05.13
2008年5月13日 いまそこにある危機
【危機一髪、でした】
今回の本棚作りに、私は3つの電動工具を使った。電動丸鋸、電動ドリル、電動サンダーである。
電動サンダーにはたいして危険はない。紙ヤスリを留めた部分が高速で細かく振動するだけである。まかり間違って人の肌に押しつけたところで、皮膚の表面がほんのちょっぴり削り取られ、ヒリヒリする程度である。
だから私は、瑛汰にも作業を手伝わせた。幼児は、大人と同じことをすると喜ぶ。
これに比べれば、電動ドリルは多少危険度が増す。なにしろ、先端には穴を掘るための刃が取り付けられている。本体を触っている分には大丈夫だが、刃を着けた状態でスイッチを入れ、その刃が人体に向かうと簡単に穴があく。
私は、連休後半にやってきた長女の長男、啓樹には、電動ドリルを使って木材に穴をあけさせた。3歳半近くなった啓樹には、大人の監視の元なら管理できる危険だと判断した。
電動丸鋸はそうはいかない。高速で回転する鋸に触れた日には、指の1,2本はおろか、手でも足でも簡単に切断されてしまう。少なくとも、手も足も指も揃ったまま暮らしていきたいと願う私にとっては、今回の工作に使う電動工具では、ダントツに危険度が高い。
啓樹にも、ましてや瑛汰にも触らせてはならない。
程度のことは誰しも理解ができる。私も理解した上で作業に取りかかった。安全は何物にも優先する。
が、どれほど注意しても、起きる時には事故は起きる。事故とは「思いがけず起こった災難」(asahi.comの大辞林より)なのである。
作業を初めて2日目の昼近くに起きた事故は、日誌「2008年4月27日 2日目」で簡単に触れた。今回は微に入り細を穿って書く。
作業を始めて2日目の27日は、8時半頃から働きづめだった。10時半頃2階の茶の間で一息入れた。体に過度の負担をかけないため長時間作業は避けねばならない。年の功によって得たノウハウである。
11時過ぎ、3階の作業場に戻った。まだまだカットすべき木材は残っている。
木材を前にして腰を下ろし、体の左側にあった電動丸鋸を右手持ち上げた。作業は朝から続けているのだから、コンセントはささったままである。
一度でも持ったことがある方にはご理解頂けると思うが、電動丸鋸を最も楽に持ち上げるには、上部の持ち手を持つ。親指を上に回し、残った指を持ち手の下に回すと、自然に人差し指がスイッチに触る。
この時もそうだった。そして持ち上げた時、スイッチが入った。電動丸鋸の重みでスイッチが押されたためだ。丸鋸が回り始める。それを気にした記憶はない。
カット作業を継続するには、電動丸鋸を体の右手に持ってこなければならない。電動丸鋸を持った私の右手もそう考えたらしい。私の脳が指令を発する前に、鋸が回転している電動丸鋸を体の右手に移すべく動き始めた。体に染みこんでいる自然な流れだった。
あっ、と思った時は遅かった。電動丸鋸が私の右膝の近くに落下した。持ち方が不十分だったため、滑り落ちたのである。
当然、右手人差し指はスイッチから離れる。そこで電源は切れるのだが、慣性力とは恐ろしいものである。丸鋸は新たなエネルギーの供給を絶たれながらも、激しく回転を続けた。そのままで我が右膝の近くに激突したのだ!
ん? と思った時には、電動丸鋸はコンクリート製のベランダの床に大きな音をたてて落下していた。丸鋸も回転を止めていた。
目を右膝に移した。目を見張った。ズボンの右膝部分が大きく切り裂かれているではないか! それも、一文字に切り裂かれているのではない。ズタズタなのだ。下の写真をご覧いただきたい。何故このような切れ方をするのかは、どう考えても分からない破れ方なのである。
いまはいているズボンが瞬時にズタズタになる。誰しも
「やばい!」
と思う。ズボンに包まれている生足を心配してのことである。
私も、ズタズタになったズボンからのぞき始めた足を心配した。
ズボンがこれだけ裂けるのだ。ズタズタになった繊維とピッタリ密着していた足も、かなりのダメージを受けているのではないか?
確かに、いまはほとんど痛みは感じない。だが、一時的なショック症状に陥っているだけで、後数秒もすれば激しい出血を痛みが襲ってくるのではないか?
恐る恐る、ズボンにできた裂け目から中を覗いた。
あーっ、こんなに!
少ししか傷ついてないの?
我が目に飛び込んだのは長さ2cmほどの傷である。ほんの少し血がにじんでいる。ということは深さ0.1mm程度か。唾でもつけておけば大事はない。
とは思ったが、ま、念のため2階に降りた。ズボンを換えねばならない。ついでに消毒もしておこう。消毒薬を捜していると、妻がやってきて
「どうしたの?」
と問う。ズボンを見せていきさつを話した。
「あれまあ、これズタズタじゃない。ズボン換えてね」
おいおい、コメントはそれだけか? 私の足の心配はしないのか?
しかし、よくよく考えれば、私の足が酷い傷を負っていれば、私が平気な顔をして立っているはずがない。事故の様子を話すはずがない。妻には分かっていたに違いないのだ、傷はたいしたことがないということが。
侮れない女である。
ズボンを換え、作業場に戻った。落ち着きを取り戻し、始めて怖ろしさがこみ上げてきた。
あの時ズボンをはいていなかったら……。
高速回転する丸鋸の刃は我が剥き出しの生足に襲いかかり、皮膚を切り裂き、筋肉を切断し、動脈をスッパリ……。吹き出す鮮血(私の場合は、中性脂肪で濁った血)。慌てて右足の付け根をきつく縛り、救急車を呼ぶ。病院に到着すると直ちに始まる緊急手術。
「おい、出血が多すぎる。輸血の準備を! 患者はO型だ。急げ!!」
なんてことになっていたかも知れない。くわばら、くわばら……。
みんなの願い、作業安全!
ということで、作業は次回から佳境に入る。はずである。
乞う、ご期待!
この稿、続く。