。
8シーベルトを浴びたマウスに骨髄移植をすると、1匹も死ななかった。
900ラド=9シーベルトを浴びせると100%が死んだが、骨髄移植をしたら90%が生きた。
以上からいえるのは、中程度の被曝をすると。一時的に急性症状が出るものの、やがて回復するということである。ただ、精細胞だけは回復に時間がかかる。要する時間は白血球が回復する10倍ほどである。
白内障は、150ラド=1.5グレイ=1.5~30シーベルト以下では起きなかった。それ以上なると多発する。
染色体の異常は半永久的に残る。しかし、それが健康に影響があるかは別の話である。
放射線を浴びると短命になるという説に、今のところ証拠はない。
がん死亡率は、60ラド=0.6グレイ=0.6~12シーベルト以上被曝すると、被曝量に比例して増える。しかし、20ラド=0.2グレイ=0.2~4シーベルト以下の被曝では、全く問題ない。
放射線の種類によるが、200ミリシーベルト以下の被曝には問題はないと見られる。
チェルノブイリでも10ラド=0.1グレイ=0.1~2シーベルトではがんのリスクは全くなかったことが分かっている。
胎児に関しても、被曝リスクが最大になる8~15週の間でも、20ラド=0.2グレイ=0.2~4シーベルト以下は無害というデータがある。
奇形児に関しては、次のようなデータがある。
異常頻度(異常体個数/調査個体数) | |||
調査した遺伝的異常 | 対象 | 被爆 | 親の被曝量 |
周産期異常 | 4.99 | 5 | 36 |
早期死亡 | 7.35 | 7.08 | 40 |
平衡型染色体再配列 | 0.31 | 0.22 | 60 |
性染色体異常 | 0.3 | 0.23 | 60 |
突然変異 | 100万分の6.4 | 4.5 | 41 |
遺伝性ガン | 0.05 | 0.05 | 43 |
周産期異常とは、死産、奇形、新生児死亡
早期死亡とは17歳までの死亡
平衡型染色体再配列とは、全身の細胞に発生する染色体異常
突然変異とは、末梢血液細胞全体に見つかった変異遺伝子の割合
遺伝性がんとは、20歳までに発病したがんの中で、遺伝的要素が大きいと考えられているもの
数字は%である。
被曝量の単位はレム。100レムが1シーベルトですから、36レムは360ミリシーベルトである。
つまり、このデータは、被曝と子供の先天性異常には関係がないことを語っている。