02.26
2011年2月26日 確定申告
というヤツに、昨日行ってきた。
といっても、私が高額所得者だから確定申告するのではない。年金生活者だから、確定申告をするのである。
なんでも、2つ以上のところからお金をもらうと、確定申告をしなければならないらしい。私は年金生活者である。厚生年金から、年額42万円足らずのお金をいただいている。いや、いただいているのではない。もとはといえば私の金である。これまでかけ続けてきた金が少額ずつ払い戻されているに過ぎない。
会社からは、年額220万円強のお給金をいただく。
加えて、
「年金が満額支給されるまでは暮らしが大変であろう。その分を補填するための金を積み立てなさい」
と、会社に半ば強制的に積み立てさせられた金が戻ってくる。
さらに、会社の企業年金がある。
こうして、私は4カ所から金をもらう立場である。確定申告に行かざるを得ないのだ。
4カ所からもらっているとはいえ、収入総額は現役時代の半分にも満たない。ということは、所得税は大幅に下がるはずである。おまけに、昨年1年間で21万7000円もの医療費を払っている。1年間で10万円以上の医療費は所得控除の対象となる。
収入総額ががた減りしている一方で、所得控除はかなりある。それぞれの収入からは所得控除されており、すでにかなりの額の所得税を支払い済みである。
「おい、銀行の通帳をくれ。還付される税金の振込先を書かねばならん」
妻に通帳を用意させ、私は税務署に向かった。昨日朝、9時前のことである。
早めに駆けつけたのがよかったのか、税務署は好いていた。待つほどもなく、パソコンの前に誘導される。これがeタックス、電子納税というヤツなのであろう。
横についた女の子の指示に従い、持参した源泉徴収票などをもとに数字を入力していく。このパソコン、動きが悪い。
「ねえ、ポインタが思うように動かないんだけど」
見ると、中にゴムボールが入った一昔前のマウスである。これは、きっとゴミがたまって動きが悪くなっているのに違いない。分解してボールを取り出し、中のゴミをこそぎ取る。
私は確定申告をしに来たのか。それとも、パソコンの整備をしに来たのか。
ゴミはおおむね取った。ボールを元に戻してマウスを操作するが、やっぱりポインタの動きがおかしい。
「これじゃ操作できないよ」
「申し訳ありません。このパソコン、レンタルなんですけど……」
女の子が申し訳なさそうに説明する。
「税収不足で予算をけちったんじゃないの? だから、こんな一昔前のマウスが着いたパソコンしか来ないんだよ」
向こうから、別のマウスを持ったおじさんがやってきた。
「申し訳ありません。これを使ってください。こっちなら大丈夫だと思うのですが」
最近の徴税吏はやたらと腰が低い。こんな連中ばかり見ていると、威張りくさって金をふんだくっていく、映画やテレビドラマに出てくる徴税吏に会ってみたくなる。会って、ぐうの音が出ないほど痛めつけてやりたくなる。
まあ、それはよい。動きを回復したパソコンに数字を入力し、指示通りボタンを押す。また数字を入力して、ボタンを押して……。
「えっ!」
申告納税額、11万5000円。
何! 新たに11万5000円も税金を払えだと?!
「これ、おかしくない? どっか間違ってないか? だって、私は一昨年の5月に定年になって所得は激減したのである。昨年の確定申告では、まだ現役時代の収入が5ヶ月分あって収入総額が膨れたから、まあ、多少は払ったんだけど、こんなに所得が減って、医療費に20万円以上払っていて、さらに所得税を追加して払えってか? 納得できないね!」
女の子は慌てた。彼女はアルバイトだったのであろう。手を挙げると、中年のご婦人を呼んだ。
「この方が納得できないとおっしゃっているのですが」
やってきたご婦人はアラフォーであろうか。細面の方である。当節流行のマスク着用なので、美しいかどうかは不明である。が、この際、美しいかどうかは問題ではない。問題は税金の額である。
彼女は電卓を取り出すと。私が持参した書類の数字を打ち込んで計算を始めた。電卓のディスプレーに表示された数字と、パソコンのディスプレー上で、私に11万5000円払えといっている表を点検する。
しばらくすると、いった。
「あのー、計算に間違いはないようなのですが……」
「だとすると、どこか基本的なところに間違いがあるんじゃないの? とにかく、私は調べてみる。だから、作業はここまで進んだが、今日は申告しない。自分で調べて納得してから改めて手続きに来る。それでいいですね」
そう言い置いて税務署をあとにした。
が、である。税金とは複雑なシステムである。どこをどう調べたら、私の負担すべき税額が分かるというのか?
ふむ、困った……。
いろいろ考えた末、会社に頼ってみることにした。あまり頼りたくない相手ではあるが、しかし、それなりに大きい会社である。ひょっとしたら専門の知識を持った社員を養っているのではないか?
「というわけで、税額が多すぎるのではないかと。ちなみに、私の収入は、送られてきた源泉徴収票などから見るとこれだけで、控除額がこれだけあって」
「確かに、税金が多すぎる気がしますね」
おーっ、分かってくれたかね。そうだろ、やっぱり、俺、こんなに沢山税金を払う必要ないだろ?!
「ただねえ、私も税制の専門家ではないので、どこがどうといわれても困っちゃうんですよ。もう1回税務署と掛け合ってみてらどうですか?」
えっ、いただけるアドバイスって、それだけ? 掛け合うっていっても、掛け合うだけの材料がなければ掛け合いにならないんだがなあ。
「あまりお役に立てなくて」
確かに。
仕方なく、私は、送られてきた源泉徴収票ほどの収入があったのどうか調べようと思った。すべての収入は銀行口座に振り込まれる。これほどの収入が本当にあったのかどうか、銀行に振り込まれた額を見ればわかる。
「おい、銀行の通帳を持ってこい」
わが妻女殿がキョトンとした顔をした。ん? 俺の話、通じているのか?
「ないわよ」
銀行の通帳がない?
「横浜の娘のところに預けてあるから」
どういう必要があって通帳が預けられたのかは理解できぬが、まあ、手元にないということだけは理解できた。
では、どうする?
考え込んでいたら、会社から電話があった。先ほど私の相談相手になったお兄ちゃんである。
「公的年金控除って知ってますか?」
いや、知らない。
「年金収入は控除が受けられるんです」
でも、税務署からもらってきた書類には、そんな項目はないぞ。
「でしょ? きっとそれですよ。公的年金控除をきちっと申告すれば、貴方の場合は税金の還付が受けられるはずです」
それはいいことを聞いた。だけど、そんな制度があるのなら、税務署で説明するはずでは?
「あいつらは知らん顔をするのです。納税者が知らなければ控除なしで課税する。そちらの方が税収が増えますからね。知っているいる納税者には、渋々控除を認めるのです」
それはけしからんことである。そして、その制度があることを知ったことを慶賀すべきである。知は力なり、ってか。
「ただ、私もあまり詳しくないので、あとはネットで調べてください」
分かった。ありがとね。税金の還付が受けられたら、お酒でもご馳走したい気分だよ!
ネットで調べた。確かに、その制度はあった。年金収入の一定割合プラス定額が控除額となる。
「ということなんですけど、今朝方うかがった時に、公的年金控除なんて説明も受けなかったし、きちんと控除していただけたら、私は税の還付を受けられると思うんですが」
と税務署に電話をした。税務署員の受け答えはあくまで丁寧だった。
「ああ、左様ですか。それは申し訳ありません。ところで、年金収入額はお幾らになっておりますか? なるほど。そこで、年金所得額はどうなっておりますか? ははあ。分かりました。それはきっちり控除されております。えっ、税務署にお見えいただいて、パソコンで数字を入力していただいた。だったら間違いありません。収入額を入力していただければ自動的に控除額を計算して所得額を出すようになっておりますので。はい」
電話を切り、自分で電卓を持ち出して計算した。確かに! 1円の単位まできっちり合っていた。だったら、あの会社のお兄ちゃん、何を教えてくれたの?
顛末を電話で伝えた。
「そんなことはありません。あいつらが自動的に控除しているなんてあり得ません!」
このお兄ちゃん、税務署に恨みでもあるのかな? もっとも、税務署に恨みがない人を探す方が難しいかも知れないが。
いろいろ調べた。だが、11万5000円を減額する方策は見つからなかった。
くそっ! と思いながら、週明け、納税申告に行く。
考えてみれば、これから死ぬまで毎年、税務署との戦いが続く。これまでサラリーマンで納税申告などほとんどしたことがなかったら感じなかったが、こんなことを毎年やっていたら、
税金のかからない金
が欲しくなるよなあ。心から。
どっかにないかね? 誰か、プレゼントしてくれませんか?