03.09
2013年3月9日 鬼の霍乱
ちなみに、これ、「おにのかくらん}と読みます。普段、ほとんど病を受け付けない頑健な人が病気になることをいいます。
ここで、鬼とは私のこと。そう、あろう事かこの私が、昨日から腹痛で苦しんでおるのであります。
ま、年齢も年齢だけに、自分を鬼に例えるのはいかがかとも思いますが……。
始まりは7日、木曜日の夜だったような気がする。
この夜、私は1996年のアカデミー賞視覚効果賞受賞作
「インデペンデンス・デイ(INDEPENDENCE DAY)」
を見た。SFというか、荒唐無稽なアクション物と切って捨てるべきか、まあ、評価はいろいろあっていい。要は地球外からやってきた宇宙人が地球制服を志し、それをアメリカ合衆国大統領を中心とした地球人(正確に言えばアメリカ人)が撃退する、というお話である。
あらすじなどどうでもいいのだが、驚いたことが2つある。
現職のアメリカ合衆国大統領が、何と自らジェット戦闘機に乗り込み、宇宙人が乗ってきた宇宙船を果敢に攻撃する。彼の一撃は、残念ながら敵を殲滅することはできなかったが、
「ほう、アメリカ人てのは、この手の、いざとなったら体を張って国を守る、ってヒーローが好きなのね」
と思わせる一幕である。ま、彼の活躍もあって、地球は無事に守られたから、恐らく、その後のアメリカでは、大統領は2期8年を限度とするというルールが変わったに違いない。もちろん、彼を終身大統領にするためである。
こちらのほうが驚きが大きかったのだが、宇宙人の宇宙船を壊滅させたのは、なんと、ジェット戦闘機による体当たりであった。そう、日本が生み出した究極の戦法、「カミカゼ」なのだ。
零戦に爆弾を抱き、片道分だけの燃料を積み込んで敵の航空母艦、戦艦に体当たりする。人が操縦する爆弾と化した零戦を、当時のアメリカ人達は
“Crazy!”
と評した。
ま、確かに、正気ではとても採用できない戦法ではある。しかし、切羽詰まればアメリカ人だってやっちゃうんじゃん! それを、国を救う、いや地球を救う英雄として讃えるんじゃん!!
人間なんて、詰まるところは同じようなものらしい。日本のカミカゼを
“Crazy!”
と言ってのけられた当時のアメリカ人は、そこまで切羽詰まっていなかっただけなのである。
あ、映画の話が長くなった。話を腹痛に戻す。
この映画、2時間25分と、かなり長い。見終えたのは12時近かったと思う。それから布団に入って寝たのだが、何だかおなかが張って仕方がなかった。妊娠したはずはないのに。
「食べ過ぎたはずはないが……。何か、消化の悪いものでもくったかなあ」
軽く考えて、そのまま眠ってしまった。
そして金曜日の朝。目覚めとともに悪寒を感じた。
「ん? 熱がある?」
朝食を済ませ、念のために体温計を脇の下に挟んだ。が、何度測っても、36.5℃。平熱である。では、この悪寒は何なのだ?
おまけに、全身がだるい。体を動かす気力が出ない。
「ちょっと体調が悪いから、午前中は家にいるわ」
着替えを済ませて居間のリクライニングチェアにどっかと座り込んだ。座り込んでもなにもやることはない。朝から映画を見る気にはならない。そもそも体調が悪いのである。テレビといっても、夜でもろくな番組はないのだから、こんな時間にまともなものが見られるはずはない。
ボーッとしてると眠気がくる。うつらうつら……。
「お昼ご飯ができたけど」
妻女殿が声をかけてきた。体を食卓に移動する。昼食は鍋焼きうどんである。
「食欲ないなあ」
「残してもいいから」
半分ほど残して、またリクライニングチェアに戻った。仕事に出かける気力はない。今度は本を取り出し、チェアをほぼフラットにして読み始めた。1時間ほど読むと、また眠気。うつらうつら。ふと目を覚まし、また読書。眠気。うつらうつら。
「晩ご飯どうする?」
「食欲ないわ」
晩飯はおかゆ一膳に梅干し、おかか。もちろん、晩酌なし。
やることがなく、いや、本当はやりたいことはたくさんあるのだが、やる気が起きず、また映画。
「モハメド・アリ かけがえのない日々(WHEN WE WERE KINGS)」。1996年のアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞。
カシアス・クレイ、改めてモハメド・アリとジョージ・フォアマンの世界タイトルマッチのドキュメントである。圧倒的に不利と予想されたアリは、どうやってフォアマンをマットに沈めたか。
怪物フォアマンを恐れながら、一方で冷静に勝てる戦法を考えるアリ。
アリは英雄であり、天才である。
そういえば、こんな挿話があった。
アリがハーバードに招かれ、講演した。その時、生意気な学生の一人が、
「世界で一番短い詩を聞かせて欲しい」
とリクエストした。ボクサー風情がハーバードで講演? 脳みその軽さをあぶり出してやるぜ、とでも考えたか。
アリは、悠然と話した。
“Me, We.”
生半可な知性では、こんな言葉は吐けない。あの学生はぐう音のも出なかったはずだ。
それだけでは時間が余り、ついでにもう1本。「Emma エマ(EMMA)」。同じ年の音楽賞(オリジナル・ミュージカル/コメディ)受賞作である。
下らん。
「あの人はあの人が好きで、でも、あなたにはあの人はあわないから、別のあの人がいいわ。この人は別のこの人と一緒になった方がいいし、ああ、あの男はだめよ。それよりもっとすてきな人がいるわ。私がくっつけちゃうわ」
なんて、男と女の関係にしか関心が持てない、程度の低い女子高生並の会話と行動が延々と続く。階級社会のイギリスのことであるから、それに身分が絡んできて、
「だめだめ、あの人はいい人かもしれないけど、農夫じゃないの。そんなのだめよ。もっと家柄を考えなきゃ」
あー、アホウは日本の、下らぬ女子高生ばかりかと思っていたが、あのくだらなさは世界標準であるらしい。
しかし、いい歳こいた大人のダグラス・マクグラス(この映画の監督。えーっと、年齢は知らない)は究極のロリコンか?
と憤りながら布団へ。おかゆ1膳の夕食だけに、そのうちおなかが鳴るのではと心配したが、何の変化もなし。私のおなか、まだ悪いらしい、と思いつつ就寝。
「しかし、こんな暮らしが1週間も続けば、ポッコリおなかも引っ込んで、すてきなボディが復活するぞ。それもいいかも」
と寝しなに考えるのはゆとりの表れか。
原因はどう考えても思い当たらない。ひょっとしたら、加齢によって体が徐々に壊れつつあることの表れかもしれないのに、気楽なものである。
今朝は幾分、気分が改善した。朝食は普通に、昼食はいつもの半分の蕎麦、夕食は晩酌抜きで、これもいつもの半分。現在8時半を過ぎたところだが、別に空腹で困ることはない。
我がおなか、まだ万全とは行かないようだ。
しかし、今日は終日働いた。映画のデータベースの整理である。
実物とデータベースを付き合わせ、並び順を確定するともに、アカデミー賞、カンヌ国際映画祭などの受賞作でありながら、以前整理したときに漏れていたものの抽出など、やることはやまほどある。結局、夕方までパソコンの前に座りっぱなし。まだ終わっていない。
ま、こんな根を詰めた作業ができるくらいだから、体調は徐々に戻りつつあるのだろう。
明日は日曜日。汚れに汚れた愛車を洗ってやろうと思っている。