05.14
2012年5月14日 ヨーダ
「これは買わねば」
と思ったのは先週末、朝日新聞の夕刊を見ての感想だった。そこにはこうあった。
「映画『スター・ウォーズ』シリーズのキャラクター『ヨーダ』が、あなたのパソコンを守りにきたよ! 『スター・ウォーズ ヨーダ USBデスクプロテクター』(3980円)は、台座にセンサーを搭載。パソコンにつなぐと2~3メートル以内に人が近づくのを感知して、『侵入者そこにあり』なんて意味のセリフを英語で発しながら、武器『ライトセーバー』を光らせて教えてくれるんだって。セリフは6種類で、出ないようにもできるよ。高さは23センチメートル、 台座の直径は9.5センチメートル」
いかがであろうか。この紹介記事を読んで、あなたの財布の紐は緩まないであろうか? あのヨーダだぜ! ヨーダが、パソコンに接近する敵を追い払うんだぜ!
私の財布の紐は呆気なく緩んだ。何しろ、我がファミリーではいまだにスター・ウォーズ熱が続いておる。中核は四日市の啓樹と、横浜の瑛汰である。
「これは、2人に買ってやるしかないだろう」
私の財布の紐は、かくも簡単に緩むのである。
金曜日、ネットで探してみた。anazoneで扱っていた。価格は新聞に載っていたとおりであった。よく売れているらしく、在庫は3個とあった。啓樹と瑛汰に1個ずつ送った。当然のことながら、在庫は1個になった。
翌日、啓樹からは電話があった。
「すごいね、これ。なんか、英語でしゃべるよ」
「啓樹は英会話の塾に行ってるから大丈夫だろう」
「うん、大丈夫だよ。ありがとね」
このヨーダ、次の6種類の話をするらしい。
・Still much to learn, you have.
(まだ学ぶべきことが多いぞ)
・ Rush not into fight. Long is the war. Only by surviving it, will you prevail.
(戦いを急ぐ出ない。戦とは時間がかかるものだ。生き残ることによってのみ、勝てるのだ)
・ Retreat! Cover you, I will.
(撤退せよ! わしが守る)
・ A disturbance in the force there is.
(侵入者がおる)
・In the end cowards are those who follow the dark side.
(つまり、臆病者とはダークサイドに落ちる者のことじゃ)
・ So certain of defeat, are you? hmmm
(負けたというのか?)
らしいが、個人的にすべて確かめたわけではないし、それはどうでもいいことである。とにかく、啓樹に送ったものは正常に作動した。
で、瑛汰は?
「お父さん」
と電話を寄越したのは次女であった。土曜日夕刻のことだ。
「荷物が着いて瑛汰が喜んじゃってね、ドライバーを使って段ボールを開けたらしいの。そしたら、勢いがつき過ぎちゃって、コードをちぎっちゃったのよ」
段ボール箱を開封しようとして、USBのコードを切断する。よくある事故なのか、前例のない事故なのか。いずれにしても、コードが切れてしまえばパソコンにつなぐことはできない。つまり、瑛汰に届いたヨーダは単なるフィギュアに過ぎず、侵入者を見張ることはおろか、ライトセーバーを光らせることも、侵入者に向かって声をかけることもできない。ただのデクノボーである。
「コードは完全にちぎれているのか?」
「うん、完全にちぎれてる」
さて、USBのコードの中には、何本の線が入ってるのだろう? 1本か2本ならつなげば済む。しかし、5本も6本も入っているとなると、結線するのも難しい。
「そのちぎれたコードの中に、何本配線されてる?」
「うーん、1本かなあ」
いや、いくら何でも1本ということはなかろう。単線では情報のやりとりはできないはずだ。が、いずれにしろ、少ないらしい。
「俺のところに送ってみろ。修理できるものなら修理して送り返すから」
届く前、密かに心配した。治せればいいが、治せなかったら? 瑛汰の失望は深いだろうから、だったらもうひとつ新しいのを買って
「治ったぞ!」
と送るか?
再びamazoneにアクセスしてみた。在庫ゼロだった。ネットで検索した。価格が5250円に上昇していた。今朝方検索したら、その5250円も在庫ゼロとなっていた。
私と同じような人間が何人かいるらしい。
かくして本日昼前、その、単なるフィギュアと化したヨーダが我が家に届いた。早速開封した。見事にコードがちぎれている。付け根からではなく、途中からちぎれているということは、よほどの力をかけたに違いない。それほど楽しみだったということか、瑛汰。
そいうえば、事故を聴いた我が妻殿がおっしゃった。
「この100点の答案、誰のだ? 名前が書いてないぞ! って先生が言う答案を、瑛汰だったら出しそうだね」
関連性がよく飲み込めぬが、ひょっとしたらそうかも知れぬ。が、私は、名前を書かなかった過失より、100点を取った才気に拍手をしたい人間である。人間、誰しも欠点はある。その人間たちは、欠点を補うより、長所を伸ばした方がよほど成長する、と私は思う。
ま、それはそれとして、私は早速修理を開始した。
カッターナイフを使い、細いUSBコードの皮をむく。アルミ箔のようなキラキラしたものに包まれた配線が2本見えてきた。どちらも単線ではなく、髪の毛より細いと思われる微細な線の束である。キラキラした覆いをハサミで慎重に切り取り、2本の配線を分ける。その上で、半田ごてで、切れた部分を半田付けした。このままではショートする恐れもあるので、2本の配線の間にビニールテープを差し込み、片方の配線を完全に覆う。さらに、コード全体をビニールテープでグルグル巻にする。
所要時間、15分。
仕事時間中の出来事であった。
できる修理は、とりあえず終えた。これで治らなければ、私の手で直すことはできない。
私のパソコンにつないだ。
やや、つないだ直後から、ヨーダは元気にライトセーバーを光らせ、何やら声を発するではないか。離れれば止むが、再び接近すると同じ行動を繰り返す。
我が妻女殿も、ヨーダへの接近を試みられた。
Still much to learn, you have.
ふむ、さすがにヨーダ。接近した者を読み切ってメッセージを発する。もっとも、聞き取りにくい英語だから、妻女殿に通じたかどうか。いや、明瞭に聞こえたとしてもどうだったか?
夕刻、瑛汰に電話をして修理が完了したことを伝えた。
「ふーん、治ったの」
届いても、自分で開けずにママに開けてもらうんだぞ。もう一度壊れたらボスでも治せないかも知れないからな。
「わかった」
瑛汰、何となく生彩がない。大好きなヨーダを壊してしまったショックがまだ続いているか?
瑛汰、明日届く。大好きなヨーダだ。大事にしろよ!