08.12
2010年8月12日 寝過ぎ
一昨日は
「回復した!」
と安堵した瑛汰だが、その日の夜から再び熱が上がり、昨夕、とうとう小児科の門を叩いた。
診断は、夏風邪。最初は喉に菌が入って高熱を出し、その菌が嚥下物と一緒に胃腸に降りて胃炎、腸炎を起こしているとの見立てだった。
まあ、そんなところだろう、と思ってはいたが、専門家の見立てで一安心である。
というわけで、瑛汰は胃腸の薬を処方され、昨夕から飲んでいるが、体調の回復は遅々たるもの。今朝は7時頃起きてきたが、朝食もほとんど食べず、終わったら
「ボス、瑛汰眠い」
瑛汰を寝かしつけ、瑛汰が唯一食べたいというミカンを買いに行く。ふと立ち寄った果物屋で、山川ミカンを発見した。私見では、我が国で一番美味しいミカンである。
この時期だから、無論、温室ものだ。1パックに7、8個入って1380円は、決して安くない。が、まあ、夏風邪と闘う瑛汰のためを思えば、ここは金を惜しんではならぬ。
「おじさん、桐生で山川ミカンを入れてるの。これ、俺の生まれ故郷のすぐ近くでできるミカンなんだよね」
「はあ、これは、ほら、本物じゃないから。この季節だから」
「いや、そうじゃなくて、山川ミカンって、一番美味しいじゃないの。それを店に並べてるって、嬉しいなあ。秋になったら、ハウスものじゃないのが並ぶの?」
「これ、大きいから1380円ね。小さい方も味は同じだけど」
「あのねえ、山川ミカン、季節になったら買いたいからさ、秋になったら店頭に並ぶんだよね?」
「ミカンだけでいいの?」
「いや、それはいいんだけど、9月になったら山川ミカンが手に入るの?」
「……、本物はね、年末に出るのよ」
耳の遠いおじさんだった。
帰宅して1時間ほどすると、瑛汰が起きてきた。
「瑛汰、美味しいミカンを買ってきたぞ」
「瑛汰、いらない」
まだ食欲が戻らないらしい。
「じゃあ、ボスと半分こするか」
とだましつつ、ほとんどを瑛汰に食べさせた。とはいえ、ミカン1個である。瑛汰の食欲不振は気がかりである。
「瑛汰、瑛汰が好きな美味しいパンを買いに行こうか?」
パナデリアに出かけた。ほかとは使っている小麦が違う。商売の大半は大手ホテル向けのパンの供給なのだが、何故か人口が減り続ける桐生に販売店を持つ。桐生の大事な店である。
パンの臭いは瑛汰の食欲を刺激したらしい。
「瑛汰、これ欲しい。あれも買う。瑛汰、ぜーんぶ食べちゃうからね。ボスにはあげないからね−、だ。あっかんべー」
いいのだ、瑛汰。ボスは元々、パンは好きでない。でも、そこまで憎まれ口をきくようになったか。嬉しいなあ。
朝寝をして、やっと体調が回復したかと期待した。が、食べたのは、カレーパン少々とソーセージパンひとかけら。とても食事と呼べたものではない。
「瑛汰、眠たい」
午後1時前後には、また寝てしまった。
起き出したのは午後4時過ぎ。熱も37℃を下回り、やっと瑛汰らしさが少し戻った。が、夕食は普段の瑛汰からすれば半分以下。
「もうお腹いっぱい。眠たい」
8時半には寝込んでしまった。
寝込んだ瑛汰の身体をいま触ると、熱は平熱である。風邪の菌との戦いには勝利したらしい。いまは、戦いの過程で失った体力を回復している途中か。
明日の朝、遅くても昼には、あの元気で食欲旺盛で理屈っぽい瑛汰が戻ってくるはずである。
で、何故、寝過ぎ?
瑛汰の眠りには、すべて私が付き合う。
昨日の昼寝も、今日の朝寝も昼寝も、そして夕食後の眠りも
「ボス、眠たい。ボスと寝たい」
で始まった。ほかならぬ瑛汰の望みである。ボスとして、すべて誠実に付き合う。一緒に布団に横になり、腕を貸す。瑛汰は腕枕で眠りに入る。
すぐに寝てくれればいいが、まあ、このところ15時間から18時間寝ている瑛汰は、すぐには眠りに落ちない。
瑛汰が眠りに落ちるまで、横に寝て腕を貸す。抱きしめる。
間違ってはいけない。腕を貸すのも抱きしめるのも瑛汰である。私好みのうら若き女性であればほかにやることもあるだろう。いま元気にならなければいつ元気なるんだ、と逸りもするだろう。
が、腕の中にいるのは瑛汰だけである。そりゃあ、うとうとするしかありませんって。
というわけで、寝過ぎなのは実は私なのである。このところ、1日10時間前後寝ているのではないか?
時折寝付けない夜もあって、眠りを求めて四苦八苦し、
「不眠症か?」
と自分を疑うこともあるというのに、瑛汰と横になっているとどうして眠りの世界に誘われるのか?
今日も2度3度うたた寝をした。
さて、私は今晩、眠りにつけるのだろうか? それとも、不眠に苦しむのだろうか?
まあいい。
瑛汰、明日の朝御飯は沢山食べような!