02.14
2010年2月14日 スパコン
新聞もテレビもオリンピック一色である。つまらない。
運動能力が人並み優れた人たちが集まって、さて、世界レベルで自分の力量はどの程度のものか。それを競い合うだけなのに、会社を休んでまで応援に出かけるお金持ちもいれば、眠い目をこすりながら真夜中までテレビにかじりつく中産階級もいる。いや、いまは低所得者層もテレビぐらいは持っているから、彼らもそうかもしれない。
でもねえ、オリンピック選手の関係者なら、勝った負けたが気になることもわかる。金と暇があれば現地に行きたいだろうし、そのどちらか、あるいは両方がなければテレビにしがみつくのも人情だ。
しかし、だ。そのほかの人々にとって、オリンピック選手は見ず知らずの他人でしかない。彼らがカナダの地で競技することが、どうしてそんなに気になるのだろう?
かつてローマ帝国の全盛期、人々はパンと見せ物を支配者に求めたと伝わる。古代ローマの円形競技場コロシアムは、そうした人民に媚びを売って支配を安定させようとした支配者が、人民に見せ物を与えた遺物である。
オリンピックやワールドカップの騒ぎを見るたびにコロシアムを思い出し、
「儲けるのは『大型テレビでオリンピックを』と煽る家電メーカーだけなのに、どうして?」
としらけるのは私だけか?
それともこれは、まだ大型テレビを買えない私の僻みなのか?
と、半ばスポーツ紙と変じた今朝の新聞を鬱々とながめていたら、おや? と思う記事があった。朝日新聞である。2面に
「次世代スパコン 計算違い」
という長行の記事があった。
スーパーコンピューターが一躍有名になったのは、政権を取った民主党が始めた事業仕分けのおかげである。連坊議員が
「どうして世界のトップでなく2位ではだめなんですか?」
とお役人を追及する姿が何度もテレビで流れた。その印象が強烈で、というのは連坊とはなんといやな女か、こんな女には頼まれても一緒にベッドに入りたくない、いや、頼んで来ることもないだろうが、本当に頼んできたらどうしよう? 初志を貫徹できるか? それとも色香に迷ってしまうかか? という印象なのだが、いずれにしても、追究されれたお役人がノーベル賞学者まで担ぎ出して反論し、予算は削られながらも復活したことまで、必要もないのに私は記憶してしまった。年々乏しくなる記憶容量の無駄遣いという気もするが、記憶してしまったことは仕方がない。
その記憶に導かれて、まあ、連坊議員から
「どうして2位ではだめなのか?」
と追及されるぐらいだから、日本のスパコンの性能は世界トップの座を争っているのだと思い込んでいた。
だって、オリンピックではないが、表彰台に上がる実力がない人が、
「科学の世界ではトップにしか意味がない」
といった趣旨の反論をするはずがないではないか。まあ、その程度の実力があるのなら、確かにトップでいることに意味はあるだろう。連坊って、世間知らずの科学音痴? ずっとそう思ってきた。
ところが、だ。朝日新聞によると、日本のスパコン、とても
「トップにしか意味がない」
と胸を張れるようなレベルではない。2002年には確かにトップに立った。ところが04年に米IBMにトップを奪われ、その後ズルズルと後退。いまのトップは米クレイ社のスパコンで、日本製はいまや、中国、韓国にも抜かれて最高のNEC製がで31位でしかない。
31位が
「トップにしか意味がない」
なんて反論できるのか?
しかも、だ。コンマ数秒に何十人もの記録が並ぶスポーツの世界と違い、スパコンの世界には目を覆いたくなる実力差がある。
トップのクレイ社製は1秒間に1759兆回の計算をこなす。5位の中国製が563兆回、14位の韓国製でも274兆回だ。
対する日本勢はというと、31位のNEC製が122兆回、36位の富士通製が110兆回、45位の日立製が101兆回。圧倒的な差である。
オリンピックなら、予選落ちである。
もちろん、主管する文部科学省は米国に抜かれて焦ったらしい。米国に追いつけ追い越せと計画を練り、富士通とNEC・日立連合のシステムを組み合わせて世界一を狙いに出た。ところが、2つのシステムをつなぐ部分が困難を極めたらしく、連結技術開発は手つかずのまま。そうこうしているうちにNECが経営難を理由に計画から撤退した。そこで富士通のケツを叩いて、何とかしろ、と叱咤激励したのだそうだ。
おいおい、最初に作ったフォーメーションが崩れて戦えるの?
と誰もが思う。そのタイミングで事業仕分けが行われた。
こりゃあ、連坊さんではなくても、そんな金いるの? といいたくなるわな。表現の巧拙はともかくとして。
ごめん、連坊さん。この記事を読んで、先に書いた
「なんといやな女か、こんな女には頼まれても一緒にベッドに入りたくない」
の部分は取り消します。そのほかは取り消さなくてもいいでしょ?
それは別として、一連のスパコン騒動の端っから気になっていたことがある。
スパコンの性能を上げるのに、大型システムが必要なの?
いまやコンピューターは並列処理の時代に入っている、というのが私の理解だ。1つだけのCPU(中央演算装置、つまりコンピューターの頭脳)ですべてを計算する時代から、いくつものCPUを並列につないで、分散して計算する方が合理的だ、という考え方だ。1人の能力には自ずから限界がある。1人の能力を限界まで研ぎ澄ますのではなく、仕事を分けて複数でやった方がいい。3人寄れば文殊の知恵、あるいは3本の矢、の現代版でもある。
毎年数百億円もの金をつぎ込んで巨大なコンピューターを作るより、いま手に入る1番高速なCPUを沢山つないで計算させたら?
いやあ、今日の記事を見て驚いた。やっぱりそう考えるヤツがいるんだね。いや、考えるだけでなく、実際にやったヤツもいる。
日本でも大学で研究と実用化が進んでいるようだが、やってくれたのは米空軍である。記事によると、昨年11月、米空軍はソニーのプレイステーション3(PS3)を2200台買う計画を表明した。どうやら、この2200台からCPUを取り出してスパコンに仕立て上げる考えのようだ。PS3がクリスマス商戦で25%値下げされたこともあり、従来のスパコンの10分の1の費用でレーダー画像の解析システムなどを作る、という中身だった。
米空軍が本当にやっちゃったのかどうかは、記事には書かれていない。ということは、計画は中断されたのだと判断せざるを得ないが、いまや世の中はそんなステージに進んでいる。PS3が1台3万円だとして、2200台で6600万円である。ノーベル賞学者までが登場して必要性を訴えた国のスパコン計画に必要な金は年間数百億円。この差は、
「いいこと。あなたはエルメスじゃなきゃいやだっていうけど、あれ100万円するのよ。ユニクロなら同じ防寒機能を持ったジャケットが2000円で買えるの。見た目を気にしなければ、ユニクロで買った方が遙かに合理的よ」
てなものだろう。
久しぶりに溜飲の下がる記事だった。できることなら、連坊さんの発言が問題にされ、ノーベル賞学者らが記者会見して異を唱えている最中に出してほしかった。そうすればもっと違った展開もあったのではないか、と惜しまれる。
昨日は雨と雪で一日閉じこめられた。閉じこめられてもやることは多い。録画済みのDVD-R、ブルーレイを整理していたら、夜までかかった。
今日は朝から買い物、夕方散歩。
これで週5回は長時間の散歩をしているのに、体重がちっとも落ちない。世の中には不思議なことが多い。